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よしなに。
10月初旬、最近は暑さが長くなっていると言えど肌寒くなりもうそろそろ長袖を出し始めるのを検討する季節。
誰もいない空き教室、普段は講義で7割程度埋まってるといえど休みの日では誰もいないのは当たり前であり、静寂に包まれている。
そんな中でも1組の男女が静寂を破るように話し始めた。
あまり、良い話ではないようである。
「何度言えば伝わるんだ?私は、貴方も私も全員が幸せになれる提案をしている。伝わるまで何度だって言ってやる」
うんざり、その言葉がよく似合う吐き捨てたような口調だった。
吐き捨てた様ではあるが対面に座る彼女には真剣に、彼が心の底から言ってるのが接してきたのが数ヶ月といえど目に取るようにわかる。
「福田くんが前の彼女さんになんて言われたか、私が福田くんと付き合った後どうなるかなんて全部わかってるつもりだよ。でも大丈夫だよ。私なら全部受け入れてあげるから」
男の独善的な提案にも彼女は慈愛を持った表情で事も無げに伝える。このやりとりもあの日、想いを伝えた日から始まり両手では収まらないくらいに重ねたものであった。
「ああ、うん。分かってはいたことだが今回も平行線か。しかし、そうだな。流石にこれももう終わりにしようか」
彼女の慈愛に満ちた顔を一目見れば腑抜けに男も一定数居よう。そんな中でも男は毅然とした態度を崩さない。それどころかさらに姿勢を正し、これから彼女に伝えることが相違ないよう覚悟を決めたように見える。
「一つ、保険をかけよう。……私はあまり試すようなことはしたくない。それは信じてないとも同義だから。しかしこの終わらない二元論を終わらせるためには致し方ない」
「貴方は私のことが好きであると何回も言ってくれた。それは本当に、感謝する。ありがとう。
とは言え何回も伝えている通り私は……束縛が酷い。それはもはや一文明人としての生き方を奪い取るようなものだと私は認識している。
もし貴方が私と付き合いたいというならサークル、アルバイト、交友関係全てを破棄してくれ。そうでなければ私は貴方と付き合うことはないできない」
男の口から発せられたのはあまりにも独りよがりな内容の数々。それがまともな人が耳に入れたなら
『その男はやめとけ』
これに尽きる。
社会の中で生きるということは多少なりともお金も、友人も必要だ。
ましてや華の大学生。モラトリアムと言われてると言えどオール、サークル、アルバイト、旅行。
他にも沢山あるがそこで得た体験は社会に混じった後では得難いものばかり。それを捨てろと言う。
常人では受け入れることはない。と言うよりもできない。
それでも彼女は、違った。
「うん!できるよ?だって私、福田くんがいなければサークルも友達もできなかったから。確かにみんなと話せなくなるのは寂しいけど私にとっては福田くんが全てだから。グループから抜ければいい?snsもやめるね?心配だもんね」
狂ってる。
そのように表現するのが正しい。慈愛に溢れた顔も鳴りをひそめ、目はその男だけにピントを合わせ他には何も視界に映らない。
狂信者は信じるもののためにどんな行動をも取るようになると言う。
例えるなら正に狂信者。男ーー福田 涼太という神を信じる狂信者の如き言動だった。
誤字脱字あればよろしく。
続きは暇があれば書く。