第55話:一ノ瀬保奈美
――カリブの海賊の入口で撮った「奇跡の1枚」。
頬を寄せ合って、手でハートを作った仲良し兄妹ショット。
(……やっぱり、ちょっと恥ずかしいな。でも……約束だから!)
思い切って送信ボタンを押した瞬間、スマホが震え続けた。
通知が鳴り止まない。画面が光の洪水になっていく。
《ぎゃああああああああ!!!!》
《リア充めっっ!! 爆発しろおおおお!!!》
《てかこれ、兄妹ショットのつもり!? どう見てもカップルでしょ!?》
《おい、頬と頬がくっついてるよ! アウト! 完全にアウト!》
《♡ポーズって何!?モラル崩壊で即刻退場!!》
《アメリカの空気で距離感バグってんじゃないの!》
コメントが一気に流れ、既読の数字がみるみる増えていく。
私は思わずスマホを胸に抱えた。
(ああっ……! やっぱりすごいことになっちゃった……!)
さらに、直也さん・亜紀さん・玲奈さんの「3ショット」をアップした瞬間。
炎上は第二ラウンドに突入した。
《……え、ちょっと待って》
《この二人、マジで美人すぎない?》
《何このビジュアル……港区女子ですか?モデルですか?芸能人ですか?》
《嘘でしょ。この人たち五井物産でしょ?超絶エリート会社なのに美人って?》
《美人エリート×2+お義兄さん=地獄の三角関係……?》
《はぁぁ!? ていうかこの二人、絶対お義兄さん狙ってるでしょ!》
《お義兄さんサイアク。これどう見てもモテモテじゃん!》
画面の向こうで友達全員が椅子から転げ落ちている姿が目に浮かぶ。
そして極めつけは――。
《保奈美、これもう既成事実つくるしかないから!》
《今アメリカにいる間にキメなさい! チャンスは今しかない!》
《GO! GO! 義妹ちゃん! ゴールインしろ!》
《絶対に逃すな、撃てー!!いや違う、撃たれろー!!いや違う、撃たせろー!!》
《ちょっと美里、それ下品》
《草生えるwww、でもお義兄さんを誘惑するしかないのは事実!》
《五井物産の美人エリート社員に先駆けてキメてしまえ!時は今!》
通知の嵐。指が震える。
……だけど、私の心は真逆だった。
(な、な、何言ってるの!?)
頭の中で声が響く。
心臓がバクバクして、でも言葉にせずにはいられない。
(そんな簡単に“キメる”とか……もう絶対にありえない!)
(だって直也さんは、そんな人じゃないもん!)
(私に優しくしてくれるのは “義兄”だからだよ。守ってくれているの。大切にしてくれているの……)
そう自分に必死に言い聞かせる。
頬が熱くなって、スマホを両手でぎゅっと抱え込んだ。
(……でも……)
画面に映る♡ポーズの自分と直也さん。
楽しそうに笑っている二人の姿。
――友達の煽りを否定しながらも、胸の奥がくすぐったくて。
ほんの、ほんの少しだけ自分の花嫁姿を想像してしまって――。
「どうしたの?」
横で玲奈さんが首をかしげる。
私真っ赤になっていないかな?
「あ、いえ……ちょっと、友達が大騒ぎしてて……」
チャットのせいにした。
「ふふ。だろうね。あの写真、私だってアウト判定出したもん」
玲奈さんは笑いながら肩をすくめる。
「まぁ、炎上するよね」
亜紀さんまでため息まじりに笑う。
「……やれやれ。本当にまいったな」
直也さんは苦笑いで頭をかいていた。
そんなやり取りをしているうちに、列は少しずつ進んでいく。
ジャングルクルーズの船着き場に近づくほどに、熱気とわくわくが高まる。
木の葉の影が風に揺れ、陽射しがまだ午前の柔らかさを残している。
私はスマホをバッグにしまいながら、こっそり息をついた。
(……みんなと一緒にいると、本当に楽しいなぁ)
心がぽかぽかして、自然と笑顔になった。
大切なのは今、こうして過ごすこの瞬間なんだ。




