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エピローグ

「はぁ…」


中谷英俊(なかたにひでとし)は、お墓の前で深いため息をついた。


翔太が死んでから、ちょうど1年が経った。


「ごめんな、お前の気持ちに気づいてやれなくて。」


そうつぶやきながら、英俊は静かにお墓に手を合わせた。しばらくそのまま手を合わせていると、やがてゆっくりと立ち上がり、墓地を後にした。




英俊は駅のホームで電車を待っていた。しばらくすると、近くの売店から楽しげな声が聞こえてきた。


「ねぇねぇ!パパ、あれ買って!」


「お?これか?いいぞ〜」


「あなた、そんなに買ったらダメよ!」


家族の穏やかな会話が響く。英俊はその光景を目にして、心の中で羨ましさを感じた。


俺も、あんなふうに家族と笑い合いたかった。こんな風に、幸せな時間を過ごしたかった。


仲の良い家族を見るたびに、英俊は虚しさを覚えずにはいられなかった。自分には、もうそんなものはない。11年前に健太が電車に轢かれ、1年前には翔太が自ら命を絶った。そして、元妻も翔太の死を知った直後に後を追うように命を絶った。さらに、祖父母もすでに他界している。


「ひとりぼっちか…」


英俊はそう呟き、足元を見つめた後、無意識にホームの線路を見上げた。


ひとりぼっちなら、死んでもいいんじゃないか。今すぐ飛び降りてしまえば、天国で家族とまたやり直せるかもしれない…


そんな思いが頭をよぎったその時、右から電車の音が聞こえた。


今なら、死ぬのにちょうどいいタイミングだ。


英俊はホームの端に一歩踏み出し、黄色い線を越えた。あと一歩で、線路に落ちることができる。だが、その瞬間、突然、声が聞こえた。


「誰か!助けて!」


英俊は驚いて、声の方向に目を向けた。そこには必死に叫んでいる男の子が立っていた。そして、その男の子の目の前には、小さな子供が線路に倒れていた。


もし、このままではその子も健太と同じように命を落としてしまう…!


英俊は助けなければならないと思った。しかし、電車が迫っているのがわかっているのに、体が動かず、声も出なかった。


今すぐ助けなければ…!


心の中で叫びながらも、英俊はただその場で立ち尽くすことしかできなかった。その瞬間、電車はブレーキ音と警笛を鳴らしながら、英俊のすぐ横を通り過ぎた。


そして、電車は止まることなく、その小さな子供を轢いてしまった。その瞬間、鈍い音が響いた。


ゴンッ…


駅内に悲鳴がこだました。人々は、轢かれた子供がどうなったのか見ようと必死になっていた。


その中で、英俊は必死に助けを求めていた男の子に目を向けた。


そこにいたのは、まるでこの世界を恨んでいるかのような目をした男の子だった。


その目を見た瞬間、英俊は背筋に冷たいものが走り抜け、恐ろしい感覚が体中を駆け巡った。

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