再会しました
村人に両腕をつかまれ、引きずり出されたのは子供でした。
白狼が、はっと目を見開きます。
「ぬしは……」
意思の強そうな目、少し癖のある髪、そして忘れようもない声――
「…あなた、様?」
いや違う。
似ているけど違う。
まさか、と白狼は目を疑いました。
間違いなく、あの時、最愛の人に後を頼んだ我が子です。
まだ小さい我が子を、振り切って立ち去るのに、どれほど勇気が必要だったことか!
「…覚えて、おるかえ」
母よ、ぬしの母よ。
そう白狼が言おうとした時でした。
「人殺し!」
少年が叫びました。
「父ちゃんをよくも殺したな!」
「…我が、だと? なぜ?」
「やめんか! 無礼者!」
「うるさいっ!
アンタがいなくなった後、雪山で父ちゃんの屍が見つかったんだって聞いたぞ!
冷たくなって、真っ白になって…アンタがやったんだろう!」
「…そんな」
違う。
違う、違う、違う!
わななく白狼の瞳が、悲しみと困惑の光を帯びます。
とたんに空から、雪が降り始めました。
「…坊や」
「ふざけんな!
父ちゃんを奪って、セツまで奪って!
おれが生贄になるまで待てなかったのかよ!
ちくしょう!」
「いい加減にしないかっ!」
村人が少年を殴ります。
血の色が、ぽたぽたと白い地面に落ちました。
「……」
白狼が一歩を踏み出します。
ぎょっとした村人に、白狼がおごそかに命じました。
「…そやつを、よこせ」
もう一歩、白狼が進み出ます。
その、鋭い氷のような迫力に、村人があわてて少年を離しました。
殴られた少年が座り込みます。
それでも顔を上げ、キッと白狼を睨む少年に、白狼が手を伸ばしました。
「おまえ――」
真っ白な指が、少年の頬に触れます。
いそいで離れて行った村人には目もくれず、白狼は少年の前に膝をつきました。