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雪山の白いもの

 凍てつく大気が満ちる世界。

 風に、粉雪が踊る白銀の山――


「みぅー…」


 極寒の地に、そんな小さな声が響いたのは、月のない夜の事でした。


「みゃぅ……」


 また一つ…声。

 それは、雪に埋もれた、白い毛玉から聞こえていました。


「みぃ……」


 頼りないその声が、吹雪の音にかき消されて行きます。

 容赦なく積もる雪が、小さな姿を隠して行きます…。


 その全てが、とうとう雪に埋もれてしまいそうになった時でした。


 ぬうっと、大きな影が現れました。

 続いて大きな鼻面が、ふんふんと毛玉の匂いを確かめました。

 それから立派な足で、それは毛玉の周りをうろうろと踏み歩いたのです。


「…誰ぞ?」


 山を揺るがすような声が、毛玉に降り注ぎます。


 その声で毛玉は頭を上げました。

 小さな子猫の顔が、やっと雪から持ち上がりました。

 ふるふると震える子猫が見たのは、大きな顔――そして牙。


「我はこの山の者なり。ぬしは……何ぞ?」


 青い目をした大きな白狼が、再び子猫に問いかけます。

 ぴゃっと子猫が丸くなりました。


 白狼は山の主でした。

 大きく、立派な力強い体。

 その白銀の毛並みはやわらかで、瞳は氷のように美しく澄んでいます。


 その白狼が、ゆったりと首を傾げました。


「そう怯えられると困るのう。寒いのかえ、童」


 ぺそりと耳を伏せた子猫を、白狼が鼻先で転がします。

 ころりん。

 雪から出され、簡単に転がった子猫を、白狼がそっとくわえました。


 自分の背中の上、ふかふかの厚い毛皮の中に、白狼がぽふりと子猫を置きます。

 その中は、ぬくぬくとした暖かさでした。


「みぃーぅ…」


「こら、爪を立てるでない。明日の朝には人の里に届けてやるでな」


 白狼が子猫をたしなめます。

 子猫が、狼の毛の中でもそもそと動きました。


「眠りや、童。ここには、ぬしが食うものもない。明日には届けてやるから、じっとしておれ…」


 その言葉通り、子猫は次の日、人里に送り届けられました。

 誰も気付かない明け方に、そっと、村の広場に返されたのです。

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