死に際、三人の息子を驚かそうと『三本の矢』の手品を仕込むも、ガチの特注品を渡され折れずに大焦り。必死な姿を見た息子が『結束の教えですね!』と過度な忖度をしてきた件〜毛利家秘話〜
元亀二年。稀代の謀将・毛利元就は、病の床に臥せっていた。
自らの死期を悟った彼は、三人の息子――隆元、元春、隆景を枕元に呼び寄せた。
「よいか、お前たち。これより我が毛利家の行く末を託すにあたり、大事な教えを授ける」
元就は、ゴホゴホと咳き込みながらも、長年温めていた『あの演出』を披露する時が来たと内心ウキウキしていた。
(フフフ……ワシは謀将として名高いが、実は手品も得意なんじゃ。最期くらい、息子たちを驚かせてドヤ顔で逝きたいもんじゃて)
元就は枕元に用意させていた、一本の矢をスッと取り出した。
「ほれ、見よ。この矢、一本ならばこのように……」
パキッ。
元就の乾いた手から、乾いた音が響く。矢はいとも容易く折れた。
「おおっ!」と息子たちが息を呑む。
(よしよし、つかみはOKじゃ。ここからが本番よ)
「だがな、これを三本束ねるとどうなるか。……ほれ、隆景、三本束ねてワシの手に乗せてみよ」
隆景が恭しく、真新しい三本の矢を束ねて父の手に握らせた。
「いくぞ……フンッ!!」
元就は顔を真っ赤にして、三本の矢に力を込める。
プルプルプル……。
老いた両腕が痙攣するが、矢はピクリともしない。
(……あれ? 硬っ! なにこれ、めっちゃ硬いんじゃが!?)
元就は焦った。
本来の予定では、ここであらかじめ細工をしておいた『すぐ折れる三本の矢』を取り出し、バキッと折って「お前ら! 束になってもワシの力には敵わんのんじゃ! ワシ越えを目指せ!」と豪快に笑うはずだったのだ。
しかし、手違いで渡されたのは、毛利家の武具庫から持ってきたガチの特注品(竹製・チタンコーティング済み)だった。
(ヤバい、全然折れん。このままじゃ『最後の最後でただ筋力がないだけのおじいちゃん』になってまう! 謀将のプライドが許さん!)
元就は必死だった。
「ぬうぅぅぅぅ!!」
顔の血管を浮き上がらせ、歯を食いしばり、ベッドの中でエビ反りになりながら三本の矢をへし折ろうとする。
メシキ、メシキィ! と不穏な音が鳴るが、折れているのは矢ではなく元就の関節だった。
その異様な光景を前に、三人の息子たちは顔を見合わせた。
そして、察しの良い三男・隆景がハッと閃いた顔をした。
「……父上! わかりましたぞ!!」
「ひぇっ!? (なに!? ワシの手品が失敗したことにもう気づいたんか!?)」
隆景は涙ぐみながら言った。
「一本の矢は容易く折れる。しかし、三本束ねれば、天下の智将たる父上の全力をもってしても折ることはできない……。すなわち! 我ら三人、いかなる時も結束せよ! さすれば毛利家は盤石であると! そういう教えにござりまするな!!」
「「おおお! 父上、素晴らしい教え! 感服つかまつりました!!」」
隆元と元春も号泣しながら平伏した。
「えっ……あ、うん。……そう! そういうことじゃ!」
元就は思わず乗っかった。
(マジか!? こいつらアホなんか!? いや、助かった! ありがとう隆景の深読み!)
「我ら兄弟、永遠にこの『三本の矢の誓い』を守り抜きまする!」
「う、うむ……。頼んだぞ(関節いてぇ……)」
かくして、毛利家を支える美しい教えは、ただの『手品の失敗と過剰な忖度』から爆誕した。
ちなみに元就はその後、意地になって部屋の隅で矢を歯で噛みちぎろうとして前歯を全損し、それが原因で食事がとれなくなり衰弱死したという。




