子猫にあげるもの
真っ白な雪原が、どこまでも続いています。
そこを、白狼は駆けていました。
蹴散らされた雪が白く霞み、流れ星のように尾を引きます。
ひとすじの矢のように、駆けて、駆けて、高台の上へ。
鼻面を上に向け、白狼は大きく胸を反らしました。
「オォ……ン…!」
高々と上げた遠吠えに、辺りの風が応えます。
ごう! と勢いよく渦巻いた風に、蹴散らされた雪がぱっと舞い上がり――
ぺいっ、と白い毛玉が一緒に雪から弾き出されました。
「……」
ぽすん、と少し離れた場所に落下する毛玉。
それを見て、白狼は目を丸くしました。
とん、と雪原に降りてみると、そこには前に返した子猫が。
「…何をしておる」
前と同じく震えている子猫を掘り起こし、また背中へと乗せてやります。
そして塒である洞窟へと連れ帰り、白狼はそこに子猫を降ろしました。
「言うたであろ、ここには何もないと。何を迷うてここに来よるか」
そう聞いても、子猫は答えません。
ただ、つぶらな瞳をぱっちりと開いて、白狼を見つめているだけです。
白狼は困ってしまいました。
確かに、この猫は自分を呼んでいたのです。
山の守護獣である自分を、必死になって呼んでいたのです。
迷子になって、誰かに助けて欲しくて、呼んでいたのではないのかと。
「…うぬ」
白狼は困り果ててしまいました。
なにしろ自分は氷の獣。
ぬくぬくの毛皮は持っていますが、火も起こせなければ、食べ物を食べる必要もないのです。
「待っておれ、何ぞ獲って来る」
そう言って白狼が駆け出します。
しばらくして戻ってきた白狼の口には、白い小ウサギがくわえられていました。