リカ、地下へ!!
「こっち」
人気のない裏通り。
「この上」
雑多な人種が入り混じる往来の、外れかかったフェンスの向こう側。
ネコだってもっとマシな道を選ぶ。
「ココ」
崩れかかったカビ臭い廃屋を通り抜ける。
ソーニャの服が汚れる理由が、なんとなく分かる気がした。
「この下」
「マジか!」
おそるおそるコートを見ると
それはもう……悲惨なほどに真っ白く染まっていた。
どうやらジョークではないようで、
ソーニャはまったく変わらない表情で俺を
“その場所”へと真剣に案内しようとする。
こんなに気分が落ち込んでいく仕事も珍しい。
依頼の内容を知らず、身なりにそぐわない手付金と、
成功報酬に強い興味をそそられて、ココまでホイホイ付いてきた俺は、
きっと“ヘンジン”だ。フツウの人ではないと思う。
そして足を止めたソーニャが、なんのためらいもなく、
そこにあった廃屋の床材をベリベリ引きはがす。
――とその瞬間、まるで破裂したかのように噴き上げた温風が、
部屋中にみるみる充満し、
ホコリまみれになった俺のコートをバタバタとはためかせる。
「この先なにが待っていたって、俺はもう驚かないぜ」
「この水道は私の家まで続いています。リカが想像するようなことは、なにひとつありませんから安心してください」
小さな導き手が誘う楽園への入り口は、
果実の甘酸っぱい腐敗臭を漂わせていた。
「ようこそリカ。あなたを私たち“家族”は歓迎します」
遥かなる〈地底〉の旅。
そんな名前のチープな映画が昔あったような。
靴を脱ぐスタイルじゃなくて安心したよ。