黒田官兵衛末期の回想
黒田官兵衛が死ぬ前どう思ったか自分なりに連想してみた。
夢を……見ていた。
天下を取る夢を。
儂はやっぱり天下を望んでいたんやろうな。
亡き太閤殿下が本能寺の変を知った時、儂が言った言葉。
「今こそ御開運の時ですぞ」
いやーあれは失敗やった。あまりに頭が切れすぎる事を主君に悟られてはならんのや。智者は時に愚か者を装わなくてはならん時もあるんや。
あれで、太閤殿下はすっかり警戒してしもたわ。
九州平定後、与えられたのは、豊前内六郡、たったの十二万三千石。よっぽど儂のことを警戒しとったんやな。
太閤殿下亡き後……。乱が起こることを見越してた儂は、息子の長政にはあの狸ジジイ……もとい、徳川殿の力になるようにと言い聞かせ、儂は天下の夢を見ることにしたんや。
関ヶ原が起こる前に、まずは豊後の大友。西軍に属した諸大名の城を次々陥落させていった。そして加藤、立花、鍋島勢を加えた四万の軍勢で、九州最後の大物、島津との戦いや。
関ヶ原が終わってもまだ戦っていたんや。関ヶ原より引き上げてきていた立花宗茂と島津義弘と戦って勝利したしな。
――まだ続けるつもりやった。
狸ジジイめ、島津と和議を結んで、停戦命令や。
――皮肉にも、息子の長政の調略のお陰で戦いがはよ終わってしもたんや……。もっと長引いとったらなぁ……。
それで、長政に言うたもんや。
「家康様は、『この勝ちは長政殿のおかげでござる』と、私の手を三度も押し頂いてくれました。」
…………。
このアホがぁ!!
「手を握られたのはどちらの手か?」
「右手でございました」
「すると、そなたの左手は何をしていた」
叱ったった。
まあある程度は冗談やけどな、半分本気やった。
――天下が欲しかった。
――いつまでも野望を持っていたかった。
儂の号は『如水』やのにな。
――心清き事水の如し。
しかし、中途半端な欲を抱くことはもう終わり。もうお迎えが来たようや……。
「くわん、天下が欲しかったか?」
?!
太閤殿下……。
「ええ、ほしゅうございました、しかしあまりに夢を追い、欲をかきすぎると、太閤殿下のようになってしまいますゆえ……。夢を超えて、求めるものが大きくなりすぎまする」
猿のような顔がくしゃくしゃになって笑顔を作る太閤殿下。
「そうか、それでよいわ、さあ、行こうぞ、くわん!」
「はい……それで儂は切支丹でもあったのですが、行くのはパライソでしょうか、それとも極楽浄土でしょうか……?」
「そんなことはどうでもいいわ……、楽しいところよ……!」
そう、儂はどこに向かうかは分からへん。でもパライソであろうが極楽浄土であろうが、そこでは天下取りの争いなどないやろうな……。
さらば、娑婆よ!
長編で書いてみたいかも。