第91話:宮本玲奈
――鏡の中に映った自分を見て、私は思わず息を呑んだ。
(……これ、私?)
ルイスの手が髪をすくい、仕上げのスプレーがふわりと舞った瞬間、そこに現れたのは――私が一度も見たことのない自分だった。
すっと通った輪郭、凛としたまなざし。
けれど怖いほど硬いわけじゃない。
どこか柔らかさを残しながら、「直也に安心感を与えたい」という私の願いそのものが形になっていた。
「Oh!Trust!これぞ“Trust”!」
ルイスが大仰に手を叩き、満足げに叫ぶ。
隣の亜紀さんもまた、目を丸くして鏡を見ていた。
強さと艶やかさを兼ね備えた表情。まさに“できる女”という言葉がそのまま絵になったような迫力。
彼女自身も思わず小さく笑い、「……すごい」と呟いていた。
「Yes!Power!これぞ“Power Woman”!」
ルイスは満足そうに両手を広げ、鏡越しにウィンクしてみせる。
――そして。
「さて……Last Princess!」
ルイスは一転して神妙な表情になり、保奈美ちゃんの前に立った。
彼女の柔らかな髪をすくい、指先でふわりと形を整えていく。
シルクのような黒髪が光を受け、天使の羽のように広がった。
まるで額縁に入った聖画のように、彼女が一段と光を放ち始めた瞬間――私も亜紀さんも、言葉を失った。
「……っ……」
保奈美ちゃん自身が鏡を見て、思わず口元を押さえる。
そこに映っていたのは、私たちが知っている“かわいい義妹”ではなかった。
それは――天から舞い降りた大天使。
どんなドレスも、どんな宝石も霞むような輝きを放つ存在。
ルイスが最後に、軽く肩へ手を置いた。
そして低く、しかし誇らしげに言った。
「You are… PRINCESS!」
その言葉に、保奈美ちゃんの瞳が揺れた。
緊張に縛られていた肩がほんの少し下がり、代わりに背筋が伸びる。
頬が赤くなりながらも、そこには確かに誇らしさが宿っていた。
(……そうだね。大統領に花束を渡すのは、まさしくプリンセスの役割だもの)
亜紀さんと私は、思わず目を見合わせ、同時に微笑んでしまった。
これなら大丈夫。
どれほど大きな舞台でも、彼女は堂々と立てる。
――残るは、プリンセスにふさわしいドレスの準備だけだ。
私たちの胸は、次の段取りに向けてさらに高鳴っていた。




