6月 余命
それが発表されたのは、平日の朝だった。
特番でも号外でもなく、いつものニュース番組の延長みたいな顔で。
『本日未明、各国の研究機関および宗教団体から共同声明が出されました』
画面の下にテロップが流れる。
コーヒーを入れながら、なんとなく眺める。
『観測の結果、“神様”と呼称されている存在の生命活動に終末期反応が確認されました』
アナウンサーは落ち着いた声で続けた。
『余命はおよそ半年。死亡と同時に、この宇宙は存在基盤を失い、消滅すると予測されています』
消滅。
さらっと言うな。
天気予報みたいな口調で。
画面が切り替わる。
どこかの研究所。
白衣の人。
難しい数式。
『重力定数の異常変動が観測されています』
『神様の生命活動と宇宙定数が完全に連動しています』
『比喩ではありません。物理現象です』
専門家が順番に説明する。
よくわからない。
でもつまり、
「神様が死んだら、世界終わるってこと?」
小さく呟く。
テレビの中の誰かが「はい」と言った気がした。
⸻
その日のうちに世界中が騒ぎ出した。
デモ。
暴動。
株価暴落。
終末論者の配信。
宗教団体の声明。
神様グッズの通販サイト。
移住ビジネス。
宇宙船計画。
陰謀論。
隕石説。
夢オチ説。
トレンドが一時間ごとに変わる。
スマホをスクロールする指が追いつかない。
テレビを消した。
うるさい。
⸻
しばらくぼーっとする。
「……半年か」
半年って、長いのか短いのかよくわからない。
冷蔵庫の牛乳の賞味期限よりは長い。
車検よりは短い。
そんな感じだ。
ふと疑問が湧く。
「神様って、何歳なんだ?」
そもそも。
いつ生まれたんだ。
宇宙誕生?
地球誕生?
人類誕生?
ユダヤ教?
縄文?
検索してみる。
説が多すぎて逆にわからない。
「まあ……めちゃくちゃジジイなのは確かだな」
それだけ分かった。
⸻
考えてみれば、結構世話になっている。
受験のとき。
テストのとき。
腹痛のとき。
なんかあるたびに「お願いします」って言ってきた。
ほぼ一方的に。
成功しても感謝した覚えはあんまりない。
失敗したら「神様いねーじゃん」とか言ってた気がする。
だいぶ勝手だ。
「……最後くらい、ちゃんとしとくか」
弔いみたいなもんだろ。
看取り。
そういう役目くらい、人間がやってもいい。
どうせ半年後に全部終わるなら、今さら忙しくしてもしょうがない。
⸻
スマホを見る。
タイムラインが騒がしい。
《Xデーは12/31》
《世界標準時?》
《日本時間?》
《どっち?》
「どっちなんだよ」
アメリカ時間だったらズレるな。
まあいいか。
日本時間でやっとけば、最悪二回やればいい。
雑な解決策が浮かぶ。
だいたいそんなもんだろ。
⸻
財布を見る。
小銭を探る。
百円玉の感触がひとつ。
他は細かいのばかり。
「……とりあえず行くか」
立ち上がる。
スニーカー履いて、鍵をポケットに入れて。
近所の神社まで歩く。
徒歩十分。
小さいとこ。
初詣のときだけ混むやつ。
⸻
鳥居をくぐる。
誰もいない。
風の音だけ。
賽銭箱の前で止まる。
五円玉を探す。
「今さら御縁もないか」
自分で言って、ちょっと笑う。
百円玉を入れる。
思ったより大きな音がした。
鈴を鳴らす。
手を合わせる。
「……」
何を言えばいいのかわからない。
願い事じゃないし。
お礼でもないし。
「……まあ、よろしく」
違う気もするけど、もういい。
頭を下げる。
目を閉じる。
静かだ。
ただの午後。
世界が半年後に終わるとは思えないくらい、普通の空気。
目を開ける。
何も起きていない。
そりゃそうだ。
まだ半年ある。
「……とりあえず、こんなもんか」
ポケットに手を突っ込んで、鳥居を出る。
空がやけに青かった。




