1 プロローグ
魔法王国マジコ。魔法がすべてを支配していることで有名なその国は、現在、とある騒動の最中にあった。
この国ではとある伝説が古くから信じられ、そして語り継がれてきた。
魔法、そしてそれによって支配された国マジコを創りまとめあげたのは、現国王ズースの祖先ヘリオスである。教会の壁画に描かれた彼の姿は神々しく、麗しかった。
彼がこのような偉業を達成できたのは、三つの宝のおかげだと言われている。
たくましい腕で構える、アルテミスの征矢。腰に携われている、ニケの聖剣。ヘリオスの妻、ロデが掲げる、創世の魔導書。
マジコの三大国宝と言われるそれらがズースに女神の加護を与えたと言われている。
そのうちのひとつ、アルテミスの征矢――その鋭い鏃は絶対に外れることなく悪を討つ。そう語り継がれた正義の矢は、国王の証として代々受け継がれていた。
主に勝利をもたらすと言われるニケの聖剣は、国王の護衛として最も近い者に。九十九の写本と一冊の原本が存在すると言われる創世の魔導書の原本は、魔導士の最高位である大魔導士に。写本はそれ以下の魔導士たちへ託される。
王太子が成人し、そろそろ即位されようかという時期だった。
「ほ、報告いたします」
慌ただしい足音と震える声が王宮の静寂を破る。大臣が慌てて応対すると、そこにいたのは宝物殿の管理を任せている魔導士だった。彼には即位にあたり征矢と聖剣を運び出すように伝えてあった。
「アルテミスの征矢と、ニケの聖剣、魔導書の写本が一冊……どこにも見当たりません」