表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
88/105

第86話:式典への招待状(一ノ瀬直也)

 ――正直に言えば、オレは出世なんてそもそもどうでもいい。

 肩書に執着するつもりは、最初から全くなかった。


 だが、プロジェクトにおける役割だけはそうはいかない。


 人工涵養型EGSによる地熱発電出力の拡大、ハイパーAIデータセンターの構築。

 これらを結びつけた壮大な構想を、しかも日米で同時に前進させるには――統括PMという役割を自分が担うのが最も理にかなっている。


 国内ではITセクターの統括取締役に直結し、米国では五井アメリカ支社長に直属。

 さらにSPVについては、事実上社長に直結することになる。

 これで、意思決定の階層はほとんどなくなる。

 迅速に動ける。

 今まで国内で停滞していたプロジェクトも、一気に突破口が開ける。


(……これで、ようやくプロジェクトを推進する体制が整った)


 しかし、それで全てが片付くわけではない。

 残された課題は山ほどある。


 人工涵養型EGSにおける地下のデジタルツイン化とリアルタイムのシミュレーション、そして、それに基づくAI注水コントロールシステムの実現。


 地熱発電のエネルギー制御層におけるAI活用の標準化。

 そもそもこれに関しては対象となる発電方式を地熱に絞るのが良いのか、それとも再生エネルギー全領域をカバーするべきかを含めて検討する必要があるだろう。


 そして大前提となる地域住民の理解、地方自治体の支持を得る事。

 更には、電力会社や規制当局、特に経産省や環境省との折衝。


 要するに、日本と米国の政権双方の支持を現実のインフラに結びつけるプロセスが多岐にわたって存在するのだ。


 どれも難易度は高い。

 一つ間違えば計画全体が頓挫しかねない。


(だが――立ち止まることは許されない)


 米国政権は動いた。

 そしてその動きの迅速さを見て、慌てて日本政府も動いた。

 官邸からの圧力もあり、経産省に加えて、環境省が動きを見せ、電力会社のトップからも承認の意向が示された。


 あとはセレモニーだが、これはオレの役割ではない。

 そう思っていたのだが――。


 米国政府から五井物産宛に届いた通知にはこうあった。

 ――サンフランシスコにて来週月曜日、米国大統領が正式に「地熱発電のEGS活用によるエコ発電拡大と、それを活用するハイパーAIデータセンター建設の大型プロジェクト」を、日本政府からの投資資金を活用して、米国政府として全面的に支援する事を正式に発表する。


 その発表セレモニーにおいては、日本の経産大臣、在米サンフランシスコ総領事、五井物産社長、五井アメリカ支社長が揃って臨席する。

 これだけでも異例の大舞台といえるだろう。

 五井物産の今後の三十年を決定するレベルの事案となるのだ。


 だが――さらに異例の通知が添えられていた。

 ホワイトハウスからの正式な招待。


 対象は、オレ――一ノ瀬直也。

 そして新堂亜紀、宮本玲奈。

 それに――一ノ瀬保奈美まで。


 保奈美がどれほどオレの支えになってくれているのか、誰よりもオレ自身が分かっている。

 だが、ホワイトハウスがオレ自身だけでなく、オレの周囲まで配慮し、招待状に名を連ねたという事実は、さすがに予想外だった。


 サンフランシスコでの舞台は、もはや一企業のプロジェクト発表ではない。

 日米両政府を背景とした歴史的・国際的な超大型プロジェクトの幕開け。

 その場に立つということは、もう後戻りはできないということだ。


 オレは深く息を吐き、窓の外に広がるシリコンバレーの夜景を見下ろした。

 煌めく光の一つひとつが、未来の断片のように見えた。


 ……これが “立派になる” という事なのか、それはまだオレには分からない。

 ただ、世界を少しでも良くする、前進させるための何かにはなる筈だ。

 何れにしても、もう舞台は動き出した。

 あとは進むだけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ