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「見つけた!ここじゃ!」

神奈川県全域に広げられた久男の霊力は、見つけられない場所以外、くまなく広げられた。

つまり、広げられなかった場所が翔馬の居場所である。久男は探知出来ないことを逆手にとったのだ。

「みつを、ワシの体を見とってくれ」

「分かっておる!」

そういうと久男の体から魂が抜けた。

幽体離脱である。

霊体となった久男は霊力の塊であり魂でもある。

人間の肉体では限界があるが霊体となった久男にはその限界は存在しない。久男のような老体でも霊体となった今では霊力そのもので活動することが出来るのだ。

「みつを、恐らく今翔馬の近くにいるのはとんでもない化け物じゃ。わしの体が乗っ取られんようしっかり見といてくれ」

幽体離脱の唯一の弱点、それは使用者の霊体が離れているときに他の霊によって体を乗っ取られてしまうことだ。久男のような高い霊力を持つものならばある程度のプロテクトが掛かっているため体が乗っ取られることは少ない。だが魂の抜けてしまった体というのがこれ異常ないくらい無防備なのは明白だ。ましてや、今回の様なヤバいなにかとやる時には警戒が必要だった。

「まかせておけ、わしがしっかり見張っとる」

そのためにみつをがいる。

みつをは結界師だった。みつをは結界の対象物を相手に気付かれなくすることが出来る。本当にそこに何もないかのように。その他にも多くの結界を張ることができ、この二人によるコンビネーションはバツグンだった。

「どんな化け物か知らんが、相当やばいやつのようじゃ。気をつけろよ、久男」

「ああ、待っとれよ翔馬」

霊体となった久男はそう言うとその場から一瞬で消え去った。


「何にもないなー……」

長い長い階段を上がってきたが、たどり着いた場所は全くの空き地だった。

周りには木が生い茂っているのに対し、何故かこの場所だけが草木が生えていない。

こう何もないと翔馬は退屈になってくる。

「つまんないのー、こんなんじゃ秘密基地になんないよ」

そう言って来た道を戻ろうとした時、異変に気付いた。

「あれ、階段がない……?」

さっきまで登って来た長い階段はどこにも見当たらなかった。

翔馬はそのまま林の中に入り階段を探す。

だがどこまで探しても階段は見つからなかった。

「……はあはあ、あれ?」

確かに進んでいた筈なのに、翔馬はまた空き地に戻っていた。

「またここだ……!」

翔馬は取りあえず戻ろうと思い林の中を走り抜ける。

だがたどり着いたのはあの空き地だった。

「なんで!?」

それから何回も試してみたが、結果は同じだった。

「なんで出られないんだ……?」

もう一度林の中に入ろうとしたその時、翔馬の後ろに何者かの気配を感じた。

それと同時に翔馬はとてつもない悪寒を感じ、とても振り向こうとは考えられなかった。

「……」

翔馬は子供ながらに、それが人じゃないとハッキリ分かった。

よっちゃんが言っていた幽霊はこれの事だろうか。不意に思い出し急に怖くなる。

(おじいちゃん……)

そう翔馬が念じると、さっきまであった不気味な気配はスッと消え去った。

(消えた……)

安心した翔馬は空き地の方へと目をやった。

だがそれが翔馬を恐怖へと突き落とすこととなった。

空き地の丁度真ん中辺りに黒い影がじっとこちらを見つめている。

翔馬はそれがなんなのか分からなかったがつい気をつけて見てしまう。

人にしてはずいぶん大きい。3メートル程はありそうだ。よく見ようと目をこする。

「うわあっ!」

翔馬が目を開けた時、驚いて思わず声がでてしまった。何故ならそいつは目をこすっていた間にいつの間にか翔馬の正面にまで迫ってきていたのだ。

そいつは背中を向けている様だったが明らかに人間ではなかった。全身が猿のような真っ黒な毛で覆われていて何かブツブツ呟いているのが聞こえる。

(おじいちゃんおじいちゃんおじいちゃん……!)

翔馬は必死に助けを求めようとするが、目の前のコイツが恐ろしくて声が出ない。

すると背を向けていたコイツは段々と翔馬に振り返っていた。

「……ナイ……クナイ……ラナイ」

ブツブツとした声が段々はっきりと聞こえる様にもなってきていた。

怖い怖い怖い怖い!

いったいコイツは何なんだ?

その顔は一体どんな顔をしているんだ?

見たくない!

振り向くな振り向くな!


「コワクナイ……イタクナイ……タスカラナイ」


ソイツは遂に翔馬と向き合った。

瞬間、翔馬は全身から一気に血の気が引いたのを実感した。

赤ん坊だ。

ソイツの顔は人間の赤ん坊の顔だった。

だがその表情には全く色がなく、完全なる無表情であった。

全身を毛で覆われ、体長は3メートルは超えていて、その顔は赤ん坊。

不気味。それはあまりにも不気味で小学生1人黙らせるには十分すぎた。

「コワクナイ……イタクナイ……タスカラナイ」

コイツの言ってることもわかった。だが理解は出来ない。

声は合成音声のような色々な声が混じっている様な、気味が悪い声だった。

翔馬が見ていた戦隊シリーズの悪役の声に少し似ていた。

このままだと絶対にヤバい。

翔馬は声を振り絞り勇気を出して叫んだ。

「助けて……」

「タスカラナイ」

「おじいちゃん助けてー!」

言うが早いか、突如翔馬の前に旋風が巻き起こった。

バゴォオン!!

とてつもない音がしたかと思うとアイツが目の前からとてつもない勢いで真横に思い切り吹っ飛んでいった。

しりもちを付いた翔馬の目の前にはアイツの変わりに誰かが立っていた。

さっきまでの不気味な感覚とはまるで違う。

体の中が熱くなっていくのを感じた。

それはよく知った顔の老人だった。

「将馬ー!大丈夫かぁー!!」

「おじいちゃーん!!」

久男、ここに現る。

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