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サンドロック  作者: 中田 春
灰色のシンデレラ
35/115

リカ、見てるだけッ!!(…かえろ)

 人間。

 人間。

 人間。

 見渡す限りに人が居る。


 しかし、ココに居る全員の意思が統一されているかどうかは微妙だ。

 少なくとも半分は、興味本位でくっ付いてきた

 ヒマを持て余したヤツだろう。

 その証拠として、やんやと集団の先頭で叫びっぱなしのメガネを見て

 遠巻きに見ている大半の連中は(俺とルチを含めて。ソーニャは別)

 なんとも言えない苦い表情を作る。



 なんだか楽しそうだから。

 でも……予想と違う。



 若返りの魔法が切れるのはもうすぐだ。



 もう――



 俺たちは、あの頃にはもう戻れない。




「我々の要求はただひとォつ! あの 『 公園 』 を、子供たちの輝かしい未来のための“重要な教育の場”としての維持存続を、我々は強力に要求し続けるッ! あの場所は絶対に、誰にも渡してはならないッ! まして【暗黒街(アンダーワールド)】の住人などが自由に、好きに、勝手にしてイイ場所では決してない!」



 大きな歓声と口笛が、その主張を後押しする。



「ココに集めた署名は、すべて我々と想いを同じくする人々の、未来への切なる希望だ! これを無視するということは、行政は、一般の市民である我々の想いとは既に大きくかけ離れている、という深刻な事態にあると指摘せざるを得ない! それが意味するものとは、意思決定の場である市議会の深刻な機能不全という、それが持つ意義を抜本的に見直す必要が生じるほどの、大変憂慮すべき悲惨な事態となるだろう! 我々は、市議会の解散要求すら辞さない、不退転の強力な決意を胸に抱いて、今日のこの場に臨む“勇敢なる者たち”であるッ」


「ながい」


 さらに増した巨大な歓声と口笛の嵐が、ルチの声を簡単に吹き消す。



「意味分かんない」

「メガネさんたちが私たちのために、ワルイ人たちから守ってくれているんです!」


 くどい。


「……つまり、コレって最後どうなるの? うまくいくの?」

「いきますッ、大丈夫に決まってます! こんなにたくさん私たちのために集まってくれているんですからッ! ね、そうですよね、リカ?」



 ううん、どうかな。


「リカ……? さっきから、どうしたんですか、ずっとダンマリして。なにを考えているんです?」


 あ。

 誰か出てきた。

 さすがにこれだけ好き放題に目の前で騒げば、大迷惑だろう。

 キレていい。

 デモを許可した向こうの立場はかなり複雑そうだ。



 全身を高級スーツで防御する【グリディア市役所】の職員は

 理論派のメガネを筆頭に、まるで訓練された兵士のように

 血気盛んな集団を前に、たった三人きりで、おそるおそる近づいていく。


 思いっきり貧乏クジだ。

 きっとあの三人こそ、本物の『勇者』だと思う。


「この後の結末を聞きたいか?」


 メガネが自信に満ちた表情で進み出る。

 『聖なる武器』の拡声器を置いて、代わりに両手いっぱいに抱えるのは

 溢れるほどの大量の嘆願書。


「黒服が持ってる“権利の剥奪”はムリだろう。ソイツはそんなに簡単じゃない。私有財産の保障は行政の義務だ」


 やがて開かれた交渉が始まる。

 魔法が解けた三文芝居の、

 もう面白くもなんともない最低のクライマックス――

 ペテン野郎の見せ場ってヤツだ。



「おそらくメガネは〈土地使用権の一時差し止め〉の『延長』を要求する」

「『延長』……でもそれだと、また期限が切れますよね? そこからはどうします?」

「また申請するんじゃないか。今日みたいな、大迷惑なパレードをやって」

「イヤイヤイヤ! いくら『延長』したって意味ナイじゃん! それって、ゼンゼン解決になってないし!」


「いや、決着する」 


 メガネに必要なのは、時間。



「アイツが思い描く、最高のシナリオとは」



 土地の権利者であり、圧倒的に優位な立場であるはずの“黒服”は

 もしかすると一番弱い。




  「あの 『 公園 』 を黒服から買い取ってしまうこと」




 急成長を続ける『超』優良企業の若手経営者。

 メガネが大量に保有しているのは『土地』だ。

 コイツの会社はテナントの賃料だけで

 莫大な利益をひと月で稼ぎ出す。

 “適正な価格”って、すごく引っかかる

 入会パンフレットに堂々と載っている項目。


 おそらく、買い叩くのがウマいんだ。


 さあ――行政は、この困った男をどう処理する。

 ヤツらが『聖書』のように尊ぶマニュアルなんかにはゼッタイ載ってない。

 あの貧乏クジを引いた三人がもしも

 建物の中にメガネを引き入れてしまったとしたら――


 『延長』の申請が一度でも認められてしまうと状況が大きく変わる。


 俺たちにとってはどうでもいい、この場面がアイツにとって

 やっぱりクライマックスなんだろう。


「ソーニャ」


 黒髪の美少女はこっちを見る。



「“イイ人”は、どこにもいないぞ」





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