第3話 その懺悔は悲しく響き
Do for others what you want them to do for you.
(何事でも人々からしてほしいと望むことは、人々にもそのとおりにせよ)
「新約聖書」-マタイによる福音書(マタイ伝)第七章
絶対悪というものは昔いた世界ではRPGで良くあった。それを消せば平和が訪れ皆が幸せになるという良くあるエンディング。しかし、現実にはそんなものは無い。それは分かっていたはずなのに俺はどこかこの世界が現実で無いように感じていたらしい。こんなことになって初めて俺は気付くのか。
シュウはそんな事をぼんやり考えながら、一夜を明かした牢屋を出た。もう日は天頂を過ぎている。彼の両手には手錠がされ、その先には最早見慣れた鉄球。その重さに地面が悲鳴を上げて押し込まれている。おかげで彼が歩くとその後ろにはその軌跡がしっかりと刻まれていた。
彼を先導している奴隷頭は思わずうめき声を上げそうになるのを抑えていた。彼の後ろから鎖の擦れる音と地面が抉られる振動が伝わってきている。それが彼の不安感を高めていた。だから門に自分の主人の姿を見たときは思わずうれしさがこみ上げていた。普段はつばを吐いてやりたいという欲求を抑えるのに必死だというのに。
自分が牢屋から出すように命令したとはいえ奴隷商人は後悔していた。ゆっくり近づいてくるその姿は小さい。しかしその体中につけた拘束具をつけながらもそれをものともせずに歩いてくる。ソレが一歩踏み出すたびに自分の心臓の音が跳ね上がるのを彼は自覚していた。うつむいたその顔には恐ろしい顔が隠されているのでは?自分はとんでもないものを外に出してしまったのではないか、アレは牢屋に永遠に封印すべきではなかったか。そんな考えが頭をよぎるのを必死に振り払った。
シュウは目の前のゴブリンを見据えた。これまでゴブリンは見下ろしてきたが自分の背丈が縮んだ今、彼の目線の高さにあるゴブリンの頭を上目遣いで見る。その奇妙にとがったいがぐり頭を見ながらゴブリンはこの魔境を進む中でおそらく一番始末した数が多かったことを思い出していた。道中,その尖がりに剣を振り下ろしてきた。何度も,何度も。何の疑問も感じずに。自分の隣には背中に安心感を与える寡黙な男、自分の後ろで援護射撃を行う自分の友、ゴブリンごときに魔力を消費したくないというわがままを涼しい顔して言う魔導師,俺を悲痛な顔で見つめる姫。すべては遠い過去に消えた。しかし、消し去ることは出来ない。シュウはそのゴブリンの後ろにこれまで屠ってきた魔物たちの幻影を見ていた。
奴隷商人はシュウの両手の手錠から伸びる鎖を引きながら、気味の悪い金眼の小僧の視線を感じて気が気でなかったが、ドラグーン帝国の紋章が刺繍された旗の掲げられた建物に到着するとホッと安堵の息を吐く。
「これは、これは。門番ご苦労様です。」
「何用だゴブリン?」
門番の目には嘲りの目を向け、そのまま背後にいる小さい影に視線を向けた。
「はい!手配にあった者を捕まえましたので連れてきたしだいでして。」
「手配だと?」
「えぇ、『金眼の子供』です。」
門番は顔を見合わせると吹き出し、笑い出した。
「はっはっはっは!お前のようなゴブリンごときが『金眼』を捕まえただと?馬鹿も休み休み言え!でないと俺の腹に悪い!どうせ黄色い目をした子供をつれてきたのだろう?まったくそんなに報奨金がほしいか?」
門番は腹に手を当てて笑うとおもむろにシュウの頭にかかっていたフードを取り払った。
その瞬間、真冬のように寒く感じたと後に門番は語った。
シュウの金眼は門番をまっすぐ捕らえて離さない。見据えられた門番は小刻みに震えだした。
その様子を見ていたゴブリンの奴隷商人は小気味良い快感を感じていた。『あの偉そうにしていた竜人族の門番が振るえあがっとる!』と。そんなゆがんだ優越感に浸っていると意外なところから声が上がった。
「何を怖がっている?」
声をかけられた門番はその大きな体を出来る限り縮こませた。まるで大きな手でつかまれたようだった。
「お、俺は恐れてなど・・・。」
なけなしの気力を振り絞り門番は虚勢を張ろうとするがまともに目を合わせることすら出来ない。ソレを見たシュウは言葉を重ねる。
「いや、恐れている。俺の殺した竜人は最後まで果敢に向かってきたぞ?戦って死ぬことこそ種族の誇りだと言っていた。俺は竜人とは誇り高い種族だと思っていたが、勘違いだったか?」
「いや!俺は竜人の戦士だ!臆す事などあるものか!」
門番の竜人は思わず声を張り上げていた。しかし,彼の膝は諤々と震え,今にも大地に崩れ落ちそうである。誰が見てもおびえていた。彼の本能がそうさせていた。
「そうか,竜人にも色々いるのだな・・・。」
シュウは感心するように呟いた。シュウは竜人という種族に対し抱いていた先入観を塗り替える光景にただ純粋に関心していたのだが竜人はそうは捉えなかった。
「この俺を愚弄するか!俺は恐れてなどいない!」
自身のプライドと本能的な恐怖との板挟みによるストレスでついには門番はシュウへと躍りかかった。
その速さは常人であれば捉える事すら出来なかっただろう。彼は門番とはいえ皇族の陣営の門番である。彼を手だれと称してもまず間違いは無い。しかし,相手が悪い。シュウの瞳はしっかりとその向かってくる拳を捉えていた。
そしてシュウは体に染み付いている回避行動をとったが,彼の頬を門番の拳がめり込んだ。シュウはしばらく何がおこったか分からなかった。シュウの軽い体は簡単に後ろに飛ばせれるが,鎖がピンと張ってそれを引き戻す。そうしてシュウの体は大地に落ちた。
「はっはっっはっは!」
門番は全身で息とも笑い声ともつかないものを発している。体は歓喜と疲労で震えている。極度の緊張で筋肉にはムダな力が込められ先ほどの一撃で既に気力を使い果たしている。今彼は自身の上位存在を殴り飛ばすという生物的禁忌をおかした事への達成感を感じていた。シュウが起き上がるまでは。
シュウは考えていた。何故,避けた筈の拳が届くのかを。避けたのだ確かに。ゆっくり起き上がり構えを取る。彼がこちらに着てから延々と繰り返してきた修練に用いられる演舞の構えである。それを繰り返す。はじめはゆっくりと正確に,しかし段々と速さをあげていく。最後には誰の目にもとまらない速さに達していた。誰も止めない,止められない。その演舞に巻き込まれるように大気が巻き上がり,大地は震えた。演舞を繰り返すうちに先ほどの疑問がほぐれていく。なるほど,間合いか。自分の体が縮んだ為に間合いを取り損ねていたのだ。それを悟るとシュウは演舞をピタリとやめた。そして門の方を見ると門番は既に尻を付き,奴隷商は泡を吹いて気絶していた。
彼の演舞を見ていた者がもう一人いる。エセアリア=ドラグーン将軍である。彼女は徐々に近づいてくる何かに肌を泡立たせていた。それはこれまで,それこそ恐れ多くも『龍皇』にすら感じた事の無い畏れ。あわてて執務室から文字通り飛び出し,門に到着したときには門番と黒い小さいのが向き合っていた。
「何を怖がっている?」
子供にしては上ずっていない落ち着いた調子で話していた。そのゆっくりとした語り口は耳にするりと入り込んでくる。
「お、俺は恐れてなど・・・。」
いや、恐れている。しかし、それは恥ではあるまい。相手の力量を正確に把握している証拠だ。姫将軍は自軍の兵卒の優秀さを再確認したが、それはあるいは恐怖を感じている自分への言い訳なのかもしれないとも感じていた。
「いや、恐れている。俺の殺した竜人は最後まで果敢に向かってきたぞ?戦って死ぬことこそ種族の誇りだと言っていた。俺は竜人とは誇り高い種族だと思っていたが、勘違いだったか?」
竜族は好戦的でその価値観は非常にシンプル。
『強い』か『弱い』かだ。だからこそ命知らずで勇猛な兵が多い。そのせいか選民意識が強く団体行動に向かないので苦労する。
「いや!俺は竜人の戦士だ!臆す事などあるものか!」
しかし、それでもこの者から発せられる覇気は尋常ではない。寧ろ、この者を前にしてこれだけものを言えるそのプライドの高さを誉めたくなる。
「そうか,竜人にも色々いるのだな・・・。」
この者は以前に竜人に会ったことがあるのか?竜人族と交流のある部族は確か、我が龍神族とカルラ族、後は広く行動しているゴブリン族位だがこの者はそのいずれでもなかろう。では何者だ?
「この俺を愚弄するか!俺は恐れてなどいない!」
無謀だ!門番ごときの相対可能な相手ではない。彼を守ろうと駆け出すも彼女は間に合わないことを自覚していた。そして見た。彼が完全に門番の拳の軌道を見切り、視線で正確に追尾している。彼女はこの時肉片と化す門番の末路を夢想した。しかし、眼前にはまったく異なる光景が出現していた。
門番の拳が綺麗に金目の少年に吸い込まれていき、その小さな体を吹き飛ばした。彼女は呆然として動けなくなっていた。激しく飛び跳ねる様子をただ見ていた。
そして起き上がる彼の姿を見て我に返り、思わず身構える。少年は構えを取っておもむろに動き出した。その動きは緩慢で彼の見た目のままの子供の動きに見えた。
しかし、それは錯覚にすぎないとすぐに思い知らされた。すさまじい速さと威力を持った蹴り、突き、流れるような技の連続、それが暴風のように荒れ狂っている。
彼女の中を流れる血が騒ぎ出す。戦えと、殴れ、蹴れ、刺せ、殺せと。周りが彼女が普段抑えている魔力の奔流に飲まれる。
彼女の目が金色に輝きはじめ、その四肢に力がみなぎり充足していく。最早彼女は自分の中の勢いを止めることは出来なかった、いや止めようという考えすら遥かかなたへと消えていた。
シュウの演舞が止まるとそこを雷光が襲う。しかし、魔力による障壁に阻まれシュウの体には届かない。髪をそよがせることすらなかった。
「ふっふっふふ!アレを防ぎきるか!まったく叔父上に面倒な任務を授かったと思っていたが、これは何たる僥倖!うれしいぞ!」
シュウは興奮して語るエセアリアの顔を冷ややかな目で見つめていた。
「いきなり攻撃してきて何がうれしいんだ?」
「いや、失敬。抑えきれずにやってしまった。ゆるせ。正々堂々の勝負をこそ私は所望している。さぁ、死合おう!」
「俺は君にかかづらっているほど暇じゃないんだ。」
シュウの目に苛立ちがつのる。
「そんなに急いでどこへ行こうというのだ?いや、何も問うまい!そなたの向かう先に立ちはだかろう!さすればそなたも私と死合わざるを得まい!?」
もはやこれ以上は無駄と悟ったのかシュウは無言で構えを取る。
「やっとやる気になったか?では今度こそ正面から参ろう!」
エセアリアの体を纏う魔力が青天井に上昇していき、周りの天候にすら影響が出始めている。彼女の髪を結い上げていた細工の入った髪留めはその職責を全うしきれず弾き飛ばされ、その白銀の髪がたなびき、帯電している。
彼女が目を見開いた瞬間、帯電していた雷が収束し一筋の光となってシュウを襲う。その速さはまさに瞬きする間もないもので到底避けられるものではない。
しかし、シュウは避けていた。彼のその魔力量であれば防ぎきれたはずであったが、彼は人であったころの癖で反射的に避けていた。
シュウの顔面をなぞるように光線が通過していく。頬の皮膚が若干こげ、辺りに焼けた匂いが垂れ込めた。焼け焦げた皮膚はすぐに剥がれ落ち、その下には新しい皮膚がすでに再生を始めている。恐るべき回復力といえるだろう。
シュウが体を斜めにそらすように光線を避け、それに目を奪われている間にエセアリアがシュウに接近を果たしていた。その手には帯電した剣が握られており、光輝いている。
「実は私は接近戦のほうが得意でね!」
シュウがエセアリアに目を向けたときには、彼女はすでにシュウを間合いに入れていた。エセアリアは笑みを浮かべながら一閃した。
その剣は音を立てて砕けた。それを耳よりも、目よりも剣の握りから感じられた感触で知ったエセアリアはめったに出会えない好敵手と距離をとる。
そして彼女は驚愕よりも驚喜をもってその状態を歓迎した。彼女はあの一撃で彼を切れるとはまったく考えていなかった。それには切れたら面白くないという願望も混じった判断だが相手がそんなに弱くはないと何よりその肌のあわ立ちで知っていたのである。
しかし、それでもまさか剣を砕かれるとは思っていなかった。切るでもなく、割るでもなく、砕くとは・・・。改めてエセアリアはシュウを見る。その手には漆黒の剣が握られていた。
「なんだ、その剣はそこまで禍々しい剣は見たことが無いぞ。」
その剣からは輝きはまったく感じられず、むしろ周りから奪っている。それがあるだけであたりが暗くなるようだった。
「これは俺の半身だ。師を喰らい、友を喰らい、思い人を喰らった。その剣が禍々しくないはずが無い・・・!」
その金の目から血の涙が流れ落ちる。彼の体からいや、剣から黒い魔力が流れ出る。その流れはなんともねっとりとしており、シュウを中心に広がっていく。それに触れた大地が枯れてゆく。
「まずい!」
ようやく冷静さを取り戻したエセアリアは自身の魔力で持ってシュウを覆うように結界を張った。しかし、ソレは次々とあふれ出しとどまるところを知らない。
「これ以上は持たん!」
エセアリアが死を予感したとき変化が起きた。
黒い魔力が渦を巻き始め、徐々に消え始めた。その魔力が人間大まで小さくなったとき、エセアリアは悟った。治まったのではなく収束したのだと。黒い魔力の影から体が見え始め、だんだんとその魔力が形を持ちはじめ、シュウをまとう服となり始める。
「・・・魔力の物質化か!」
もはやそれは伝説級のそれである。今では御神体となっている神剣アングラヘルが龍族の初代龍皇の魔力を物質化したものであるという。ゆえに歴代の龍皇の血族しか持つことが出来ないとか。
「これはパワーバランスを崩すどころではないぞ!叔父上、あなたの不安は杞憂どころかその上を行きます。これでは新たな魔王の誕生ではないか!」
エセアリアは目をそらそうとする本能を理性で押さえつけ、シュウをにらめつけ続ける。この周辺の種族を守るのが宗主たる龍族の使命であると魂に刻み付けて生きてきた彼女だから出来ることであった。
もう、その魔力に当てられて周辺に意識を保っているものはいなかった。
シュウの周りの魔力が収束しきるとあたりを静寂が支配した。彼を縛っていた封印球は鎖ごとどこかに吹き飛ばされていた。
静寂を破ったのはエセアリアだった。
「そなた・・いや、貴方はいったいこれからどうするつもりだ?」
シュウはゆっくり彼女のほうを向きなおる。彼女の存在を確かめるように上から下へとゆっくり見た。
「・・・これから?そうだな、大きくなるのが仕事だってタンゴが言ってたっけ・・・。いや、また俺は人に考えることを預けようとしている。違う。俺はこれから知る。何をするか決めるために!俺は知りたい!知りたい!まだ知らないことを!すべてはそれからだ!」
シュウは吐き出すように言った。彼はエセアリアを見ていない。その焦点はもっと遠くに合っていた。
「・・・それは拙い。」
エセアリアはあせっていた。彼は・・・、その力の強大さに精神が追いついていない。その力を振るう責任を知らない。その力がこの世にどれだけ影響するかを知らない。彼の意向によって世界が書き換えられる。そのくらいの力を彼は持っている。彼の意向を操作できる、しようとする者であればおそらくこの脆い少年は簡単になびいてしまう。そんな脆さを感じる。そうなればそれは彼を操るものの天下だ!それは拙い。
「拙い・・・?何故?俺は知らなければならない!どうすれば皆が幸せになるかを!」
「幸せになるかは人それぞれだわ。すべてを救おうとしてはいけないの・・・。」
エセアリアは目の前の少年を見て今まで感じたことが無い感情を抱いた。それを彼女はこの時、母性と名づけた。
「でも、俺は・・・・救わなくてはいけないんだ!だって俺は『勇者』なんだ!ここまでの旅路で見てきた涙を傷を争いを俺は消さなくてはならない!俺は・・・俺は・・。」
シュウの顔が苦痛にゆがみ、体が俯いてゆく。まるでその背中に重い荷物を背負っているかのようであった。
「それは・・・本当にあなたの願い?」
シュウははっと顔を上げた。
「当たり前だ!俺は人の感謝する顔を見て、泣いている人が笑顔になるのを見て幸せを感じたんだ!だから助ける。そのために悪を切る!それは普通だろう!」
「違うわ!あなたのその願いは広すぎる!全員が満足することなんて出来ないわ!その矛盾はいつかあなたを潰す!」
エセアリアはシュウの魔力の圧力に当てられてもはや立っているのもやっとである。しかし彼女は立つ。目の前の小さな少年のために。
「ならどうしろというんだ!俺はいままで人のために生きてきた。皆のためにって一生懸命に!それで皆喜んでくれた、皆ほめた。それは良いことだろう?」
「皆って誰?あなたをほめたってソレは本心?」
「皆って・・・それは仲間と・・・被害にあった村人と・・・。あれ?本心?そんなの・・・分からない。アレイスター、師匠、ミュラー、姫教えてくれあんたたちは本心では俺を・・・。」
シュウの脳裏に魔王城での出来事が巡る。そこでの彼らは『嘘だ』、『バカめ』とさげすみ言ってくる。
「皆のために生きるのはいけなかったのか?」
「違うわ、ただその対象を、その方法をあなたが自分で決めなかったのがいけなかったのよ。人の意見を聞くのは大事だけれどその真偽を疑わなくちゃいけなかったのよ!じゃないと恨む事ができてしまう!恨む事で自分の責任から逃げられてしまうのよ!」
「仲間は信じるだろう!」
「信じている仲間でも間違えるわ、信じている仲間が実は信じられないやつの事だってある!」
姫は間違ったのか?あの姫が?ミュラーもか?師匠も?アレイスターも?そんな馬鹿な!あいつらの言うことはいつも的を射ていたのに。いつも俺はあいつらの言うことに納得した。じゃあ俺が間違ったのか?納得しちゃいけなかったのか?疑わなくちゃいけなかったのか?
「・・・無理だ、疑い続けて生きるなんて俺には・・・、辛すぎる!」
「疑うんじゃない、あらゆる可能性を考えておくの。人の話を聞くときもその人が絶対正しいことを言ってるなんて思わないの。その人が間違うことも、時と場合によって当てはまらない事だってあるわ。何かを絶対視しないで。あなたの中の確かなものを外に求めないで。」
「俺の中に・・・。俺は・・ただ笑顔が見たかったんだ。・・・笑ってほしかったんだ。」
「うん・・。それでいいと思うわ。それがあなたの確かなこと?」
「うん、そうなんだ、泣き顔が見たかったわけじゃないんだ、ユーリア様。ごめんなさい。俺がもう少し賢ければ、あなたをあなたの弟を助けられたかも知れないのに。・・・師匠、あなたも間違えたんだね。俺じゃなくてアレイスターがあなたの敵だったのに・・・。」
「・・・後は・・・貴方は少し・・・自分のことも考えないと・・・だめね・・・。」
エセアリアはひざを突きひたすら謝っているシュウを見ながら大地に伏し、気を失った。
Be as shrewd as snakes and as innocent as doves
(蛇のように賢く、鳩のように純真であれ。)
「新約聖書」-マタイによる福音書(マタイ伝)10-16




