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第95話:宮本玲奈

――涙が、止まらなかった。


「私は、そのような立派な若者が、米国の同盟国である日本にいることを――心から誇りに思う」


その言葉が大統領の口から発せられた瞬間、胸の奥を強烈に突き刺されて、嗚咽が込み上げてきた。

声を殺しても、喉が震え、頬を伝う熱いものは止められない。


(……直也……。あなたは本当に、“立派”だよ……)


最初に「米国で地熱発電を用いたAIデータセンター事業を進めよう」と直也が言い出したときのことを思い出す。

私は誰よりも彼を信じ、支持し続けてきた。

けれど同時に、冷静に考えていた。――現実的には難しいのではないか、と。


政治的なしがらみ、電力会社の消極性、規制当局の壁……。

いくつもの「動かない理由」を並べれば、それこそいくらでもあった。

だから、直也の夢があまりに眩しく見えるほど、どこかで「奇跡でも起きない限りは」と思ってしまっていた。


でも今――。


その奇跡は現実になった。

直也のプランが、米国大統領の演説として世界に響いている。

これこそが「立派」という言葉の証。

自分の目で、その瞬間を見てしまった以上、もう疑う余地はない。


胸がいっぱいで、何度も涙を拭った。


※※※


そして、式典はいよいよ次の場面へと移った。

――花束贈呈。


ステージの脇に、白いドレスを纏った保奈美が立っていた。

光沢を放つ布地と、天使のような清らかさ。

その小さな手に抱かれた花束は、まるで宝石のように輝いて見えた。


「……きれい……」

誰かの呟きが、観客席から漏れた。

すぐに別の声が続く。

「Oh, look at her…」

「She’s like an angel…」


その声は波紋のように広がり、やがて拍手が自然と湧き起こる。

花束を持って歩み出す保奈美の姿に、会場全体が魅了されていた。


堂々とした足取り。

けれど、私には分かった。――その足がほんの少し震えていることを。

それでも彼女は一歩も怯まず、真っ直ぐに大統領の前へと進んでいく。


――拍手が鳴り止まなかった。


保奈美が花束を大統領に差し出し、その手が受け取られた瞬間。

会場全体がひとつの波のように揺れ、熱を帯びた拍手が会場を包んだ。


だが次の瞬間、私の胸をさらに打ち震わせたのは――。


大統領がほんの少し身を屈め、保奈美を軽く抱き寄せたのだ。

彼女の肩を包み込むように、ほんの一瞬。

そして式典壇の近くにいた私たちにだけ聞こえるくらいの低い声で囁いた。


「This beautiful young lady’s brother-in-law… is the true mastermind.」

(この美しい少女のお義兄さんこそが、本当の立役者なのさ)


その言葉と同時に、大統領は視線を直也に向け、小さくサムアップしてみせた。


(……っ!)


胸が詰まった。

涙がまたこみ上げてきた。


壇上を降りていく大統領の背を見送る間にも、周囲の人々はその「サイン」を確かに受け取っていた。

日本の経産大臣が、深く頷いて直也の方へ視線を送る。

サンフランシスコ総領事も、五井物産の社長も、そして五井アメリカ支社長も。

彼らは皆、理解していた。――この舞台の本当の立役者が誰なのかを。


そして次の瞬間、舞台下に居る直也に向けて、再び大きな拍手が広がった。


その音は、国と国を超えた賞賛の証。

政治や企業の駆け引きではなく、一人の若者に贈られる、本物の敬意だった。


(直也……。あなたは、ここまで来たんだね)


私は嗚咽をこらえながら拍手を送った。

隣で亜紀さんも同じように涙を流し、保奈美ちゃんは真っ赤に頬を染めながらも、誇らしげに笑っていた。


――この瞬間、もう誰も疑わない。

直也こそが“立派な人”なのだと。


そして私は心の奥で、また強く誓っていた。

これからも、どんなことがあっても、この人を支え抜くのだと。


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