表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアク  作者: 麦茶緑茶
1/11

1-1 平和な日々

「はっ……はっ……」

 あれから、どれくらいの時が過ぎたのだろう。

 世界を跨ぎ続けて、世界を渡り続けて、どれだけの人間を見殺しにしながら私はここまで来たんだろう。

 何度、昇る太陽を見た。

 何度、欠けた月を見た。

 何度、壊れた人間を見た。

 何度、朽ちた人間を見た。

 分からない。もう覚えていない。

 でも、この脚を止める訳にはいかない。

 ようやく辿り着いたこの世界で、私は成すべきことがある。

 私が、私だけが知っている『最悪』を、止めなければならない。

「はっ……はっ……はっ……はっ……」

 大地を何度も蹴り上げながら、見た事の無いものばかりで構成されている『この世界』を駆け抜け続ける。

 人間10人分よりも高く四角い建物が沢山あるこの世界。

 鉄の塊が丸い脚を付けながら高速で走るこの世界。

 灰色の柱と黒い線が空を這うように伸びるこの世界。

 夜になっても光が降り注ぐこの世界。

 人々がなんの恐怖も感じずに笑えるこの世界。

 でも、この世界はもうすぐ終わる。

 まもなく、この世界の人間は成す術なく、全員死ぬ。

 あの人のように。

 私に名前を、祈り方を、温かさを与えてくれたあの人のように死ぬ。

 この世界に起こる『厄災』が、嘲笑うかのように必ず全てを焼き尽くす。

 それだけはダメだ。

 もうこれ以上、誰も死なせてはいけない。

 もうこれ以上、誰も傷付いてはいけない。

 私が止めるんだ。私が終わらせるんだ。

 それが、人間じゃない私がこの世界に生まれ堕ちた意味だから。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「はぁ……」

 時刻は12時27分。

 四限目の授業が終わり、教室という世界は生徒達の活気ある声と、窓から流れてくる少し冷たい春の風、そして生徒達が開く多種多様な弁当の匂いに包まれていた。

 そんな世界の中で、俺は机に突っ伏したまま、手元にある再提出をくらった進路希望調査票に眼を向ける。そこには『正道暁理せいどうあかり』と俺の字で俺の名前がきっちりと書かれていた。

 再提出になった理由は単純で、進路希望調査を白紙のまま提出したからだ。担任の教員からは、「二年生の四月でも、目星ぐらいはつけとけよ...」と呆れられた。だが俺は知っている。どうせ何処の大学の名前を書いても、「いいやここはお前に合ってない!県内の国公立にしろ!」と喝された後、進路希望調査を書き直されるのだ。そんな横暴が許されるのがこの学校である。なぜなら、ここは日本原産、正真正銘の自称進学校だ。

「あー……」

 とはいえ、白紙で提出したのは普通に間違いだったなと、自分で自分の行動に落胆してしまう。

 めんどくさ……まあ自分のせいなんですけど。

「いつまでそれ見てるの?」

 ふと、正面から聞き慣れた腐れ縁の声がする。

 俺は条件反射のように顔を上げると、そこには、呆れた顔で俺の机に弁当袋を置いている女子生徒がいた。

 彼女の名前は『安藤零奈あんどうれいな』明るい茶髪のポニーテールがチャームポイントであり、校則で許される程度の制服の着崩しでも滲み出る上品さがトレードマークだ。

 全国模試一位で成績優秀、体力テストで満点を取るほどの運動神経抜群、そしてファンクラブが出来る程に容姿端麗。人当たりも良く、男女問わず誰に対しても分け隔て無く、明るく優しく丁寧に接する。俺以外には。当然、教員からの信頼は厚く、生徒達からも男女問わずにモテまくりだ。

 とにかく、彼女は圧倒的な優等生であり、浮世離れした存在だ。もし、この学校を舞台にした物語があれば、彼女が主人公だと思えるぐらい、非現実的な存在なのだ。

「うるせー……」

 そんな優等生に対して必死の抵抗のつもりで悪態をつくが、零奈はそんなの全く気にする様子は無い。いつも通り弁当袋からハンカチに包まれた弁当箱を取り出しながら、そっけない態度で口を開く。

「ほら、早く食べるよ」

「へいへい……」

 俺はそう返事しながら、投げやりに進路希望調査票を机にしまう。そして、零奈に倣うように机の横にかけたカバンから弁当袋を取り出して机の上に置く。

 そんな俺に向かって、正面にいる零奈は不満げな顔で口を開く。

「『へい』とはなんだ。この世界一の美少女と一緒に昼を食べれるというのに」

「自己評価が高すぎる……てか、毎日律儀に俺と食べなくていいですよ。あなたはクソ人気者なんですから」

「それ嫌味のつもり?だって、私いなかったら暁理ぼっちじゃん。可哀想で見てられないよ」

「……ぼっちじゃねえし」

「いやぼっちじゃん。私以外に話す人いないし」

「さすがにいるわ」

「いないじゃ〜ん」

 零奈はニヤニヤと馬鹿にしたように笑いながら、弁当のハンカチを解く。

 そう、こいつは俺にだけ態度が違う。教員や他生徒の前では明るくあざとい優等生を振る舞っているが、俺に対しては茶化してきたり、だる絡みをしてきたりするのだ。腐れ縁だからなんだろうが、非常にめんどくさい。

 そんな零奈が小さな弁当箱の蓋を開けると、そこには綺麗な黄色と赤色を輝かせたオムライス、そして付け合わせのように小さなハンバーグとにんじん、ブロッコリーがあった。

 俺も零奈に倣って弁当箱の箱を開ける。そこには、右側に白米と梅干し、左に卵焼きにウインナーや、小松菜のお浸しにきんぴらごぼう。おばあちゃんが作ってくれた弁当だ。

「「いただきまーす」」

 俺達はそう挨拶をしながら両手を合わせると、零奈は急かすように弁当箱からオムライスをスプーンで掬い、そのまま口に頬張る。

 俺もそれに倣うように、弁当箱から卵焼きを箸で掴み、そのまま口に放り込む。瞬間、卵と砂糖の甘みが口いっぱいに広がる。

「うんま〜」

 零奈が蕩けるような声を発する。

「相変わらず、美味そうに食うな」

「だって、本当に美味しいんだもん」

 零奈はそう言いながら、スプーンを俺の方に指差すように向け、続けて言葉を発する。

「てかさ、今日カラオケ行こうよ」

 俺は卵焼きを口に放り込みながら、いつも通りにそっけなく答える。

「無理、バイトある」

「えっ、マジ?」

「マジです」

「……休んでよ」

「休まねーよ」

「お願い〜カラオケ行こうよ〜、奢るからさ〜」

「……お前どんだけ遊びたいんだよ」

「だって、今日クソ暇なのよ。クソして寝るしか予定無いの今日」

「女の子がクソなんて使うんじゃありません」

「じゃあうんこ」

「はいダメ」

 零奈はブーブーと唸りながら、再びオムライスをスプーンで掬う。俺は不服そうな零奈を肴に、いちごオレを喉に流し込む。

 すると、零奈は「あっ」と何かを閃いたように呟くと、ペットボトルの蓋を開けながら問いかけてくる。

「そう言えば、なんで進路希望調査票返されてたの?」

「急に話切り替えるじゃん」

「いやだって、なんか急に気になったんだもん」

 そう言いながら、零奈はペットボトルに残っていた水を全て飲み干す。

 俺は少し億劫になりつつも、零奈の問いに答える。

「……白紙で出したからだよ」

「な、なんで白紙で出したの?尖ってる自分演出したいの?」

「ならもっと別の所で尖るわ。進路希望調査票で尖っても意味ないだろ」

 そう言うと、零奈は「確かに」と少し笑う。

「何?志望校決まってないの?」

「うん」

「あんたの学力なら、大学ぼちぼち選べるでしょ」

「まぁ、そうですけど……」

「ま、私はどこでもいけますけどね」

 と、胸に手を当てながら、後ろに『ドヤァ...』という擬音が見えるレベルのドヤ顔で言う。これで全国模試一位だから反論できない。

「……やりたい事とか、なりたいものがないんだよ」

 俺が口を濁しながら言うと、零奈がきょとんとした顔で答える。

「それだけ?そんなの別に無くてよくない?」

「そりゃそうだけど……でもさ、学部とかは真剣に選ぶべきじゃないか?将来なれる職業が結構絞られるし」

「うーん……どうだろ。ほら、みーちゃんのお兄ちゃん、法学部行って今、刑務所だし。意外と学部とか関係ないんじゃない?」

「例外出すなよ。あと、みーちゃんって誰だ」

そうツッコむと、零奈は「それはそうだね」と笑う。そして、零奈は少しだけ考えた素振りを見せ、

「そんなにやりたい事とか大事?」

 と、オムライスを頬張りながら疑問を投げかけてくる。

 そんな零奈の何気ないその問いに対して、俺は少しだけぎこちなくなりながら答える。

「大事というか……みんなにはあるじゃん、目標。ほら、例えば、そこの三人」

 俺は窓際で弁当を食べながら談笑している男子三人、左から中川、田中、中村を指差しながら口を開く。

「中川は医師で、田中は料理人、中村は税理士になりたいらしいじゃん。目標があるんだよあいつらには」

「『中』率高いねあの3人」

「他の奴らもちゃんと目標があって、それを道標に進路を決めてるじゃん。でも、俺にはそれが無いんだよ」

「ふーん」

「……」

 俺の地味に真面目な相談を受け流すかのように、零奈は食べ終わった弁当箱を、カチカチと音を鳴らしながら片付けている。食べるの早いなこいつ。

「……興味ないだろ」

「うん。あんまり」

 零奈はそう笑顔で言いながら、空になった弁当箱をハンカチで包む。

 まあこいつは人生安泰だし、そんな奴に不出来な俺の人生相談しても、まともな答えが返ってくるわけ無いしな……

 そんな事を考えていると、零奈は弁当箱を弁当袋にしまいながら、あっさりと口を開く。

「じゃあ昔は?」

 その脈絡の無い言葉に、一瞬戸惑ってしまう。

「む、昔?」

「そ、昔は目標……というか夢か。夢とか目標がそもそも昔はあったの?」

「な、なんでそんな話に……?」

「ほら、さっきの中、中……中島?は医者になるのが小学生の頃からの夢だったらしいよ」

「中川な」

「あと、みーちゃんも唐辛子の農家になる事が小学一年生からの夢らしいよ」

「素晴らしい事なんだけど、なんで小一で『唐辛子の農家になろう!』って思うんだよ。あと、みーちゃんって誰だ」

「とにかく、暁理にもあったでしょ?小学生時代」

「小学生時代は流石にあるわ」

「そこから逆算してみたら?プロスポーツ選手とかは今からは無理だけど、サウナアドバイザーとかならなれるかもよ?」

「それ職業じゃなくて、資格じゃね?」

「とにかく、昔の暁理の夢なんだったの?」

 零奈は明るく、いつも通りの笑顔で問いかける。

 それは何気ない普通の会話の普通の言葉。

 しかし、零奈の何気ないその言葉に、俺の脳内にあの日がフラッシュバックする。


『暁理は、私のヒーローだよ』


 それは、幼馴染から貰った言葉であった。

 そしてそれは、いつの間にか俺の人生の指針になっており、夢になっていた。

 大切でかけがえのない、変える事ができない夢。

 でも俺は、それを捨ててしまった。

 あっさりと、自分の命の為に捨ててしまった。

 だからもう、叶えられない。叶えられる訳がない。

 だから、俺にはもう夢なんて無い。

「……無かったよ」

 俺はいつも通りに少しだけ笑って、零奈の問いに答えを返す。零奈はそんな俺を見て少しだけ呆れたような、悲しそうな表情で口を開く。

「……そっか」

「そんな顔すんなよ」

「だって……夢の無い人生なんて、悲しすぎて……」

 零奈はそう言いながら右手で顔を覆い、わざとらしく泣いてるフリをする。このやろーからかいやがって。

「そーゆーお前は、小学生の頃に夢とかあったのか?」

 そう言うと零奈は右手を顔から離し、キラキラとした眼で口を開く。

「あるよ。渋イケオジのヒモになる事」

「それは今でもだろ」

「ぐへへ〜」

 零奈は少しだけわざとらしく下品に笑う。

 そんな零奈の向こうに、ふと窓際から男子生徒三人がこちらへ近づいているのが分かった。さっき話に出した、同じクラスの男子生徒である中川・田中・中村である。ちなみに、全員かなりのイケメンだ。羨ましい。

 イケメン三人衆は、流れるように零奈の横に立つと、

「安藤、放課後遊ばない?」

 と、キラキラとしたオーラを放ちながら零奈を遊びに誘う。

「暇な人達でカラオケ行こうとしてるんだけど、来ない?」

 イケメン三人衆は、整った顔立ちでニコニコと笑いながら、零奈の反応を伺っている。そのイケメン達に備え付けられた眼の奥には、貪欲な下心がある事は言うまでも無い。

 しかし、零奈はそんなイケメン三人衆の言葉を聞くと、彼等に負けない程のニコニコとした笑顔で両手を合わせ、

「ごめんね〜今日、先約あるんだ〜」

 と、猫被りながらあざとく言い放つ。

 がっつり嘘やん。さっき暇だって言ってた癖に。

 零奈って、地味に天邪鬼だからな。気分が変わったんだろう。

「そっか〜、じゃあしょうがないね〜」

 零奈のあざとい返答に対して、イケメン三人衆はニコニコと笑顔で答える。しかし、その顔には間違いなく不服と不満が込められていた。

 この3人は、俺からでも分かる程、零奈に対して好意を抱いている。その証拠に、よく零奈を遊びに誘い、よく断られている。間違いなく3人ともイケメンで良い奴らなのだが、零奈にとっては恋愛対象にすらならないらしい。なぜなら、零奈の好きなタイプは渋イケオジだからだ。可哀想に……

「もしかして、先約って正道と?」

 ふと、3人組のうちの1人。爽やかイケメン枠の中川が、俺の方を見ながらそう零す。その顔は間違い無く笑顔であったが、その眼には嫉妬が混じり合っていた。怖っ。

「違う違う。俺、今日バイトだし」

 俺が首を横に振りながら弁解すると、零奈はそれに反応するように、あざとい笑顔でイケメン達に向けて口を開く。

「暁理はバイト三昧でさ、遊びに誘っても来ないんだよね〜」

「いや、バイトない時は行ってるだろ……」

「いやいや、先週バイト無いのに来なかったじゃん。パンケーキ」

「いやいやいや!あれはお前、俺だけじゃなくて、他の女子達も一緒だったじゃん!女子十数人の中に男一人だけでパンケーキ食うの無理だって!」

「うわ〜……クソウブ」

「だまれ」

 俺はそう言いながら、弁当に残った最後の卵焼きを口に含む。

「正道って、安藤とよく一緒にいるよね。今も一緒に昼飯食べてるし」

 爽やかイケメン中川は、さっきと変わらずニコニコと笑いながら口を開く。

 しかし、その眼には、先程のような嫉妬だけでなく、何故か疑念と心配も浮かんでいた。

 そして、中川は唾を飲み込んだ後、恐る恐ると口を開いた。

「……もしかして、付き合ってる?」

「「いやいや、ないない」」

 中川の言葉に、反射的に俺と零奈とハモる。

 そりゃそうだ。

 俺と零奈が付き合ってるわけが無い。

 俺達は別に……

「私達は、し────」

「腐れ縁なだけだ」

 そう。俺達は腐れ縁なだけだ。

 一年からずっと同じクラスで、ずっと隣、もしくは前後ろの席なだけだ。他の人より零奈と居る時間が多いだけで、本当に特別な関係では無い。

「そう、なんだ〜。てっきり、付き合ってるのかと……」

 中川は安心したのか、平静を装いながら、ホッと肩を撫で下ろす。頑張れ中川、チャンスはあるぞ、多分。

「じゃ、また誘うね〜」

 そう言いながら、イケメン三人衆は自分達の席に帰っていく。頑張れ、イケメン達。俺は心の中で彼らに親指を立てる。

 心の中で彼らを応援しながら、俺は零奈がいる正面へ顔を向ける。すると、零奈は肘をついたまま、廊下側へそっぽを向いていた。

 これは、よく見る零奈の習性一つだ。

「……なんで怒ってんの?」

「べつに〜?怒ってませんよ?」

「本当に?」

「ほ、ん、と、う、に」

「怒ってるじゃん」

「もっと怒るよ?それ以上言うなら」

「やっぱ怒ってんじゃん」

「こいつ!」

 零奈はそう叫びながら、勢いよく立ち上がると、俺の後ろに一気に回る。そして、

「この、馬鹿野郎!」

 と叫びながら、俺の髪を強く引っ張る。

「いだだだだ!やめろって零奈!」

「うるせぇ!コーンロウにしてやんよ短髪野郎!」

「コーンロウ!?それだけは!それだけはやめろ!絶対似合わないって!というか無理だろ!俺の髪の短さで!」

 俺が零奈の手を掴み、無理矢理髪から離すと、零奈は一転して申し訳なさそうに口を開く。

「ごめん……コーンロウはダメだよね……」

「いやそこ……?」

 俺はつい、謝る所そこなんだ……と思わずにはいられなかったが、まあいいか。コーンロウの自分なんて、見てられない。

 零奈は今度は丁寧に優しく、俺の髪をくしゃくしゃと触りながら、いつも通りのトーンで口を開いた。

「じゃ、そろそろ委員会行ってくるわ」

「おっけ……いや、髪触るのやめろや」

「……あんた、赤に染めてみたら?」

「やだ、絶対似合わない。俺は黒髪が一番良いよ」

「いや、暁理ならワンチャンある」

「ねーよ」

「あ、ジュース買ってきて。明日お金返すから」

「急に話題変えるな。あと買わない。自分で買え」

「財布忘れた」

「我慢しろよ」

 そう言うと、零奈は髪をさらに勢いよくぐしゃぐしゃにしながら叫ぶ。

「おねがい!奢ってよ〜!」

「やめろ!髪ボサボサになる!」

「もう飲み物無いの!おねがい!」

 零奈はこの懇願モードになった時は止まらない。諦めるしかないよな。俺は小さくため息をついて、零奈に対して口を開く。

「……はいはい。何がいい?」

「よっしゃ!オレンジジュース!」

「お前オレンジジュースばっかじゃん」

「そーゆーあんたも、いちごオレしか飲まないじゃん」

「そんな事ないだろ。普通にお茶とか飲むし」

「たまにね。9割いちごオレだし」

「えっ、マジ?」

「……自覚無かったんだ」

 零奈はそう言いながら俺の頭から手を離す。そして「じゃ、よろしくね〜」と言いながら、軽い足取りで教室を後にする。

「……はぁ」

 俺は零奈を見送ってから、弁当袋を鞄に突っ込む。そして、入れ替えるように鞄から財布を取り出し、音を極力鳴らさないように椅子をズラしてゆっくりと立ち上がる。

 教室を見渡せば、そこにはいつもの景色が広がっていた。片手に飲み物やスマホを持ちながら雑談をしている窓際の三人の男子生徒達、メイクを直しながら談笑する女子生徒達、カップルが一つのスマホを覗いて思い出に浸っていたりと、様々な生徒達がそれぞれの昼休みの過ごし方を謳歌していた。

 そんないつもと同じ景色を横目に、俺は自動販売機へ向かう為、重い足取りで教室を後にする。

閲覧ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ