表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

10月 出雲

 十月も後半に入った。


 朝、コンビニでコーヒーを買ったとき、レジ横のモニターにまた例の表示が出ていた。


 《消滅まで 残り67日》


 六十何日、とか言われると急に現実味がある。


 三か月前はまだ他人事だったのに、二か月を切ると年末みたいな数字になる。


 ポイント失効の期限みたいだ。


 宇宙の寿命をそういう書き方するか。


 コーヒーをすすりながら、ぼんやり考える。


「……まあ、とりあえず近場から回るか」


 急ぐことでもない。


 やらないよりマシか。



 自転車のタイヤに空気を入れる。


 チェーンが少しきしむ。


 油さしたほうがいいなと思いながら、そのまま出た。


 一社目は、隣町の小さい神社。


 初詣のときだけ行列ができるやつ。


 平日は無人。


 賽銭箱に百円を落として、鈴を鳴らして、手を合わせる。


「……どうも」


 それだけ。


 弔いって何言えばいいのか、よくわからない。


 お悔やみ申し上げます、でもないし。


 ありがとうございました、も違う気がする。


 頭だけ下げる。



 二社目。


 三社目。


 どこも似たような景色。


 鳥居、砂利、拝殿、自販機。


 ペダルをこぐたびに太ももがじんわり疲れる。


 思ったより運動だ。


 ベンチに座ってポカリを飲む。


「……これ、全国回るの無理だろ」


 冷静になる。


 日本、神社多すぎる。


 八百万ってなんだよ。


 盛りすぎだろ。


 八百万回手を合わせてたら、その前にこっちが寿命だ。


 自転車じゃ物理的に無理。


 コンビニでツナマヨのおにぎりを買う。


 レジ横のテレビでは、また専門家が難しいことを言っている。


『神様の生命活動停止と同時に、宇宙の崩壊が――』


 難しい。


 ツナのほうが大事だ。


 ぽろぽろこぼれる。



 駐輪場でスマホをいじっていて、


「あ」


 と思い出した。


「そういえば出雲」


 神在月。


 神様が集まる月。


 たしかそんな話があった。


 検索。


 ほんとに書いてある。


『十月、全国の神々が出雲に集う』


「……」


 少し止まる。


「今じゃん」


 今月じゃん。


「一回で済むじゃん」


 声に出して笑う。


 なんだよそれ。


 サービスタイムか。


 バーゲンセールだ。


 今まとめてやっとけば、効率いい。


 わざわざ全国回らなくていい。


「……出雲行くか」


 一回家に戻って、自転車を置いた。



 車のエンジンをかける。


 ナビに「出雲大社」。


 到着予定 二時間四十分。


「遠」


 まあいいか。


 ちょっとしたドライブだ。


 途中のサービスエリアでガソリンを入れて、そばを食べる。


 平日なのに意外と人が多い。


 家族連れ。


 おじさんの団体。


 カップル。


 みんな普通に旅行している。


 世界、あと六十何日で終わるらしいけど。


 まあ、そんな顔はしてない。


 自分だってそば食ってるし。



 出雲大社の駐車場は、ほぼ満車だった。


「……観光地じゃん」


 お土産屋。


 ソフトクリーム。


 縁結びの旗。


 カップルが写真撮ってる。


 絵馬がびっしり。


『ずっと一緒にいられますように』


 神様、忙しそうだなと思う。


 余命二か月ちょいなのに、仕事量えぐい。


 ブラックだ。



 鳥居をくぐる。


 でかいしめ縄。


 そういえば作法が違うんだっけ。


 スマホ確認。


 二礼四拍手一礼。


「四回……四回……」


 ここで間違えたら、なんか全部台無しな気がする。


「ミスったら全国回るの無理だからな」


 物理的に。


 ちょっとだけ緊張する。


 百円。


 鈴。


 二礼。


 パン、パン、パン、パン。


 一礼。


 目を閉じる。


 ……。


「……今まで、どうも」


 それくらいでいい気がした。


 十分だろ。


 目を開ける。


 何も起きない。


 そりゃそうか。


 出てきたら逆に困る。



 ベンチでお茶を飲む。


 修学旅行生が騒いでいる。


 カップルが喧嘩している。


 普通の神社だ。


 世界が終わる気配は、まったくない。


「……まあ、いいか」


 やることはやった。


 たぶんこれで全国分まとめて済んだことにする。


 神様も細かいこと言わないだろ。


 たぶん。


 車に戻る。


 夕方の光が長い。


 エンジンをかける。


 ナビが「自宅まで二時間四十分」と言う。


 あと六十何日。


 思ったより、すぐだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ