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第71話:神宮寺麻里

――蒸気と熱気の中で、議論が広がっていった。


直也のたった一言。

「AI TLSを高度化すれば、限りなくゼロに近づけるのではないか?」

その発想を起点に、秀介が、玲奈が、技術者たちが知見を重ねていく。

瞬く間に“次世代TLS”という、具体的で先進的なビジョンが形を成していった。


(……どうして?)


私はただ、その光景を見つめるしかなかった。

直也は変わっていない。

私が「偽り」だと見抜き、憎み、許さないと決めたあの姿のまま。

――人の想いを集め、知恵を束ね、未来を切り拓いてしまう。


私が錯覚していた“理想像”が、今ここに現実となって存在している。

それを認めることが、どうしてもできない。

でも、否定もできなかった。


「麻里」

突然、直也に名を呼ばれた。

反射的に顔を上げる。


「君もAIの専門家だろう。……例えばイーサンに、この領域の研究を加速する上で協力を依頼した場合、彼は何と言うと思う?」


動悸が激しくなる。

彼の視線は真っ直ぐだった。

逃げ場を許さない。


私は、一拍の沈黙の後で答えた。

「……イーサンは、エコエネルギーに対して非常に高い関心を持っています。間違いなく協力するでしょう。そのために必要な知見、技術者、AI研究者のリソース――そうしたものは全て、DeepFuture AIから提供可能です」


声は震えていなかった。

でも胸の奥は大きく揺れていた。

なぜなら、直也は「偽りの姿」のままに、私の口からイーサンのリソースを引き出したのだから。

それはつまり、彼が本当に未来を動かしてしまう可能性を示している。


大田氏がにこやかに言う。

「直也さん。それなら是非ウチにも協力させてくださいよ。それにGBCグループも恐らく否とは言わないと思うし。……こういう誰にとっても有用な領域の研究は、競争するのではなくて、共創するのが正解ですからね」


直也は

「是非、お願いします」

と大田氏に頭を下げ、そして私を見つめた。


※※※


視察が終わり、ザ・ガイザースの蒸気を背に、私たちは現場の技術者たちと握手を交わした。

「Thank you for your time」「Good luck」――

力強い言葉と共に、彼らの瞳には希望が灯っていた。

その光景さえ、私の混乱を増幅させた。


ヘリに戻ろうとする時。

直也がふと、口にした。


「サンタローザに寄っていきたい」


「――サンタローザ?」

思わず声が出た。

「そんな辺鄙な場所に? 今はなるべく早く戻るべきでは?」


彼は振り返り、静かに言った。

「どうしても会っておきたい人がいるんだ。それに……君が知りたがっている答えも、そこにあるかも知れない」


言葉を失った。

胸の奥がざわめき、足元が揺らぐような感覚に襲われる。

(……私が知りたがっている答え?)


直也の瞳には揺らぎがなかった。

私は結局、頷くしかできなかった。


亜紀、玲奈、そして保奈美という彼を取り巻く女性たちも黙って同行するようだ。

大田ご夫妻も。


ヘリのローターが再び回転を始める。

私は動揺を押し殺したまま、シートに身を沈めた。


――サンタローザ。

その名が、胸の奥に重く沈んでいく。


(そこに、何の “答え”があるというの?)


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