第三話:静かに燃える、ノクトンへの執念
それから数日間、ラファエル・クラインの頭の中は「ノクトン」という単語でいっぱいだった。大抵の情報なら裏社会や極秘ネットワークから小出しに流れてくるものだが、ノクトンについては一片の噂すら聞こえてこない。まるで存在そのものが、情報の海から完全に消し去られているかのようだ。
「世間に漏れないだけじゃない……イーシスの高官連中ですら全員が知ってるわけじゃないだろうな」
そんな推測が生まれるほど、ノクトンの名はどのルートを当たっても見つからない。ラファエルは改めて、これは“本物の極秘”だと確信した。もし単なるプロジェクトなら、どこかしら痕跡や憶測が出回るはず。それすら存在しないということは、ノクトンの運用がイーシス内部でもごく一部の要職によって管理されている可能性が高い。
一方で、ささやかながら前回のハッキング成果もある。わずかに盗み見たファイルヘッダには「EL Transaction Backup」と明記されており、ラファエルの直感によればノクトンはEL取引のデータを強力に保全する仕組みらしい、ということまでは推定できる。だけど“なぜ”そこまで入念に隠さなければならないのかは謎だ。表向きには既にELライブラリーが分散管理システムとして“ほぼ無敵”のセキュリティを誇っているとされているのに、さらにもう一段階“隠しバックアップ”を用意する理由は何なのか。
ラファエルは闇市で買い漁った新型ツールを手に、再びノクトン関連の通信を捕捉しようと試みた。辺境コロニーの冴えないネットワークインフラをかいくぐり、数多くの中継ノードを踏み台にする。ときには軍事基地の端末すら利用する危険な作戦を織り交ぜながら、最終的にはイーシスの管理するコアサーバ群付近をうろつくように、ハッキング経路を練っていく。
「こんだけ念入りにトレース対策してるんだ。相手もそう簡単には俺を捕まえられない……はず」
自分に言い聞かせるようにしながら、彼はキーボードを操作し、独自に改造した暗号解読プログラムを走らせる。そもそも、イーシスが本気を出せば、辺境コロニーの雑居ビル程度いとも簡単に封鎖されるだろう。しかし、その“本気”とやらを引き出す前に手がかりを掴めばいい。急いで成果を得る一方、捕捉される前に回線を切る。いわば命がけの綱渡りだった。
数回の試行を繰り返すうちに、彼はほんの少しだけ新たな断片を拾うことに成功する。ある中継ノードを経由した際、ノクトンのバイナリデータ断片とおぼしきファイルから「Nocton_core」や「Nocton_sync」というモジュールの名前を発見したのだ。今回もファイルの大部分は暗号化されており、導入部程度しか読み取れない。しかし、それでもファイルには「CORE PROCESS」「SYNC MODULE」「DIFF LOG」などの文字列が混在していた。
「COREにSYNC、そしてDIFF LOG……。要するにメインの処理部と同期処理、それから差分ログを扱っているってことか」
ラファエルは思考を巡らせる。バックアップシステムであれば“差分ログ”を用いてELライブラリーの履歴と照合し、一致しない部分を特定する機能を持っているのだろうか。あるいは、まるでリアルタイムに取引記録を取り込み、更新しているのかもしれない。
さらに興味深いのは、これらの名前と一緒に「Nocton_BK」というモジュールも言及されていたことだ。ラファエルは先日のファイル名を思い出す。あのとき一瞬だけ見えた「Nocton_BK」と同じだ。BKはおそらくBackupの略。COREやSYNCよりも表面的な役割を持つ可能性が高い。だが、だからと言って防御が甘いわけでもなく、こちらに触れようとしただけで強烈なファイアウォールに弾かれたのだ。
思いつく限りの推測を重ねても、まだピースが足りない。ラファエルは歯痒さを感じつつも、緻密に再挑戦の手順を組み立てる。
その夜、彼はほとんど寝ずにシステムを走らせ、サーバログを見張っていた。もしノクトン関連の通信が再度行われれば、同じ暗号プロトコルやタグが使われる可能性がある。そうなれば、新しいパケットの解析から、さらなる発見が得られるかもしれない。
夜明け前、まだ人工照明が青白く部屋を照らす頃、ラファエルはようやくログの一つが変化する兆候を見つける。再びノクトンと思わしき暗号通信が動き始めたのだ。彼はすばやくバイナリキャプチャを起動し、リアルタイムでパケットを追いかける。
が、その通信のセキュリティはやはり凄まじく、ある瞬間を境に急激に暗号のカスケードが複雑化して、彼のデコーダが歯が立たなくなる。いわゆる“ブラックボックス”を何重にも上塗りされていくような感覚に、ラファエルはぞっとするほどの畏怖を感じた。
「これは……まるで人間の反応みたいに、こちらの動きを見て暗号強度を上げてるのか?」
そんな馬鹿な、と自分で否定しながらも、イーシスが誇る最先端AIが動いている可能性を考えないわけにはいかない。ギャラクシーユニオンやイーシスが秘匿している高性能AIは、ハッキング対策に用いられているという噂があるが、まさかここまでのレベルとは。
結果的に、ラファエルはその通信を最後まで追うことができず、逆探知のリスクを感じて諦めてしまった。悔しさを噛み締めつつ、接続を切った直後のログを確認すると、やはりものすごい量の“探知パケット”が返されていた形跡がある。もしもう少し粘っていたら、自分の居場所がバレていたかもしれない。
「ああ、クソッ……あいつら本気だな。ってことはノクトンはやっぱり相当大事なネタってわけか」
イスの背にもたれ、疲れた目を閉じる。だが同時に、どこか心地よい興奮も湧き上がっていた。このセキュリティの壁はただものではない。そもそもノクトン自体が、従来の“ELライブラリーを堅牢に守る”レベルではなく、根本から“履歴そのもの”を常時追跡・記録している可能性が高い。
バックアップといえばデータを複製し、災害や障害に備えるイメージだが、ノクトンがやっているのはそれだけではなさそうだった。差分を取得し、リアルタイムで更新し、しかも異常や改ざんを検知すれば即座に弾く。無論、通常のブロックチェーンを応用したELライブラリーでも似たような動きは可能だが、ノクトンはさらにその先を行く仕組みを持っているように思える。
「これで本当にEL取引ログが完全に護られるなら、ハッカーにとっては災難だろうな……でも俺はあくまで挑み続けるさ。どんな盾も完璧にはなり得ない」
ラファエルは自嘲気味に笑う。自身が行っているのはハッキングという犯罪行為でもあるが、同時にシステムの脆弱性を洗う行為でもある。一種のゲームであり、知的な挑戦だ。“ハッカー”として彼が生きてきたのは、こうした緊張感と未知への渇望が何よりの原動力だからだ。
その後、彼はしばらくコロニーの闇市へ顔を出して情報収集を試みたが、やはり“ノクトン”についての手がかりを得ることはできなかった。わずかに得られるのは、従来からあるイーシスのセキュリティ機構が日々強化されているとか、ELの不正取引で大損したハッカーが出たといった、周辺情報にすぎない。誰もノクトンという単語すら知らない。
「こりゃ本当に外部には漏れてないんだな。まあいい。いずれ正面から調べてやる」
いまはまだ準備不足だ。相手が想像を絶する強固なファイアウォールを備えているなら、なおさらこちらも段取りを踏んで臨まなければならない。ラファエルは部屋に引きこもり、以前から興味のあったダークマターリアクター関連の裏資料も読み返してみる。そこには“人類が使い続ける限り無尽蔵に思えるが、本当に無限なのか”という疑念を呈する学説が記されていた。
それとノクトンがどう繋がるのかはまだわからない。ただ、ラファエルは漠然とした予感を抱いている。EL取引のバックアップといっても、“取引履歴”を超えた何かを参照しているのではないか。あるいは、銀河の膨大な“時間の記録”に踏み込む技術が存在し、それがノクトンの中核になっているのではないか――そんな想像は突飛すぎるかもしれないが、ラファエルにはまるで“パズルの形”が少しずつ合致していくように思えてならない。
「完全な改ざん不可能システム。昔から理想とされてきたけど、本当にそんなことができるなら、何か常識を超えた技術があるはずだろう」
コンピュータのアルゴリズムの延長だけでは説明できないほどの“何か”。そこに惹かれる自分自身を感じながら、ラファエルはワクワクを噛みしめる。そして同時に、もしそこに本当に手を伸ばせるなら、一人のハッカーとして“歴史に残る偉業”を成し遂げられるのではないかとさえ思う。
だが、それは極めて危険な道だ。イーシスに逆探知されれば、即座に抹殺されてもおかしくない。ギャラクシーユニオンの警察機構どころではない権限を振るい、“通貨の安定”を理由に容赦なく動くのがイーシスだ。過去にも不正な大規模ハッキングを仕掛けた者たちが突然消息を絶ち、彼らが戻ってくることはなかったと噂されている。
「ま、それでもやるしかない。もう後には引けない。ノクトンをただ知らずにやり過ごすなんて、俺には無理だ」
夜が更け、僅かに明かりが落ちた辺境コロニーの街並みを見下ろしながら、ラファエルは薄く笑みを浮かべる。ビルの向こうには、宇宙港の管制塔がぼんやり輝いている。いつも通りの停滞した空気。だが彼は知っているのだ――この宇宙のどこかで、ノクトンは動いている。ELの取引を完璧に監視し、改ざんを一蹴するような“究極の装置”が。
彼は再び椅子に座り、これまで集めたログを丁寧に分類していく。わずかに拾えた断片のファイルヘッダと、アクセスしようとして跳ね返された時刻、警告ログの動きなどを一つひとつ精査し、そこから弱点や裏口が見つからないか探っているのだ。
作業を続けるうちに、気づけば朝が来ていた。コロニーの外から聞こえる雑然とした生活音が少しずつ増え、ビルの廊下を通る人の足音がかすかに響き始める。睡眠をほとんど取っていないラファエルだが、倦怠感よりも高揚が勝っていた。未知の闇を覗くとき、人は恐れと同時に奇妙な昂揚感を得るという。彼の場合、その昂揚こそがハッカーとしてのアイデンティティを支えているのかもしれない。
それに、いざとなれば辺境のこの地を捨てて逃げることもできる。複数の星系にダミーIDと隠し口座を用意しているため、身一つでどこかに潜り込む術はある。もちろん、イーシスの手が回るような星系では不安が残るが、全銀河にわたって絶対安全な場所などないという現実は、とうの昔から織り込み済みだ。
「さあ、次の一手はどう打つか……」
彼は自問する。もっと積極的にノクトンの通信に干渉する方法を考えるか、それともイーシスの内部ネットワークを騙って擬似的な“公式アクセス”を演出してみるか。どちらも成功率は低いが、じっと待っていても状況は進展しない。ノクトンがどうやら常に動いている以上、ラファエルも行動を止めるわけにはいかなかった。
さらに、これまでのハッキングで、彼はある種の違和感を抱いている。ファイアウォールや暗号が連動して動く様は、まるで“能動的な意思”を持っているかのようだ。それが高度なAI制御によるものなら納得はできる。だが、妙に直感的な速度で暗号が変化するのを目撃すると、“人間が介入している”かのような錯覚さえ起こる。
「もしや、ノクトンそのものが“学習”しながら動いているのか……?」
そう考えると、ただのバックアップシステムでは説明のつかないレベルの知能や判断があり得る。もしノクトンが人間のアクセスを監視し、その都度プログラムを動的に書き換えているのだとすれば、ますます厄介だ。
しかし、その可能性を想像するほどラファエルは興奮を抑えきれない。何か途方もない相手を見つけたとき、彼のハッカー魂が揺さぶられるのだ。
「イーシスは一体、こんな怪物をどうやって制御してるんだ……?」
答えはわからない。だが、もしノクトンが完全なる“履歴保証システム”であるなら、EL取引をいじろうとするあらゆる不正は防ぎきれるはずだ。そうなれば、今後の銀河経済は安定するかもしれないが、裏を返せば一切の改ざんや操作ができない世界が来るということ。つまり、どれだけ才能あるハッカーでも通用しない時代がすぐそこまで迫っているのかもしれない。
「それもつまらないな。絶対なんてものは、この世に存在しないはずだ」
部屋の片隅に置かれたレトロなスピーカーから、かすかな電子ノイズが聞こえる。辺境の怪電波が入り込んだのかもしれない。まるでノクトンがラファエルの呟きに反応して耳打ちしているように感じられ、彼は微かに背筋を震わせる。
どこまでも続く闇の入り口。その向こうに潜むノクトンは、情報屋でも知らない者がほとんどの“秘密中の秘密”だ。だが、ラファエルはもう後戻りする気などなかった。どれほどのハイリスクであろうと、この謎を突き止める価値があると信じて疑わない。
ゆっくりと椅子から立ち上がり、ラファエルは机の上に散らばるメモとデバイスを整理する。この数日の成果を見直し、次なる一手に備えるのだ。ノクトンの壁は厚く、イーシスの追跡がどこまで本気なのかはわからない。下手をすると一瞬で生き埋めにされるかもしれない。
それでも、彼の心には一片の後悔もない。
「ノクトン……俺がその正体を暴いてやる。そう簡単にはやられないぜ」
薄暗い室内に、彼の小さな宣言が染み込むように消えていく。外では徐々に朝の活動が始まろうとしているが、ラファエルにとって昼夜の区別はあまり関係ない。彼の世界はいつもモニターの海の中にあり、その光が夜か昼かを曖昧にしていた。
そうして夜明けは終わり、ラファエルは再度画面と向き合って手を動かし始める。まだノクトンの全貌は影の中だ。けれど、その影を見つめる瞳には確かな光が宿っていた。究極の改ざん防止装置か、それとも想像を超えた技術の結晶か――ラファエルは、どちらに転んでも構わないと思っている。なにしろ、自らの存在を懸けて挑む価値のある謎に出会ったのだから。
まだイーシスの正面に立つ覚悟が固まったわけではない。しかし、やがては否応なくぶつかるだろう。その瞬間を想像すると、恐ろしさよりも奇妙な胸の高鳴りを感じる。逃げるより挑む方が性に合っている。それがラファエル・クラインという男の生き方だ。
こうして、銀河の闇に潜む謎――“ノクトン”を巡る物語は、さらに深い深淵へと動き始めた。かつて誰も踏み込んだことのない扉が、今まさに静かに軋み、開かれようとしている。
あとがき
◇ダークマター理論
本作の世界では、人類が宇宙へ進出する以前から、宇宙空間には暗黒物質が大量に存在しているという仮説が唱えられていました。ただし、その正体を解明するまでに非常に長い歳月を要し、理論の検証が困難だったため、当初は学界からも半ばオカルト扱いされていた時代があったのです。
しかし、ある天才的な研究者(歴史上のマリカ・マリック)によって「ダークマターの中には特殊なエネルギー成分が含まれており、適切な理論と技術を使えば抽出可能ではないか」という仮説が提示されました。この仮説がいわゆるダークマター理論の源流となります。
その後、多くの研究機関がこの理論を深め、膨大な資金と時間を注ぎ込んで実験を重ねた結果、ダークエネルギーを安定的に取り出す手法が確立されました。これがダークマターリアクターの誕生へつながった大きな一歩です。
理論の核心部分では、ダークマターが普段の物質や光を通さない“見えない存在”であるものの、特定の条件を整えれば内部に保持されたダークエネルギーを誘導・加速し、効率よく取り出すことができると説明されています。いわば未知の領域を数学と物理の交差点で“突破”したともいえる技術であり、本作の世界を支える大きな科学的基盤です。
◇ダークマターリアクター
ダークマター理論を基礎として、約4500年前に実用化された画期的エネルギー装置です。ほぼ無限に近いエネルギーを供給できるため、人類は一気に宇宙開発へと踏み出しました。それまで深刻だった資源やインフラの制約が解消され、軍事・経済・輸送などあらゆる分野が飛躍的に成長。ギャラクシーユニオンが成立した背景にも、この無尽蔵に等しいエネルギー供給が大きく影響しています。
ダークマターリアクターは、ダークマター内部のダークエネルギーを高速で抽出・変換する複雑な機構を持ちます。理論上は永続稼働できるとまで言われていますが、同時に安全管理は非常に難しく、建造には銀河規模の技術力と莫大なコストが必要とされています。
◇EL
銀河統一通貨。ギャラクシーユニオンが3000年前に誕生したのち、約2500年前から段階的に導入され、さらに1500年前に“完全固定価値”へと移行して現在に至ります。どの惑星でも同じ価値で流通する信用通貨であり、銀河規模の商取引を円滑にする基盤です。
エネルギーが豊富になったことで、惑星間の産業が拡大するにつれ、経済面の管理も複雑化しましたが、ELの存在が星々を一つの市場へと繋ぎ止める大きな役割を果たしています。
◇ELライブラリー
ギャラクシーユニオンによって設置された、分散型データセンターの総称。天の川銀河の五つの腕それぞれに拠点が置かれ、ELの取引履歴(EL・ログ)を相互補完的に保管しています。
もとは一か所で集中的に管理していた取引記録ですが、取引量が爆発的に増加したため、より強固かつ拡張しやすい分散管理へ移行しました。かつてのブロックチェーン技術を大幅に発展させ、改ざんを防ぎながら膨大な記録を効率よく保存しています。
◇EL・ログ
ELに関する全取引を記録する巨大データベース。銀行や証券、惑星間貿易など、銀河規模で行われるあらゆる取引が蓄積され、定期的にチェックサムが作られながら改ざんを防いでいます。
表向きは誰でも自分の取引履歴を閲覧できるようになっていますが、過去の全データに深くアクセスするには、高度な権限が必要です。現在はイーシスや専門家だけが“完全な”EL・ログを読み解けるとされています。
◇ノクトン
EL・ログの監視や解析を高度化させるための最先端技術ないしシステム。従来の分散管理をさらに一歩進め、改ざんや不正取引の痕跡をいち早く検知する能力を持つと噂されています。
イーシスの最高機密とされているため、その詳細は公表されていません。物語の舞台では、“実在するらしい”というレベルの極秘システムとして登場することが多く、その解析技術の正体は謎に包まれている状態です。
◇ギャラクシーユニオン
全銀河を統一する政治・経済連合。約3000年前に成立し、植民惑星や多種多様な文化を一元管理するための枠組みとして機能しています。
高度な議会制と官僚制を持ちつつ、各惑星の自治も尊重しており、通貨(EL)や安全保障、外交、文化交流など、多方面で絶大な権限を振るっています。現在の銀河文明の基礎を築いた中心的存在といえるでしょう。
◇イーシス(Interstellar Security Intelligence System)
当初はギャラクシーユニオンの経済安全保障部門として設立された組織でしたが、極端な独立性を獲得し、現在では銀河を超越する監視能力を備えた巨大機関です。
EL・ログの保護や不正防止だけでなく、サイバー攻撃対策や経済全体の安定維持を務めています。その徹底ぶりゆえに、“ギャラクシーユニオンすら制御できない”という噂が絶えず、物語においても大きな影響力を持つ存在として描かれます。
◇まとめ
本作の宇宙社会では、ダークマター理論によって生み出されたダークマターリアクターがエネルギー問題を解決し、人類は銀河規模の繁栄を手にしました。しかし、その恩恵に伴い経済の管理が膨大になり、やがてELが銀河統一通貨として採用された背景もあります。
ELライブラリーやEL・ログは、この銀河規模の通貨流通を支える要となり、さらにノクトンのような機密システムも加わることで、不正取引や改ざんをほぼ不可能にする体制が進んだとされています。
ダークマター理論は、宇宙に無数に漂うダークマターからエネルギー成分を安定的に抽出するための枠組みです。その研究は初め難航を極めましたが、最終的にはダークマターリアクターという画期的装置を生み出し、今の宇宙文明を大きく変革しました。エネルギー不足が克服されたことで、人々は遥か彼方の惑星へ移民し、銀河規模の経済圏を形成するまでに至ったのです。
しかし、銀河文明が発展する一方で、通貨システムの管理や不正防止には常に新たな課題が生まれます。ギャラクシーユニオンが設立したイーシスは、その最前線で活動し、ELの安定を死守する役割を担ってきました。ノクトンは、その活動をさらに強固にするための秘匿技術とも言われますが、詳細は明かされておらず、物語では大きな謎をはらんでいます。
本作では、こうした背景設定を下地に、登場人物たちがダークマターやELをめぐる謎へと迫り、それぞれの思惑や運命を交差させていきます。ダークマター理論が描いた夢を、銀河の経済や通貨がどのように受け止め、そしてノクトンの秘密が物語にどう絡むのか――そこが読みどころとなっています。