第51話:新堂亜紀
――暗闇のトンネルを駆け抜け、光に包まれながらスペース・マウンテンが静かに停止した。
安全バーが上がると同時に、隣の直也くんがふぅと息を吐きながら笑っている。その笑顔につられて、私もつい笑ってしまった。
けれど、もっとすごかったのは――後ろのライドから降りてきた保奈美ちゃんだ。
「きゃー!すっごい! めっちゃ楽しかったです!」
はじけるような声で飛び跳ねる。両手をぶんぶん振って、まるで小学生が遠足に来たみたいなはしゃぎぶり。
その姿を見た瞬間、胸の奥が妙に温かくなる。
……やっぱり、天使だ。ぐぬぬ。
横を見ると、玲奈も同じ顔をしていた。
「ねえ、亜紀さん。やっぱりあの子、天使ですよね。マジ天使」
「……ふん、そうね。まあ、私と同じくらい天使かも」
「はぁ? どこがですか! 自分で言います!?堕天使の間違いでなく?」
「何よ、玲奈だって顔に出てるわよ。完全にほだされてるじゃない」
「ち、違いますって!」
言い合いながらも、結局二人して笑ってしまった。
こうして口ではああだこうだ言っても、私も玲奈も――本当は、もう保奈美ちゃんに惹かれてしまっている。あの真っ直ぐな笑顔を見たら、誰だって好きにならざるを得ない。
※※※
次に向かったのは「イッツ・ア・スモールワールド」。
パークの象徴みたいな白い建物が陽光に輝き、前に立った保奈美ちゃんが「わぁ……」と声を上げる。
ここでもまた、ジャンケンタイム。
「せーの、ジャンケンポン!」
結果は――直也くんと保奈美、玲奈と私。
「やったぁ! 直也さんと一緒です!」
保奈美ちゃんが飛び跳ねて喜ぶ。その様子に、直也がちょっと困ったように頭をかく。
私はといえば……まあ、悔しいような、ホッとしたような。
隣で玲奈も同じ表情をしていて、思わず目が合ってしまった。
「……まあ、直也くんが元気そうだからいいか」
「そうですね。あの顔を見てると、それだけで十分です」
口をそろえて同じようなことを言い、二人で苦笑する。
――結局のところ、私も玲奈も。直也くんが元気で、保奈美ちゃんが嬉しそうなら、それで満足してしまうのだ。
ボートの列が少しずつ前に進んでいく。
さあ、次は小さな人形たちの世界一周――夢の続きを楽しまなきゃ。
列が進み、ボートに乗り込む。
保奈美ちゃんは直也くんの隣に腰を下ろし、嬉しそうに身体を少し寄せていた。
私はその後ろ、玲奈と並んで座る。
水路を滑るようにボートが進み、暗闇の中からあの独特のメロディが流れ出す。
「♪It’s a small world after all――」
「わぁ……かわいい!」
保奈美ちゃんの声が弾む。小さな人形たちが、世界各地の衣装を着て歌い踊る。その一つひとつに、彼女は目を輝かせていた。
「直也さん! 見てください! あの民族衣装、すごく細かい!」
「あ、ああ……すごいな」
直也くんは少し照れたように頷いている。
……ああ、やっぱり。
この子の純粋なリアクションは、見ている側の心まで素直にしてしまう。
玲奈と目が合い、二人して小さく笑った。
「ねえ、亜紀さん。やっぱり天使じゃないですか?」
「……まあ、否定はできないわね」
「でしょ? あの笑顔、ずるいですもん」
「……ふん。ずるいのは認めるけど、私だって――」
「はいはい、また自分も天使説ですか?絶対堕天使の方ですって」
「ちょっと玲奈、言いすぎじゃない?」
声を潜めてやり合いながらも、結局私たちも楽しんでしまっている。
世界中の子どもたちの人形が手を取り合い、歌い続ける光景に――保奈美ちゃんの笑顔が重なって見えて。
(……あの子の無邪気さは、本当に人の心を溶かすんだな)
直也くんの横顔を盗み見れば、彼もまた自然に笑っていた。
先週までの疲労を忘れたように、肩の力が抜けている。
――それでいい。
保奈美ちゃんが幸せそうで、直也くんが笑っているなら。
私も玲奈も、それだけで十分満たされてしまう。
やがて光のトンネルを抜け、フィナーレの白い衣装の人形たちが現れる。
その瞬間、保奈美ちゃんがふと振り返り、後ろの私たちに向かって小さく手を振った。
「亜紀さん、玲奈さん! 最高ですね!」
その無邪気な笑顔に、思わず心臓が跳ねた。
――やっぱり、天使だ。




