セツの真意を知りました
「セツと言うのだね、あの猫は……」
白狼が、悲しそうに語り始めます。
少年から白狼が手を引くと、その、真っ白な髪がさらさらと揺れました。
「ようやく、あれが我の元に来た理由を知れたよ。
ぬしの代わりに贄になろうとしたのやね、優しい子……」
白狼は泣いていました。
氷のような目から、つう…と涙が伝います。
あの猫が自分を呼んでいたのは、助けを望んだからではなかったのです。
自分を、少年の代わりに、贄として食べてもらう気だったのです。
獲って来られたウサギが、自分のものだとセツにはわからなかったのでしょう。
だから、白狼が白狼のために獲って来たものだと思って、死なれてはまずいと面倒を見ていたのです…。
「里に行く素振りを見せた時、セツは喜んでおったよ。
セツが贄になったから、村を赦すと言いに行くと思ったのであろう、なあ……」
なんと言う事。
なんて悲しい勘違い。
とめどなく流れていた涙は、もう止まっています。
その分、雪の上にこぼれたそれが、キラキラと宝石のように輝いていました。
「安心おし、セツは無事よ…」
白狼が少年に微笑みます。
一度は曇天となった空も、少しずつ晴れ初めていました。
「我は贄など食わぬ。だが、悲しませてしまったのう…」
「……」
「我が山の者でなければ、少しは違ったのやもな…。
ならば我は山を退くよ、愛しき坊や。
さすれば山はゆるりとぬるみ、それより後は吹雪も来るまい」
「…セツは」
「セツも坊やに返そうぞ。
もう二度と現れぬよ、約束しよう。
氷に閉ざした山も、次の春には芽吹こう。
……さらばだ」
一陣の風が吹き、狼の姿が掠れ消えます。
そして次の年、氷山にはじめて暖かな春が来ました。