第76話:新堂亜紀
――その姿を見た時、胸の奥が熱くなった。
直也くんは、いつでもひたむきだった。
魂を削るように仕事をし、無理をしてでも前に進もうとする。
けれど、その向こうに何があるのか、私はずっと分かっていなかった。
でも今――。
透子さんの墓標の前で、涙を堪えながら「立派になれ」という最期のメッセージを抱きしめる直也くんを見て、私は理解した。
原点は、とてもシンプルで、そして美しいものだったのだ。
“世界を少しでも良くしたい”。
ただそのために最大限努める事。
それが『立派であろうとする』事そのものなのだ。
ノーブルな理念と、鋭い戦略的思考。
一見すれば矛盾しかねないその二つが、直也くんの中で矛盾なく共存している理由が、ようやく分かった。
その根幹にあったのは、彼自身の野心としての“世界を少しでも良くしたい”という思いだけでなく、それと同時に、誰かの願いに応えたい――ただそれだけの、真っ直ぐな祈りだったのだ。
(……そうだったんだ)
分かっていたつもりだった。
彼が新人の頃から、何かと理由をつけては直也くんのそばに行き、声をかけてきたのは、無意識にその“根っこ”に惹かれていたから。
それを今、まざまざと見せつけられた時――私の心にあるのは、ただ一つ。
愛。
もうこれは尊敬でも憧れでもない。
私は直也くんを愛している。
でも同時に、理解している。
今この瞬間、直也くんに無償の愛を与えられるのは、保奈美ちゃんだけだと。
義妹という立場に守られ、ただ真っ直ぐに「大丈夫」と抱きしめられる彼女だけなのだ。
涙をこぼしながらも、慈母のような笑みを浮かべて直也くんを抱きしめる保奈美ちゃん。
その姿は眩しくて――でも不思議と、もう嫉妬など湧いてこなかった。
(……美しい)
ただそう思った。
そして、どうか少しでも直也くんの心が楽になってほしいと願った。
私は、今はっきりと知った。
自分は直也くんを愛している。
でも、その愛はもう見返りを求めない。
ただ彼の重荷を少しでも軽くするために在ればいい――それだけで充分なのだと。




