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第2話 雛鳥は殻を割り、外へ

 ちょっとしたらストックが切れます。

 北の魔境が森に覆われているとはいえ,どこもかしこも森な訳ではない。その環境は山岳地帯,平地,盆地,湖,谷,川など多種多様である。それぞれの環境に適応した魔物が生息する。先の13年戦争で絶えた種族もあるがそれでも数多くの種族が暮らす生物の坩堝なのである。


 それぞれの種族が意思疎通できるようになるとそれぞれの生息域を結ぶ道が切り開かれた。しかし,交流の多い種族同士を結ぶ道だと多くの魔物が利用するので自然と道は広くなり道沿いに店屋,小規模の宿場街が自然発生的に出来上がるが,交流の少ない,また仲が悪い種族同士の場合,獣道程度しか無いこともある。

 そのせいか自然と商人は中立部族,つまりゴブリンのような個体での戦闘能力の低く、相手にもされない弱小部族が行う仕事となっていた。そうすることで部族間の無用な衝突を避けて来た歴史がある。


 『魔王城』は龍族傘下のリザード族の拠点、サウリアにほど近い。シュウはサウリアにある奴隷商人たちが共同所有しているの屋敷の地下牢にいた。奴隷商人はそこから蛙族の拠点、アヌラまで街道を行くつもりであったが,思わぬ自体に頭を抱えることになった。

 

 「あのリザード兵め!厄介なものを売りつけおって!」

 朝食を食べながら奴隷商人は良く確認しなかった自分のふがいなさとよく分からないものを簡単に拾って来たリザード兵の能天気さを恨み,苛ついていた。

 「よりにもよって『金眼』の子供とは。子供だがどんな恐ろしい力を持っているか知れたものではない!あれだけの魔力抑制具をものともしないとはなんと言う化け物だ。これは好事家に売るには危険なもの過ぎる。売った後で問題が起こるとまずい!むしろ戦奴隷として売った方がいいか。しかし,ここ2,3年まともな戦は起こってないから需要が無いし・・・。参った。」

 奴隷商人が頭を抱えていると、戸をたたく音がする。奴隷商人は経験上、こんな早朝にやってくる客はろくでもない用件を引っさげてやってくることを知っているが、そこは長年商人をやっているだけあって面の皮は積層しており、元の表情を掘り当てられることはまずない作り笑顔で迷惑な訪問客を出迎えた。


 「はいはい、どちら様ですか?」

 「エセアリア=ドラグーン将軍配下、魔王城捜索隊である。閣下の命で子供を捜している。」

 奴隷商人は内心安堵のため息をつく。彼の扱う商品の中にはドラグーン帝国が支配領域全域で規制している品もあったからである。

 「子供・・・ですか?はて?子供でしたらそこら中におりますが。竜人族はお盛んですからなぁ。」

 「ただの子供ではない。『金眼』の子供だ。」

 奴隷商人は背中にどっと滝のような汗をかき始める。

 「き、『金眼』のでございますか。それはまた。どこぞの王族でも逃げ出されましたかな?」

 「それをお前ごときが知る必要は無い。ただ見たかどうかだけ答えればよい。」

 奴隷商人は迷っていた。皇族の将軍が動いているともなれば国家規模の大事である。ということはあのガキはどこかの王族もしくはその御落胤、または国家規模の犯罪者。まさかエセアリア様の!?いやいや、あの方はまだ若干17歳。交配期までまだ1年ある。その可能性がある以上とるべき道は二つだ。

 丁重に引き渡すか、隠し通すか。しかし奴隷扱いで牢屋に放り込んだ手前、そのまま引き渡しては最悪ゴブリン一匹の首など簡単に飛ぶ!

 奴隷商人は様子見を決め込むことにした。


 「いやぁ、存じませぬなぁ。もしお見かけすればお知らせしますが、どちらにお知らせすれば?」

 「各町の駐屯基地に知らせれば対応できるようになっておる。」

 「ちなみに褒章はいかほどに?」

 「居所の情報で赤水晶10、本人を連れてくれば30だ。」

 「30でございますか!」

 「あぁ、ただし死体では15だが『金眼』をゴブリンが殺せるとは思えんが。ましてや捕らえるなどな。」

 「えぇ、えぇそうですとも!手前は脆弱なゴブリンでございますれば。しかし手前の持つ奴隷共を使えば何とかなるやも知れません。参考までにお聞きしたのですが、多少傷つけてもかまわないので?」

 「あぁ、そう命令されている。」

 奴隷商人は確信した。あのガキは国家規模の犯罪者だと!これは下手なところに売り飛ばすよりも引き渡すほうがお得であると。

 「分かりました。捕まえましたら報酬のほうよろしくお願いいたしますね。」

 「あ、ああ。分かった。」

 隊員はゴブリンの予想外の食いつきぶりに若干心配になり、無理はしないようと念を押して帰った。


 「ふっふっふ!疫病神を買ったと思えば、金の卵だったわ!」

 奴隷商人の頭にはいつ、どうやってあのガキを連れて行こうかという考えでいっぱいだった。


 「おいシュウ。」 

 タンゴが話しかけてもまったく反応が無い。その瞳は先ほどから虚空を見つめている。

 「おいシュウ!聞こえてんだろう!飯を食え!お前まったく手をつけてないじゃないか!そんなんじゃ大きくなれないぞ!」

 シュウは大声にやっとゆっくりタンゴのほうを振り返った。その金色の瞳がタンゴをまっすぐ捉える。タンゴは思わず身構えてしまう。相手は子供で、たいした魔力を感じない。それでもタンゴは身構えてしまった。それはおそらく遺伝子レベルで組み込まれた本能のようなものだろう。金の瞳にはそれくらいの威力がある。

 「大きくなるつもりはないよ。」

 その瞳は鏡のようにタンゴの姿を映していたが、焦点はタンゴに合っていなかった。

 「子供が大きくならないでどうする!子供の仕事は大きくなることなんだぞ!仕事をしない奴は怠け者だ。」

 「怠け者・・・。」

 シュウは目を丸くしてしばらくうつむきながら考えて言った。

 「タンゴはやっぱり面白いな・・・。」

 「面白いか?俺は当たり前だと思うことを言っただけだが。」

 タンゴの白いひげがピクピクと上下する。

 「うん、俺は自分をまじめな奴だと思ってたから。そうか。俺って怠け者だったのか・・・。」

 「まじめと勤勉はちがうぞ。お前はまじめに怠けてたのかもしれん。」

 タンゴがニヤっと笑う。彼の笑い顔は子供が見たら10人中8人は泣き出して残りは漏らすだろう。

 「うん。そうかも。俺は今まで考えることを他人任せにしてきていたんだ。何を何のためにするのかそれを他人任せにしちゃ、駄目だよね。」

 「そうか、でも今は考えてるんだろう?」

 「うん。」

 「ならやっとお前は生き始めたんだよ。」

 「そっか。」

 「それにしてもお前、あんまりガキっぽくないな。」

 「あ、俺はガキじゃないよ。」

 「やっぱりガキだ。ガキはみんなそういうんだぞ。」

 シュウが言い返そうとすると、奴隷の管理人が低い声で『出ろ』と鍵を開けた。


 シュウは暗い牢屋から強い日差しの照りつける外へと鉄球を引きずりながら出て行った。



 



 

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