リカ、“とんでもない宝物”を見つけちゃう!!
『リカオン』
英名:Wild Dog (Lycaon) 学名:Lycaon pictus食肉目 イヌ科
かつてはアフリカ大陸全域のサバンナ、疎林に生息していたが、
伝染病や環境の悪化で極端に数が減少した。
現在は2000頭程度がボツワナ北部からジンバブエ東部の保護区、
南アフリカのクルーガー国立公園、タンザニア南部のセルー、ルアハ国立公園に
生息しているのみで、絶滅の危機に瀕している。
ハンティングの成功率は85%といわれ、
時速50~70Kmで2時間近くも獲物を追跡できる“アフリカの狼”は
かつて大陸で最強の肉食獣であった。
「ねえソーニャ、どうしてこんなことしたの? 私、見てられなかった」
「ありがとう、ミラ」
「ララもそう思ってる。ミラみたいに言葉にはうまくできないけど、ララも同じ気持ちだよ。それにこれから『怪物の羽』を取りに行かなくちゃいけないなんて……」
まったく同じ顔をした、ふたりの少女が、
まったく変わらない表情でソーニャを見上げる。
片方が話し、もう片方は常に黙って聞いている。
俺とソーニャは、この双子と思われる姉妹の後を従順についていく。
奥に進むにつれて、坑内は次第次第に不気味さを増していった。
「ミラ、ララ」
先導する双子が足を止める。
「ふたりは戻りなさい。ココはもう、恐ろしい“怪物”のナワバリだから。あなたたちが付いてきてくれて心強かった。本当にありがとう。ミラ、ララ」
「……うう。やっぱりダメッ、ソーニャ! ララと一緒にもう一度、ミラがルチに頼んであげる! だからソーニャ、もう少しだけ待って。だってソーニャが奥に居る“怪物”に食べられちゃったら……」
「私は大丈夫。それに、“リカ”も居る」
すると双子はすがるような瞳を同時に俺へ向けた。
「だから、ミラもララも安心して。必ず『怪物の羽』を持って帰ってくる。その時は、おかえり、って笑顔で言ってちょうだい。それが私の“望むこと”。さあ、行きなさい」
双子は去って行った。
何度も振り返っては
黒髪の少女を心の底から案じているようだった。
「カラダは大丈夫なのか」
消えていく足跡を見つめていたソーニャは瞬時に我に返り、
驚いたように俺を見やる。
「わ、私は大丈夫です! それよりもリカ……説明もしないまま、こんなところまで付き合わせてしまって本当にごめんなさい」
「依頼の報酬は、その“怪物”とやらの巣の中か?」
「え? ……そこまで分かりますか」
「詳しい内容は確認が済んでからだ。ムダな話は聞きたくない。俺は大人だ」
「そうでしたね。私たちと違って、リカはやっぱり“大人”だ」
彼女の顔が引き締まる。
「そこにあるモノは、リカが“望むものを手に入れるだけの価値”があります」
黒髪の美少女は言いきった。
手に入れるだけの価値がある――ということは、
奥にあるのは換金が必要な貴重品。
パッと思い浮かぶのは
鉱石マニアが思わずヨダレを垂らしてしまうような
〈輝石〉の類。
しかし、それだけではない気がする。
「奥へ」
闇が深く、濃くなっていく――
壁際を走る裸導線の本数も比例して増えていく。
実はココに来るまでに、小型の家庭用発電機を三台も見かけた。
これは異常だ。
完全に素人の域を超えている。
それだけ莫大な電力を消費する“なにか”をやっているのだ。
『怪物』とは、よく言ったものだ。
その正体を知っているのはきっと、ごく限られた子供だけ。
あとは知らないだろう。
大半は本当に、この奥に『怪物』が居ると信じて疑わないはずだ。
このソーニャってガキは、とんだ食わせ者かもしれない。
機械音が強くなる。そして、なぜか“暑い”。
坑内の温度がいつの間にか上がっている気がする。
「リカ、待ってください。先に私が行きます。私が呼んだら、その後で来てください。決して驚かさないように、ゆっくり、静かにお願いします」
俺はうなずいた。
ソーニャは歩き出す。
歩きながら彼女も、額に噴き出る大量の汗をぬぐう。
やはり奥はもっと暑いようだ。
――と、まばゆいばかりの光線が襲う!
ギュッと閉じた瞳をようやく細くした時、
ソーニャの影が光の中へ消えた。
そして一瞬のうちに周囲は、なにもなかったように元の暗闇に戻る。
そうか。
あれは暗幕だ。
奥の様子が外からは見えないように、ぶ厚い覆いをしてるに違いない。
それからしばらくして「リカ」と俺を呼ぶ声が遠くでした。
またしても、まばゆい光の中からソーニャは半身を出す。
そして彼女は俺を、その『怪物の洞穴』へと招き入れる。
輝かしい光の洪水にのまれる。
いくつもの押し寄せる、神々しい白い波に身を任せ、
やがて俺は“ソレ”を見た。
「これは……」
誰だって絶句する。
言葉なんかいらない。
邪魔なだけだ。
「ずっと大切に“育てました”。市場での価値は、おそらく“金貨百枚”はくだらないと思います」
驚いたのなんのって。
富裕地区・一番街【ヴィーダー・ストリート】でもお目にかかれない。
それどころか俺は生まれてから、
こんな“偉大な存在”を目にしたことはない。
それは正真正銘の希少品だった。
こんなのを実際に見てしまうと
俺だって〈神〉ってヤツを信じたくなる。
俺の前に現れたのは、大地に深く根を張り、
青々とした葉を茂らせる〈大樹〉だった……。