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第四話

警察…!


翔太の目の前には、警察が大勢立っていた。完全に囲まれ、逃げ場はない。


一瞬、動揺が走ったが、すぐに自分に言い聞かせる。冷静でいろ、と。


「中谷翔太君だね?」


警察の問いに、翔太は何も答えなかった。黙っていれば、何も言い逃れをしなくても済む。


「君に逮捕状が出ている。」


警察はそう言いながら、翔太に逮捕状を見せた。本物の逮捕状を見た瞬間、翔太は事の重大さを実感した。


「お、俺…逮捕されるんですか?」


確認の言葉が震えて漏れる。


「そうだ。」


警察は冷たく一言だけ告げる。


その瞬間、翔太は反射的に近くの警官を殴った。逃げるしかない、ただそれだけだった。だが、警官を殴った瞬間、周囲から叫び声が上がった。


「抑えろ!!!」


大勢の警官が一斉に翔太に向かって駆け寄る。翔太は必死に抵抗し叫んだ。


「離せ!俺は、この腐った世界に復讐しなきゃならないんだ!この腐った世界を!」


暴れながら叫ぶが、すぐに警官に押さえ込まれた。殴られた警官が翔太の目を見つめながら冷静に言った。


「お前の方がよっぽど腐ってるよ。」


その言葉とともに、翔太の両手首に手錠がかけられた。


その時、翔太はもはや暴れる気力もなく、静かに諦めの表情を浮かべた。


――――――――――――――――


翔太は取調室で、スクランブル交差点爆破事件と母親の事件について全て聞かれた。母親が犯した事件の真相も明らかになった。


事件は同じ時刻に起こったため、警察は両者の関連を調べ始めた。


母親が起こした事件は、防犯カメラで犯人がすぐに判明したが、警察はすぐに母親を逮捕せず、さらに調査を進めた。すると、11年前、翔太の弟・健太が電車事故で命を落としていたことが明らかになった。その日、母親が殺害した男性は、健太を轢いた運転手だった。動機が明確となり、母親が犯人だと確定した。


その後、爆破事件との関連を調査すると、翔太とその父親、中谷英俊が浮かび上がった。父親はその日、会社で仕事をしていたことが確認され、残るは翔太だけとなった。


防犯カメラに映った男性の体格や、弟を殺されたという動機を基に、警察は翔太に対する逮捕状を取り、母親と同日に逮捕された。


これが事件の真相だった。


――――――――――――――――


翔太は警察病院にいた。


捕まってから、何も食べない日が続いた。警察は表向きには翔太を精神的に不安定と診断し、病院に入院させた。しかし、1000人以上を殺した凶悪犯を、簡単に死なせるわけにはいかない。翔太にはしっかりと被害者への謝罪をさせ、判決を下すつもりだった。翔太は、そのことを察していた。


病室の窓から外を眺めると、警察官の姿が見える。おそらく、病室の前にも警官が立っているだろう。


逃げることはできない、復讐もかなわない。ならば、死を選ぶしかない。翔太はそう考えていた。


その時、病室の扉が開き、若い男性が入ってきた。お盆を持っている。


「中谷翔太さん、お昼ご飯です。」


男性は、お盆を机の上に置いた。お盆にはお粥、スープ、漬物が並べられていた。素っ気ない品に、翔太は食欲を失った。もともと食べる気はなかったが。


「今日は食べれますか?」


男は優しく尋ねる。


「はい。」


翔太が答えると、男は安堵の表情を浮かべて病室を出ようとした。その時、翔太は突然声をかけた。


「すみません、フォークってありますか?」


男性は少し驚いた様子だが、すぐに返答した。


「どうしてフォークが必要なんですか?」


「力がなくて、箸が使えないので。漬物が食べれないんです。」


翔太の嘘だが、一か八かで尋ねてみた。


「わかりました、すぐ持ってきます。」


男はすぐに去り、翔太は少し驚いた。

まさかこんな嘘が通用するなんて...


数分後、男はフォークを持って戻ってきた。翔太は片手でそれを受け取った。


「ありがとうございます。」


男は言葉をかけ、翔太に忠告するように言った。


「久しぶりの食事ですから、よく噛んで食べてください。」


翔太はただうなずき、男が出ていくのを見送った。


男が病室を去ったのを確認した翔太は、フォークをじっと見つめた。


先が少し丸く、鋭さはあまりなかった。自殺予防だろうか?


しかし、この程度の鋭さなら、手首に突き刺すには十分だ。


翔太はティッシュを口に詰め、声を出さないように準備した。心の中で、健太に向かって呟く。


「健太、天国で一緒に遊ぼうな。」


そう思い、翔太は勢いよくフォークを手首に突き刺した。


激痛が走り、血が溢れる。痛みが強すぎて、思考を止めることができなかった。


痛い....痛い....痛い....!!


それでも翔太は再度、同じ場所にフォークを突き刺した。


「うっ…!」


今度は声が漏れ、痛みがさらに増した。次第に力が抜け、手に力が入らなくなり、フォークを抜くことができなかった。


そのまま、意識が遠のいていく。


「これで、この腐った世界とはおさらばだ。」


翔太は心の中で呟き、最後にニヤリと笑った。


そして、その瞬間、翔太の目の光が消えた。

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