お帰りなさいませ、御主人様。どうぞお好きな……をお使いください。
「ただいま」
玄関のドアを開けた瞬間、俺は息を呑んだ。
目の前に広がる光景が、あまりにも——淫靡だったからだ。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
四つん這いの姿勢。
首には黒い革の首輪。
そして——全裸にエプロンだけ。
背中が丸見えだ。
白い肌が、玄関の照明に照らされている。
エプロンの紐が、背中の真ん中で蝶々結びになっている。それ以外、何も身につけていない。
佐藤マリア。
俺の幼馴染。
そいつが——犬の真似をして、俺を出迎えていた。
「今日のマリアはペットです。ご主人様のお好きなようにお使いください」
顔は真っ赤だ。耳まで紅潮している。
でも、目は逸らさない。
潤んだ瞳で、まっすぐに俺を見上げている。
四つん這いの姿勢のせいで、エプロンの胸元が開いている。
覗き込めば、乳房の谷間が見える。
いや、谷間どころか——ほとんど、見えている。
首輪から伸びるリードを、マリアは自分の口に咥えていた。
「——ふぁい、ひーふぉ、ほうぞ」
リードを咥えたまま、舌足らずに言う。
——はい、リード、どうぞ。
そう言っているのだと、数秒かかって理解した。
「…………」
言葉が出ない。
心臓がうるさい。
下半身が、反応している。
——どうしてこうなった?
いや、分かっている。
全部、俺のせいだ。
俺が——こうさせた。
一ヶ月前から始まった、俺たちの「ゲーム」。
最初は——ブラを脱がせるところから始まった。
* * *
【第一章 誰もいない家】
俺の名前は山﨑隆介。
私立星華学園の二年生。特進コース、バスケ部所属。
成績優秀、スポーツ万能、友人も多い。
傍から見れば、順風満帆な高校生活だろう。
——でも、それは全部、演技だ。
「隆介ー、今日もキレキレだったな!」
「まあな」
「お前がいりゃ、インターハイも夢じゃねえよ」
「大げさだって」
放課後、チームメイトたちと馬鹿話をしながら、俺は笑顔を作る。
陽キャ。
そう呼ばれることもある。
否定はしない。そう見えるように振る舞っているから。
でも——それは、仮面だ。
人といる間だけ、俺は「山﨑隆介」を演じている。
明るくて、面白くて、頼りになる男。
みんなが求める「理想の俺」を、演じ続けている。
夕方、チームメイトたちと別れる。
「じゃあな、隆介」
「おう、また明日」
手を振って——その瞬間、俺の中で何かがスッと冷える。
いつものことだ。
仮面を外した瞬間、現実に引き戻される。
電車に乗り、最寄り駅で降り、住宅街を歩く。
十五分で、マンションに着いた。
エレベーターで五階へ。
505号室。山﨑。
鍵を開け、ドアを押す。
「ただいま」
返事はない。
当たり前だ。誰もいない。
暗い玄関。冷たい空気。
人の気配がない、静まり返った空間。
両親は海外赴任中だ。
父親はドバイ、母親はシンガポール。
二年前から、ずっとこの状態が続いている。
最初は「すぐ帰る」と言っていた。
でも、赴任期間は延び続け、今では年に一度帰ってくるかどうか。
連絡は月に数回、LINEで「元気?」「うん」程度。
仕送りは毎月振り込まれる。金銭的には問題ない。
——でも、それだけだ。
冷蔵庫を開ける。
コンビニ弁当がいくつか入っている。
適当に一つ選び、レンジで温める。
チン、という音。
弁当を取り出し、テーブルに置く。
テレビをつける。
一人で食べる夕飯。
テレビの音だけが響く部屋。
——寂しくなんかない。
そう自分に言い聞かせる。
もう、慣れた。慣れたはずだ。
でも、時々——ふと、思う。
誰かが「おかえり」と言ってくれたら。
帰ってきたときに、温かい匂いがしたら。
一緒にご飯を食べる誰かがいたら。
——そんな願望は、口に出さない。
口に出しても、どうにもならないから。
◇
一週間後の土曜日。
目が覚めると、体がだるかった。
頭が重い。喉が痛い。熱っぽい。
体温計を探して測る。
38.5度。
——風邪か。
ベッドから起き上がるのも辛い。
でも、何か食べないと薬も飲めない。
ふらふらしながらキッチンへ行く。
冷蔵庫を開ける。
——空っぽだった。
コンビニ弁当のストックを切らしていた。
買い物に行く気力がない。
スマホを手に取る。
誰かに頼むか?
連絡先を見る。
田中。チームメイト。クラスメイト。
——でも、指が止まる。
なんて言えばいい?
「風邪引いたから買い物してきて」?
そんなこと、頼めるわけがない。
俺たちの関係は、そこまで深くない。
学校で一緒にいるだけの、表面的な付き合いだ。
親に連絡しても、海外から飛んでくるわけがない。
俺はスマホを置いた。
結局、その日は何も食べずに寝た。
次の日も、ほとんど食べられなかった。
月曜日になんとか回復して、コンビニでおかゆを買って、一人で食べた。
誰にも頼れなかった。
誰にも頼らなかった。
——いつものことだ。
◇
さらに一週間後。
俺の誕生日だった。
学校ではクラスメイトたちが「おめでとう」と言ってくれた。
LINEにもメッセージが届いた。
田中たちは「今度奢るわ」と言ってくれた。
——ありがとう。
俺は笑顔で返した。
いつものように。
でも。
放課後、家に帰ると——誰もいなかった。
当たり前だ。
テーブルの上には、何もない。
ケーキもない。プレゼントもない。
「おめでとう」と言ってくれる人も、いない。
スマホが鳴った。
母親からのLINE。
『誕生日おめでとう。お金振り込んでおいたから、好きなもの買いなさい』
——それだけだった。
俺はスマホを置いて、冷蔵庫を開けた。
コンビニ弁当を取り出し、レンジで温める。
一人で食べる、誕生日の夕飯。
ケーキの代わりに、コンビニで買ったプリンを食べた。
ロウソクなんてないから、そのまま。
——誕生日おめでとう、俺。
心の中で、自分に言った。
虚しかった。
でも、涙は出なかった。
もう、慣れてしまったから。
その夜——俺は、ふと思った。
誰かが「おかえり」と言ってくれたら。
誕生日を祝ってくれる誰かがいたら。
俺のことを、本当に見てくれる誰かがいたら。
——そんな誰かが、いたらいいのに。
でも、いない。
俺は一人だ。
目を閉じて、眠りについた。
* * *
【第二章 おかえり】
誕生日から三日後のことだった。
いつものように帰宅した。
玄関のドアを開け、「ただいま」と呟く。
返事はない——はずだった。
「おかえり」
声がした。
「——は?」
玄関に、見慣れた靴が置いてあった。
白いスニーカー。女物。
廊下の奥から、音が聞こえる。
何かを切る音。鍋が沸騰する音。
味噌汁の匂い。
俺はゆっくりと廊下を進み、キッチンを覗き込んだ。
「——お前」
エプロン姿の女がいた。
栗色のセミロング。
活発そうな顔立ち。
フランス人のクォーターで、少し彫りが深い。
佐藤マリア。
俺の幼馴染だ。
「おー、おかえり隆介。ちょうど良かった、もうすぐできるよ」
振り返りもせずに、そう言った。
まるで自分の家みたいな態度で、鍋をかき混ぜている。
「なんでお前がここに——」
「合鍵持ってんの忘れた? あんたの母さんから預かってるの」
「聞いてねえよ」
「言ってなかったっけ。まあいいじゃん、細かいこと」
マリアがようやく振り返った。
——その瞬間、俺は息を呑んだ。
エプロンの下は、薄いキャミソールだった。
鎖骨が露わになっている。
肩紐が細くて、今にもずり落ちそうだ。
「どしたの、ぼーっとして」
「い、いや——その格好」
「ああ、これ? 料理するとき暑いから、軽装なの」
マリアはあっけらかんと言う。
無防備すぎる。
こいつ、自分がどういう格好してるか分かってるのか。
「ほら、突っ立ってないで座んなよ。もうすぐできるから」
エプロンの裾で手を拭きながら、マリアがアゴで食卓を指す。
その動作で、キャミソールの胸元が揺れた。
ブラをしていないのか、乳房の輪郭がはっきり見える。
「……」
俺は慌てて目を逸らした。
「何、どしたの」
「いや、なんでもない」
食卓につく。
心臓がうるさい。
——落ち着け。幼馴染だろ。
そう自分に言い聞かせた。
◇
数分後、テーブルに料理が並んだ。
肉じゃが。味噌汁。ほうれん草のおひたし。白米。
どれも、温かい。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
マリアが向かいに座る。
——近い。
テーブルが小さいせいで、膝が触れそうな距離だ。
マリアは気にしていないようだが、俺は気になって仕方ない。
箸を手に取り、味噌汁を一口。
「……美味い」
素直にそう思った。
コンビニ弁当とは比べ物にならない。
「でしょー? うちの店の味、再現してみたんだ」
マリアが嬉しそうに笑う。
その笑顔が——眩しかった。
「なあ、マリア」
「何?」
「なんで——俺んとこに来たんだよ」
聞いてみた。
合鍵があるから、という理由だけじゃない気がしたから。
マリアは少し黙ってから、言った。
「——一人で飯食ってると思ったら、ほっとけないでしょ」
「……」
「あんた、誕生日も一人だったでしょ。風邪引いた時も、誰にも頼らなかったでしょ」
——なんで、知ってるんだ。
「幼馴染なんだから、分かるよ。あんたが強がってるだけだってこと」
マリアが真っ直ぐに俺を見た。
「しゃんとしなよ、男でしょ。——でも、無理すんな」
その言葉が、胸に刺さった。
「……」
「私がいるから。一人で頑張んなくていいから」
マリアが、手を伸ばしてきた。
俺の手に、そっと重ねる。
温かい。
「——おかえり、隆介」
その言葉に、俺は——泣きそうになった。
でも、泣かなかった。
代わりに、小さく言った。
「……ただいま」
マリアは、にっと笑った。
* * *
【第三章 実家の危機】
それから、マリアは毎日来るようになった。
学校が終わると、俺より先に家に来て、夕飯を作って待っている。
俺が帰ると「おかえり」と言い、一緒に飯を食い、洗い物をして帰っていく。
その繰り返しが、いつの間にか日常になった。
そして——マリアの格好は、いつも無防備だった。
「今日のエプロン、可愛いでしょ」
ある日、マリアがくるりと回って見せた。
フリルのついた白いエプロン。
その下は——タンクトップだけだった。
腕が丸出しで、脇が見える。胸元も開いている。
「……お前、いつも薄着だな」
「だって暑いんだもん。料理してると汗かくし」
マリアはあっけらかんと言う。
本当に気にしていないのか、それとも——わざとなのか。
俺には、分からなかった。
「ほら、座って。今日は焼き魚だよ」
マリアが皿を運んでくる。
その時、前屈みになって——胸元が見えた。
谷間だ。
白い、柔らかそうな膨らみの、間。
「——っ」
俺は慌てて目を逸らした。
「どしたの?」
「なんでもない」
「変なの」
マリアは首を傾げただけだった。
——気づいてないのか、こいつ。
それとも、俺が意識しすぎているのか。
分からない。
でも——マリアといると、ドキドキする。
それだけは、確かだった。
◇
ある夜のこと。
いつものように夕飯を食べていると、マリアの様子がおかしいことに気づいた。
箸の動きが遅い。
いつもなら「美味しい?」と聞いてくるのに、今日は黙っている。
「おい」
「……ん?」
「何かあったのか」
俺が聞くと、マリアの箸が止まった。
「……別に」
「嘘つけ。顔に出てる」
マリアは少し黙ってから——ぽつりと言った。
「——うちの店、やばいかも」
「やばいって?」
「経営。お客さん、減ってて」
マリアは箸を置き、うつむいた。
「去年、近くにチェーン店ができて、客取られて。この半年、ずっと赤字なんだって」
「……」
「母さん、毎日疲れた顔してる。でも私には『大丈夫』しか言わない」
マリアの声が震えている。
「父さんがいなくなってから、母さん一人で店を守ってきたの。私を育てながら、毎日朝から晩まで」
「……」
「その店が潰れるなんて——絶対、嫌」
マリアの目に、涙が滲んでいた。
「……で、お前はどうしたいんだよ」
俺は聞いた。
マリアが顔を上げる。
「どう、って」
「諦めるのか。それとも、戦うのか」
「諦めるわけないでしょ!」
即答だった。
その目に、強い光が宿っている。
「じゃあ、どうする」
「——決めた。料理配信、やる」
料理配信。
「うちのレシピを配信で紹介して、店の宣伝する。それでお客さん呼び戻す」
「……うまくいくのか」
「やってみなきゃ分かんないでしょ」
マリアが立ち上がった。
「ぐだぐだ言ってないで、やるしかないじゃん。——手伝って」
「は?」
「一人じゃ大変だから。あんた、暇でしょ」
「暇じゃ——」
「暇でしょ」
否定できなかった。
「……何すりゃいいんだよ」
「試食係。料理作って、あんたが食べて、リアクションする」
「顔出しは嫌だぞ」
「大丈夫、覆面かぶせるから」
マリアがカバンから黒い覆面を取り出した。
「……不審者じゃねえか」
「逆にウケるって」
マリアが笑う。
その笑顔を見て、俺は思った。
——こいつのためなら、覆面くらいかぶってやるか。
「……しょうがねえな」
「ありがとう!」
マリアの顔がぱっと明るくなった。
この時はまだ、知らなかった。
この「配信」が——俺たちの関係を、大きく変えることになるとは。
* * *
【第四章 最初の罰ゲーム】
三日後の土曜日。
初めての配信が行われた。
場所は俺の家のリビング。
テーブルの上にノートパソコンとカメラをセットし、キッチンが映るようにした。
「準備いい?」
マリアが聞いてくる。
今日のマリアは——白いブラウスに、紺色のプリーツスカート。
清楚な格好だ。
胸元のボタンは一番上まで留めている。
いつもの無防備な格好とは違う。
配信用に、ちゃんとしてきたらしい。
「いいけど、本当にこれかぶんの?」
俺は手に持った覆面を見た。
黒い布製で、目の部分だけ穴が開いている。
「大丈夫、個性になるって」
言われるまま、覆面をかぶる。
鏡を見ると、完全に不審者だった。
「……」
「似合ってる似合ってる」
「似合ってねえよ」
マリアは笑いながら、カメラの前に立った。
「じゃあ、始めるよ」
配信がスタートした。
「はーい、初めまして! 『まりあキッチン』へようこそ!」
声のトーンが二段階上がっている。
アイドルみたいな喋り方だ。
「今日から料理配信始めます! 私の実家、小料理屋『さとう』のレシピを紹介していきますね!」
マリアは手際よく料理を始めた。
今日のメニューは肉じゃが。
包丁さばきは見事だった。
さすが小料理屋の娘だ。
三十分ほどで完成。
「さて、ここで試食係を呼びましょう! 覆面くーん!」
俺はカメラの前に出た。
『なにこれ』
『不審者?』
『覆面wwwww』
コメント欄が騒然となる。
まあ、予想通りだ。
「この人が試食担当の覆面くんです! 顔出しNGなので、こんな格好ですけど許してね!」
マリアが俺の前に肉じゃがを置いた。
「はい、覆面くん、食べてみて! ——あーん」
マリアが肉じゃがを箸でつまみ、俺の口元に持ってきた。
「自分で——」
「いいから、あーん!」
強引に口に押し込まれる。
——美味い。
「どう?」
「……美味い」
「もっと感情込めて!」
「美味いって言ってんだろ」
『この二人、距離近くない?』
『付き合ってる?』
『幼馴染っぽい』
コメント欄が反応している。
「さて!」
マリアが急に声を張り上げた。
「ここで、新コーナーをやります! その名も——『食材当てクイズ』!」
——聞いてない。
「覆面くんがこの料理の『隠し味』を当てられたら、覆面くんの勝ち! 外したら——」
マリアが、にやりと笑った。
「——私が、罰ゲームを受けます」
『罰ゲーム?』
『何やるの?』
『気になる』
コメント欄がざわつく。
「罰ゲームの内容は、覆面くんが決めます。——何でもいいよ」
マリアが俺を見た。
その目が——挑発的だった。
「……何でも?」
「何でも」
——本気か、こいつ。
「じゃあ、クイズいくよ! この肉じゃがの隠し味は何でしょう!」
俺は考えた。
肉じゃがの隠し味。
さっき食べた時、甘みを感じた。砂糖とは違う、まろやかな甘さ。
これは——はちみつか。
分かる。正解は、たぶんはちみつだ。
——でも。
俺の頭に、悪い考えが浮かんだ。
わざと外したら——マリアに罰ゲームをさせられる。
「何でもいい」と言った。
つまり——何を要求しても、いいってことだ。
「……りんご」
俺は、わざと間違えた。
「ブッブー! 残念でした! 正解は、はちみつでした!」
マリアが嬉しそうに言う。
「というわけで、罰ゲームです! 覆面くん、何がいい?」
コメント欄が沸き立つ。
『罰ゲームきた』
『何やらせるの』
『ドキドキ』
俺は——言った。
「——ブラ、脱いで」
一瞬、空気が凍った。
マリアの目が、大きく見開かれる。
コメント欄も、一瞬止まった。
『は?』
『いきなり?』
『まじで言ってる?』
「……本気?」
マリアが聞いてきた。
声が少し震えている。
「何でもいいって言っただろ」
俺は、心臓がバクバクしていた。
言いすぎたか。怒られるか。
——でも。
「……分かった」
マリアが、そう言った。
『え?』
『まじ?』
『やるの?』
コメント欄がカオスになる。
マリアが立ち上がった。
カメラに背を向ける。
「ち、直接は見せないから……服の中から、脱ぐだけ……」
声が震えている。
耳が真っ赤だ。
マリアが、ブラウスの中に手を入れた。
背中に手を回している。
ホックを外しているんだ。
「……ん」
小さな声が漏れた。
そして——マリアの手が、ブラウスの裾から出てきた。
その手には——白いブラジャーが握られていた。
「——はい。これで、いい?」
マリアが振り返った。
顔は真っ赤。目には涙が滲んでいる。
でも——逃げなかった。
手に持ったブラジャーを、俺に見せつけるように掲げている。
白いレース。
シンプルだけど、可愛らしいデザイン。
さっきまで——マリアの胸を包んでいたもの。
『うおおおおお』
『まじかよ』
『生脱ぎ』
『初回からこれ?』
『神チャンネル見つけた』
コメント欄が大爆発した。
「も、もう……満足でしょ……」
マリアがブラを胸に抱きしめる。
その動作で、ブラウスの下の胸が揺れた。
——ノーブラだ。
今、マリアはブラをしていない。
薄いブラウスの下に、生の乳房がある。
俺は——息を呑んだ。
胸のラインが、ブラウス越しに見える。
乳首の位置まで、うっすらと分かる。
「み、見ないでよ……」
マリアが胸を腕で隠す。
その動作が——逆にエロかった。
「で、でも、約束だから……このまま、配信続けるね……」
マリアがカメラに向き直った。
ノーブラのまま、配信を続ける。
ブラウスの下で、乳房が揺れている。
動くたびに、形が変わる。
乳首の位置が、服の上からでも分かる。
『やばい』
『見えてる見えてる』
『乳首の位置分かる』
『登録した』
『神』
コメント欄が止まらない。
視聴者数が——跳ね上がっていた。
最初は二十人くらいだったのに、今は百人を超えている。
「え、えーと、今日の配信はここまで……また次回も見てね……」
マリアが慌てて配信を切った。
◇
配信が終わった後。
マリアは俺の前に立っていた。
まだノーブラのまま。
脱いだブラジャーを、両手で握りしめている。
「……」
「……」
沈黙。
「あの——」
「——最低」
マリアが、俺を睨んだ。
「いきなりブラ脱げって何。変態。最低。死ね」
「お前が何でもいいって——」
「限度があるでしょ!」
マリアの顔が真っ赤だ。
怒っている——と思った。
でも。
「——でも」
マリアの声が、少し小さくなった。
「……嫌じゃ、なかった」
俺は、聞き間違えたかと思った。
「は?」
「だから……嫌じゃなかったって、言ってんの」
マリアが俯く。
耳まで真っ赤だ。
「恥ずかしかったけど……あんたの前で脱ぐの……なんか、ドキドキした」
その言葉に、俺の心臓が跳ねた。
「視聴者も増えたし……チャンネルのためになるなら……また、やってもいい」
マリアが、俺を見た。
潤んだ目で。
「——あんたの言うこと、聞いてあげる。だから……もっと、要求して」
その言葉は——俺の中の何かに、火をつけた。
* * *
【第五章 ノーブラ配信】
二回目の配信。
視聴者数は、前回の口コミで一気に増えていた。
配信開始時点で、すでに二百人を超えている。
『例のチャンネルだ』
『ブラ脱いだ子』
『今日は何やるの』
コメント欄がざわついている。
「はーい、『まりあキッチン』二回目です!」
マリアが元気に挨拶する。
今日のマリアは——白いニットにデニムスカート。
一見、普通の格好だ。
でも、俺は知っている。
——今日のマリアは、ノーブラだ。
配信前、マリアは俺に言った。
「今日は最初からノーブラでやる。——あんたが、そう言ったんでしょ」
昨日のLINE。
俺は、「次の配信、最初からノーブラで」と送っていた。
半分冗談だった。
でも、マリアは——本当にノーブラで来た。
白いニットの下で、乳房が揺れている。
薄い生地だから、形がはっきり分かる。
乳首の位置も——うっすらと、見える。
『今日もノーブラ?』
『揺れてる』
『乳首見えそう』
視聴者も気づいている。
「えーと、今日作るのは、親子丼です!」
マリアが料理を始めた。
卵を割る。
鶏肉を切る。
玉ねぎを炒める。
その動作のたびに、胸が揺れる。
特に——卵を溶くとき。
腕を激しく動かすから、乳房がブルンブルンと揺れる。
『揺れてる揺れてる』
『やばい』
『溶きすぎだろ』
『もっと溶いて』
コメント欄が大盛り上がりだ。
マリアは——気づいているのか、いないのか。
顔は少し赤いが、配信を続けている。
三十分後、親子丼が完成した。
「覆面くん、試食お願い! はい、あーん!」
マリアが親子丼を持って近づいてきた。
近い。
胸が——目の前にある。
白いニット越しに、乳房の形がはっきり分かる。
乳首が少し立っている。
興奮しているのか、それとも——冷房のせいか。
「あ、あーん」
マリアがスプーンを俺の口に運ぶ。
前屈みになって——胸元が、覗けた。
谷間だ。
白い、柔らかそうな膨らみの間。
ブラがないから、乳房が自然な形で垂れている。
「——っ」
俺は慌てて目を逸らした。
「どう? 美味しい?」
「あ、ああ……美味い……」
「もっとちゃんと味わってよ」
マリアが不満そうに言う。
その動作で、また胸が揺れた。
「さて、食材当てクイズです! この親子丼の隠し味は何でしょう!」
俺は考えた。
親子丼の隠し味。
出汁の味が濃厚だ。普通の出汁じゃない。
これは——昆布出汁に、干し椎茸を加えている。
分かる。
でも——また、わざと外すか?
外したら、罰ゲームだ。
今度は、何を要求しよう。
「……めんつゆ?」
俺は、わざと間違えた。
「ブッブー! 正解は、干し椎茸の出汁でした!」
マリアがにっこり笑う。
「はい、罰ゲームタイム! 覆面くん、何がいい?」
俺は——言った。
「——乳首、見せて」
コメント欄が爆発した。
『は?』
『まじ?』
『攻めすぎだろ』
『やるのか?』
マリアの顔が、一瞬で真っ赤になった。
「ち、乳首って——」
「ニット、めくって。一瞬でいい」
「そ、そんな——」
マリアが戸惑っている。
でも——拒否は、しなかった。
「……一瞬だけ、だよ?」
マリアがニットの裾を掴んだ。
手が震えている。
そして——
ニットを、めくり上げた。
一瞬だった。
本当に、一瞬。
画面には映らない。
そういう角度でカメラを回しているから。
でも——俺は、見た気がした。
白い肌。
柔らかそうな乳房。
そして——ピンク色の、小さな突起。
マリアの乳首が見えた気がした。くそ、時間が止まればいいのに……
『くそっ!』
『残念、見えない!』
『でもこの見えない感覚、最高!』
『もっとやれ!』
コメント欄が大炎上した。
「み、見たでしょ……もう十分でしょ……」
マリアがニットを下ろす。
顔は真っ赤。目には涙が滲んでいる。
でも——逃げなかった。
俺は——興奮していた。
マリアの乳首は強烈だ。
何百人もの視聴者が本当にちゃんとしっかりと見たいと思っているはずだ。
その背徳感が——たまらなかった。
◇
配信後。
「……最低」
マリアが俺を睨む。
「乳首見せろって何。変態。異常者。犯罪者」
「お前が——」
「何でもいいとは言ったけど限度があるでしょ!」
マリアが叫ぶ。
でも——その目は、潤んでいた。
「……でも」
また、その言葉が来た。
「嫌じゃ、なかった……」
マリアが俯く。
「恥ずかしかったけど……あんたに見られるの……視聴者に見られるの……なんか……」
マリアが、自分の胸を押さえた。
「——ドキドキ、した」
その告白に、俺の心臓が跳ねた。
「チャンネル登録者、一気に増えたし……このまま続けたら、お店も……」
マリアが顔を上げた。
「だから——もっと、やる」
「……いいのか」
「いい」
マリアが、俺の目を真っ直ぐに見た。
「あんたの言うこと、全部聞く。だから——もっと、要求して」
その目には——覚悟があった。
そして——欲情も。
* * *
【第六章 ノーパン配信】
三回目の配信。
視聴者数は五百人を超えていた。
「ブラ脱ぎ配信者」として、ネットで話題になり始めている。
「はーい、『まりあキッチン』三回目です!」
今日のマリアは——白いブラウスに、短めのスカート。
膝上十五センチくらいの、プリーツスカート。
そして——今日も、ノーブラだ。
ブラウスの下で、乳房が揺れている。
もう、視聴者も「ノーブラがデフォルト」だと分かっている。
『今日も揺れてる』
『ノーブラ確定』
『スカート短くない?』
コメント欄が活発だ。
「今日作るのは、オムライスです!」
マリアが料理を始めた。
卵を割る。
ご飯を炒める。
ケチャップで味付け。
動くたびに、スカートが揺れる。
短いスカートだから、太ももがチラチラ見える。
『太もも見えた』
『もっと見たい』
『回って』
コメント欄のリクエストに、マリアは応えなかった。
でも——俺は、考えていた。
今日の罰ゲーム、何にしようか。
三十分後、オムライスが完成。
「食材当てクイズ! このオムライスの隠し味は何でしょう!」
俺は食べた。
ケチャップの中に——何かある。ウスターソースだ。
でも——
「……コンソメ?」
わざと外す。
「ブッブー! 正解はウスターソースでした! 罰ゲームタイム!」
マリアが俺を見る。
その目には——期待と、恐怖が混ざっていた。
「覆面くん、今日は何?」
俺は——言った。
「——パンツ、脱いで」
空気が凍った。
『は?』
『まじ?』
『ノーパンにするの?』
『やばすぎ』
マリアの顔が、真っ白になった。
「パ、パンツって——」
「服の中から脱いで。ブラと同じだ」
「で、でも——」
マリアが震えている。
——やりすぎたか。
そう思った時。
「……分かった」
マリアが、そう言った。
「え?」
俺は聞き返した。
「やる。——あんたが、そう言うなら」
マリアが、スカートの中に手を入れた。
『まじ?』
『やるの?』
『神』
『神』
『神』
コメント欄が埋め尽くされる。
マリアの手が、スカートの中で動いている。
パンツを掴んでいるのが分かる。
そして——
マリアが、スカートの下からパンツを引き抜いた。
白い布。
小さな三角形。
——マリアのパンツだ。
「……はい」
マリアが、震える手でパンツを掲げた。
白いコットン。
シンプルなデザイン。
さっきまで——マリアの一番大事な場所を覆っていたもの。
『うおおおおお』
『生パンツ』
『神回』
『過去最高』
コメント欄が爆発した。
「こ、これで……満足……?」
マリアの声が震えている。
顔は真っ赤。涙が頬を伝っている。
でも——逃げない。
俺は——興奮で頭がおかしくなりそうだった。
今、マリアはノーパンだ。
短いスカートの下に、何も履いていない。
動いたら——見えるかもしれない。
「そ、それで……このまま、配信続けるね……」
マリアがカメラに向き直った。
ノーパンのまま、配信を続ける。
座る時、マリアは異様に気をつけていた。
スカートの裾を押さえ、絶対に見えないようにしている。
でも——視聴者は分かっている。
『今この子、ノーパン』
『スカートの下、何もない』
『興奮する』
『神』
その「背徳感」が——視聴者を熱狂させていた。
そして——俺も。
◇
配信後。
マリアは、まだパンツを手に持っていた。
「……返して」
「え?」
「パンツ、返して」
マリアが手を伸ばす。
俺は——
「……やだ」
と、言った。
「は?」
「これ、もらう」
「なっ——」
マリアの顔が真っ赤になる。
「な、何言ってんの! 返しなさいよ!」
「罰ゲームで脱いだんだから、俺のもの」
「そんなルールないでしょ!」
マリアが飛びかかってきた。
俺はパンツを高く掲げて、避ける。
「返せ!」
「やだ」
「返せってば!」
マリアがジャンプして取ろうとする。
その瞬間——スカートが、ふわりと舞い上がった。
おいおい、そこには――
白い肌。
何も覆われていない、マリアの——
「——っ!」
マリアが慌ててスカートを押さえた。
顔が、茹でダコみたいに真っ赤になっている。
「み、見た……?」
「……」
「見たでしょ!」
「……見てない」
「嘘! 絶対見た!」
マリアが叫ぶ。
でも——その目は、潤んでいた。
「……最低。変態。エロ。死ね」
マリアが罵倒する。
でも——
「——でも」
また、その言葉。
「嫌じゃ、なかった……」
マリアが俯く。
「あんたに見られるの……恥ずかしいけど……嬉しい……」
その告白に、俺の理性が飛びそうになった。
「だから——もっと、見て」
マリアが、スカートの裾を掴んだ。
「——見たいんでしょ? あんた、変態だから」
そして——ゆっくりと、スカートを持ち上げた。
白い太もも。
その奥——
「——っ!」
俺は、咄嗟に視線をそらした。
マリアの一番大事な場所。
何も覆われていない、生の——
「……エロ」
マリアが、スカートを下ろした。
顔は真っ赤。でも——笑っていた。
「次の配信も、楽しみにしてなよ」
その言葉に——俺の欲望が、さらに膨らんだ。
* * *
【第七章 全裸エプロン】
四回目の配信。
視聴者数は二千人を超えていた。
「脱ぎ配信者」として、完全にバズっている。
登録者も急増。一万人を突破した。
小料理屋「さとう」にも、配信を見た客が来るようになった。
作戦は——成功しつつあった。
でも、俺の欲望は——止まらなかった。
「はーい、『まりあキッチン』四回目です!」
今日のマリアは——いつものノーブラニットに、ミニスカート。
そして——ノーパンだ。
もう、下着をつけなくなった。
「どうせ脱がされるから」と、マリアは言った。
配信中、マリアは常に気をつけている。
座る時はスカートを押さえ、動く時は脚を閉じる。
でも——視聴者は知っている。
この子は、下着を履いていない。
『今日もノーパン?』
『確定だろ』
『見えそうで見えない』
『もどかしい』
その「見えそうで見えない」が——視聴者を熱狂させていた。
「今日作るのは、チャーハンです!」
マリアが料理を始めた。
フライパンを振る。
その動作で、胸が大きく揺れる。
ニットの下で、乳房がブルンブルンと跳ねている。
そして——フライパンを高く持ち上げた時。
ミニスカートが、ふわりと舞い上がった。
一瞬——太ももの奥が、見えた。
『くそっ、陰になってる!』
『惜しい!』
『もう一回やって!』
『これじゃ生殺しだよ!』
コメント欄が爆発する。
マリアは気づいていないのか、そのまま料理を続けている。
——いや、気づいているのかもしれない。
気づいた上で、見せているのかもしれない。
三十分後、チャーハンが完成。
「食材当てクイズ! このチャーハンの隠し味は何でしょう!」
俺は食べた。
鶏ガラスープの味がする。隠し味はオイスターソースだ。
でも——
「……ナンプラー?」
わざと外す。
「ブッブー! 正解はオイスターソースでした! 罰ゲームタイム!」
マリアが俺を見る。
その目には——期待が、滲んでいた。
「覆面くん、今日は何?」
俺は——言った。
「——全部、脱いで」
空気が、完全に止まった。
『は?』
『全裸?』
『配信で?』
『BANされるだろ』
コメント欄が騒然となる。
マリアも、固まっている。
「ぜ、全部って——」
「ニットも、スカートも、全部脱いで。——ただし、エプロンだけつけて」
全裸エプロン。
裸の上に、エプロンだけ。
背中は丸出し。横から見れば、乳房も見える。
『全裸エプロン!』
『それならギリOK?』
『やるのか?』
『神展開』
マリアの顔が、真っ赤になった。
「ぜ、全裸エプロンって——」
「やれないなら、いいけど」
俺は、わざと挑発した。
「……やる」
マリアが、そう言った。
「え?」
俺は、聞き返した。
「やるって言ってんの。——あんたが、そう言うなら」
マリアが立ち上がった。
そして——
ニットの裾を掴み、ゆっくりと持ち上げた。
『おおおおお』
『まじか』
『やるのか』
『神』
ニットが、頭の上を通り抜けた。
マリアの上半身が、露わになった。
ただし、エプロンで肝心なところは隠れている。
白い肌。
細い腰。
そして——形のいい、乳房。
『ああー、惜しい!』
『肝心なところが見えない!』
『でもこれはこれでいい!』
『いいぞ! もっとやれ!』
コメント欄が大炎上した。
マリアは——止まらなかった。
スカートのホックを外す。
ファスナーを下ろす。
そして——スカートを、床に落とした。
マリアが——全裸になった。
白い肌。
細い腰。
形のいい乳房。
そして——太ももの間の、三角形。
でも、それらはエプロンの生地で覆い隠されている。
見たい。そのすべてを――
俺は——息を呑んだ。
——全裸エプロンの完成だ。
正面は、エプロンで隠れている。
でも——背中は、丸出しだ。
白い背中。
細い腰。
丸いお尻。
横から見れば——乳房の横が、見える。
『背中やばい』
『お尻見えてる』
『横乳!』
『神回確定』
コメント欄が止まらない。
「こ、これで……満足……?」
マリアの声が震えている。
顔は真っ赤。涙が頬を伝っている。
でも——逃げない。
「そ、それで……このまま、配信続けるね……」
マリアが——全裸エプロンのまま、カメラに向き直った。
俺は——興奮で、頭がおかしくなりそうだった。
今、マリアは全裸だ。
エプロン一枚で、配信している。
何千人もの視聴者に、見られている。
その背徳感が——たまらなかった。
◇
配信後。
マリアは、まだ全裸エプロンのままだった。
俺の目の前で、震えている。
「……もう、終わったよ。服、着ていいよ」
俺が言うと、マリアは——首を横に振った。
「……脱がない」
「え?」
「このまま……いて」
マリアが、俺に近づいてきた。
全裸エプロンのまま。
背中が丸出しのまま。
「あんたの前で……このままでいたい……」
マリアが、俺の胸に顔を埋めた。
温かい。
柔らかい。
マリアの体温が、伝わってくる。
「好き……」
マリアが、呟いた。
「あんたのこと、好き……だから、こんなこと、できるの……」
その告白に、俺の心臓が跳ねた。
「マリア——」
「だから——もっと、要求して」
マリアが、顔を上げた。
潤んだ目で、俺を見つめる。
「あんたの言うこと、何でも聞く。どんなことでも、やる」
マリアが、エプロンの紐に手をかけた。
「——このエプロンも、脱ごうか?」
俺は——
「……いや」
と、言った。
「え?」
「今日は、そのままでいい」
マリアが、不思議そうな顔をする。
「でも——」
「俺が見たいのは、お前の裸だけじゃない」
俺は、マリアの手を取った。
「お前自身が、欲しい」
マリアの目が、大きく見開かれた。
「——え」
「お前のこと、好きだ」
俺は——告白した。
「エロい体だから好きなんじゃない。お前だから、好きなんだ」
マリアの目から、涙がこぼれた。
「りゅう、すけ——」
「だから——俺のものになれ。体も、心も、全部」
俺は、マリアを抱きしめた。
全裸エプロンの、マリアを。
「……うん」
マリアが、俺の胸の中で頷いた。
「あんたのものになる。全部、あげる」
その言葉に——俺は、マリアの唇を奪った。
* * *
【第八章 おかえりなさいませ、ご主人様】
それから——俺たちの関係は、さらに深まった。
配信は続けている。
登録者は五万人を超えた。
小料理屋「さとう」も、予約が取れないほどの人気店になった。
マリアの作戦は——大成功だった。
でも、俺たちの「ゲーム」も——続いている。
配信では、相変わらず罰ゲームをやっている。
マリアは俺の要求に、何でも応えてくれる。
ノーブラ配信。
ノーパン配信。
全裸エプロン配信。
視聴者は熱狂し、チャンネルは成長し続けている。
そして——配信外でも。
◇
ある日の夕方。
俺は、いつものように帰宅した。
「ただいま」
玄関を開ける。
——そして、固まった。
四つん這いの姿勢。
首には黒い革の首輪。
そして——全裸にエプロンだけ。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
マリアが——犬の真似をして、俺を出迎えていた。
プロローグの場面だ。
——ここに、時間が追いついた。
「今日のマリアはペットです。ご主人様のお好きなようにお使いください」
顔は真っ赤。耳まで紅潮している。
でも、目は逸らさない。
潤んだ瞳で、まっすぐに俺を見上げている。
首輪から伸びるリードを、マリアは自分の口に咥えていた。
「——ふぁい、ひーふぉ、ほうぞ」
——はい、リード、どうぞ。
俺は——リードを受け取らなかった。
「……マリア」
「……?」
俺は、マリアの前にしゃがみ込んだ。
そして——首輪に手を伸ばした。
カチャリ、と音がして、首輪が外れた。
「え——」
マリアが目を見開く。
「何、して——」
「こんなもん、いらない」
俺は首輪を床に置いた。
「でも——あんたが、そうしろって——」
「俺が欲しいのは、ペットじゃない」
俺は、マリアの手を取った。
「お前だ。——俺の、家族になる女だ」
マリアの目から、涙がこぼれた。
「か、家族——」
「俺は、ずっと一人だった。両親がいなくて、誰もいない家に帰って、一人で飯食って」
言葉が、溢れ出す。
「でも、お前が来てから変わった。『おかえり』って言ってくれる人がいる。一緒に飯を食う人がいる。それが——どれだけ嬉しかったか」
マリアの頬を、涙が伝う。
「だから——俺と家族になってくれ」
それは——プロポーズだった。
高校生のくせに、早すぎるプロポーズ。
でも——本気だった。
マリアは泣きながら、笑った。
「……バカ。やっと言えたじゃん」
いつもの江戸っ子口調が戻っている。
「ずっと待ってたんだから。あんたがそれを言うの」
「……知ってたのか」
「当たり前でしょ」
マリアが、俺に抱きついた。
全裸エプロンのまま。
温かい体温が、伝わってくる。
「私も——あんたのこと、好き。ずっと、好きだった」
「……」
「だから——家族になる。あんたの、お嫁さんになる」
マリアが顔を上げた。
涙と笑顔が、混ざっている。
「——でも」
マリアが、いたずらっぽく笑った。
「お嫁さんになっても——あんたの言うこと、聞いてあげるよ?」
「……」
「だって、好きだから。あんたに支配されるの、好きだから」
マリアが、首輪を拾い上げた。
「これ、捨てないで。——また、つけてほしい時、あるかもしれないから」
その言葉に——俺は、笑った。
「……お前、本当に——」
「変態でしょ? あんたの影響だよ」
マリアも、笑った。
俺たちは——お互いを求め合っている。
支配と服従。
でも、それは——愛情の形だ。
俺がマリアを求め、マリアがそれに応える。
マリアが俺を求め、俺がそれに応える。
お互いがお互いを必要としている。
それが——俺たちの「家族」だ。
◇
翌日の夕方。
俺はいつものように帰宅した。
「ただいま」
玄関を開けると——マリアが立っていた。
今日は、普通のエプロン姿だ。
その下には、ちゃんと服を着ている。
——でも、手には何かを持っている。
メイド服。ナース服。チャイナ服。猫耳。バニーガール。
そして——首輪。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
マリアが、にこりと笑った。
「今日は——どのマリアがいいですか?」
俺は——笑った。
「今日は、普通のお前でいい」
「え? せっかく用意したのに」
「普通のエプロン姿が、一番いい」
マリアの顔が、ぱっと赤くなった。
「な、何それ……そういうの、ずるい……」
「うるせえ。飯作れ」
「はいはい」
マリアがキッチンへ向かう。
その後ろ姿を見ながら、俺は思った。
——これが、俺の日常だ。
毎日、「おかえり」と言ってくれる人がいる。
一緒にご飯を食べる人がいる。
帰る場所がある。
そして——時々、エロいこともする。
それが、俺たちの関係だ。
「ご飯できたよ」
「おう」
テーブルにつく。
向かい合って座る。
「いただきます」
「召し上がれ」
温かい料理。
向かいに座る、マリアの笑顔。
——俺は、もう一人じゃない。
◇
「ねえ、隆介」
食後、マリアが言った。
「何」
「明日の配信、何する?」
俺は少し考えてから——
「お前に任せる」
「え? 珍しい」
「たまには、お前がやりたいことやれよ」
マリアが、にやりと笑った。
「じゃあ——」
マリアが立ち上がり、俺の隣に座った。
「今日、新しい下着買ったんだ」
「……へえ」
「見る?」
マリアが、スカートの裾を少し持ち上げた。
白いレースが、チラリと見えた。
「……見たい」
「じゃあ、見せてあげる」
マリアが、ゆっくりとスカートを持ち上げていく。
「——でも、タダじゃないよ?」
マリアがいたずらっぽく笑う。
「何が欲しい」
「んー、そうだな——」
マリアが、俺の耳元に顔を近づけた。
そして——囁いた。
「——今夜、泊まっていい?」
俺は——
「……いいよ」
と、答えた。
マリアの顔が、ぱっと明るくなった。
「やった」
そして——マリアは、俺の唇にキスをした。
* * *
【エピローグ】
——おかえりなさいませ、ご主人様。好きな私をお使いくださいませ。
それが、俺たちの合言葉になった。
配信は今も続いている。
登録者は十万人を超えた。
小料理屋「さとう」は、予約が半年待ちの人気店になった。
マリアの母親は、毎日笑顔で働いている。
「娘のおかげよ」と、いつも言っている。
俺の両親は——まだ、海外にいる。
でも、俺はもう寂しくない。
帰る場所がある。
待っていてくれる人がいる。
「おかえり」と言ってくれる、大切な人がいる。
そして——その人は、俺の言うことを何でも聞いてくれる。
最高の幼馴染で、最高の恋人で、最高の——
「ねえ、隆介」
マリアが、俺の腕に絡みついてきた。
「何」
「今夜、何着る?」
マリアがコスプレ衣装の山を指さす。
「んー……」
「メイド? ナース? バニー? それとも——」
マリアが、首輪を持ち上げた。
「——これ?」
俺は——笑った。
「全部」
「え?」
「全部、順番に着ろ」
マリアの顔が、真っ赤になった。
「ぜ、全部って——何着あると思ってんの——」
「知らね。お前が用意したんだろ」
「うう……」
マリアが唸る。
でも——その目は、嬉しそうだった。
「……分かった。やる」
マリアが立ち上がった。
「じゃあ、まずはメイドから——」
マリアが服を脱ぎ始める。
俺は——それを、じっと見つめた。
これが、俺たちの日常だ。
エロくて、甘くて、幸せな日常。
——おかえりなさいませ、ご主人様。
その一言から始まった、俺たちの物語。
これからも——ずっと、続いていく。




