友達 4
いつも通り高校に登校し、廊下を歩いていると不意に声をかけられた。
「烏丸さーん!」
そこには別のクラスの女子2人が立っている。今まで話したことはない。少したじろいだが、2人の顔が笑顔だったのですぐに警戒心を緩めた。
「どーしたのー?」
「あのね!友達になりたいの!」
「へ?」
「私、2組の梓っていうの!前から仲良くなりたかったんだよね♪あ、こっちは麗奈!」
「ど〜も〜♪」
「え?あ、ありがとう?え?嬉しい!けど、何かで話したことあったっけ…??」
頭の中を探すが、2人と今まで話した記憶はなかった。突然の友達になりたい発言に、私は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていただろう。
「ないよ〜♪可愛いなぁって思ってたの〜♪」
「よかったらお昼一緒に食べない?」
終始ニコニコしている梓と、ちょっと大人っぽい雰囲気の麗奈。新たな友達が出来るのは嬉しいが、よく分からない理由に、快くOKの返事はしづらかった。そんな理由で見知らぬ同級生に話しかけられるものなのか。
「あぁ、うん!食べたい!あ、でも、もう1人一緒でもいい?いつも一緒にご飯食べてる子がいて…」
お昼はいつも加奈子と食べている。知らない子たちと食べるのはちょっと怖いし、加奈子をひとりにするのは申し訳なかった。
「いいよ〜!いつもお昼一緒に食べてる子でしょ?4人で食べよ♪」
「じぁあお昼に中庭でね〜」
「あ、うん!おっけー!加奈子にも聞いておくね!」
その日を境に、お昼は4人で食べるのが恒例になった。加奈子は2人の存在を知っており、すぐに仲良くなった。
梓と麗奈は地元が同じで、駅からのバスは私の使うバス停の隣から発車するルートだ。加奈子は駅からは電車。私以外は普段からバスと電車で通学しており、雨の日は駅まで4人で帰ることもあった。
「そういえばさ、4組の村井と6組の佐々木さん、付き合い始めたらしいよ!」
「加奈子、情報はや〜。」
「あー、地元が一緒なんだっけ?中学から好きだったんでしょ?」
「佐々木さんはそうらしい!村井は高校入ってから帰り道一緒になることあって、そこで話したりしてたら好きになったんだてさ〜!なんか、良いよねぇ!一途!」
「村井から言ったんだっけ?」
「そうっぽいよ?」
どこにでもある恋愛の話。中学生の時はリアクションに困ったが、この3人はさらっとした性格だからなのか、大人な考えなのか、無理に同調しなくていいから気持ちが楽だった。
「そういえば梓は最近どう?彼氏他校だよね?」
「普通に仲良しだよ〜♪今日も会うの〜♪」
「奈緒はそういうのないの?」
「あー、うん、まぁ、ないねー」
キーンコーンカーンコーン
「あ、予鈴だ!」
「次、うちら理科室じゃないっけ?」
「急ごう!」
こうやって平穏な生活が続いてた。サッキーのことも、関わりがないとなんだか気持ちが薄れていった。
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(うわぁ、外もう暗くなっちゃってる…)
今日は図書委員の仕事に時間がかかり、帰る頃には外は暗くなっていた。
(自転車のライトつけると重くなるから嫌なんだよなぁ)
駐輪場で自分の自転車を探してると、近くに人がいた。よく見るとサッキーだった。何日ぶりかの展開に、心臓がドキッとするのが分かった。
「あ、サッキー。おつかれさまー」
できるだけ落ち着いて声をかけた。でも、きっと、顔は不自然なくらいに笑顔になってたと思う。
「おー、おつかれ〜。あれ?部活?」
「ううん。図書委員の仕事で遅くなっちゃって。そっちは?」
「みんなでだべってただけ〜。調子のって遅くなっちゃった〜」
「そっかそっかぁ。気をつけて帰るんだよー」
「そっちもね〜!」
少しだけでも話せたことが嬉しくて、バイバイした後も口角が下がらなかった。
(もっと、話したかったなぁ…)
鞄を自転車のカゴに押し込み、駐輪スペースから自転車を引っ張り出した。
「ねぇ!」
声がした方に顔を向けると、少し先にサッキーが自転車に跨ったままこちらに顔を向けていた。
「一緒帰ろ!」
「え?!…ん。うん!!」
驚いて変な声が出た。サッキーの隣まで小走りで自転車を押していき、顔を見た。いつかの、怒っているような、ちょっと真剣な表情のよこ顔。私は不覚にも見惚れてしまった。すぐ恥ずかしくなって下を向いた。
「…道、一緒の方かなぁ」
「隣り町だから大体一緒じゃん?行こ!」
そう言ってサッキーは自転車を漕ぎ出した。一緒に帰ると言ってもお互い自転車なので、私は彼を追いかけて自転車を漕ぐ。彼はたまに後ろを振り返って私が離れ過ぎてないか確認してた。
「やっと信号だー!」
「この坂辛いよねぇ!」
信号で止まった時に少しだけ話す。だけど、内容は全然他愛もない話を一言二言話すだけ。彼の後ろ姿から目が離せなかった。
(今、何を考えてるんだろう。)
そんなことを考えていたら、彼が急に角を曲がった。私の帰宅ルートは直進なので、ここが分かれ道のようだ。角で停まり、遠のく彼に声をかける。
「サッキー!私こっちなの!また明日ね!」
彼は私の声に気が付いて振り返る。自転車をUターンして角まで戻ってきた。
「家どこ?…送る」
「え?!いやいやいや!大丈夫だよ!サッキー帰り遅くなっちゃうよ?!私の家もう近くだし!」
「近いならいいんじゃん?」
「あぁ…うん、確かに…。じゃあ、お願いします。」
そう言って、今度は私が前を走る。自分で言った言葉の矛盾を突かれたけど、頭の中はなんだか?マークがいっぱいだった。だけどすぐに他のことが気になった。前を走るのはかなり恥ずかしい。後ろから見られている気がして緊張する。信号もない住宅地の中だから、言葉を交わすタイミングもない。
(今どんな顔してるのー!後ろ姿なんて自分で見れないから、私何か変じゃないかなー…!)
しばらくして、家の前に着いてしまった。さっきまで緊張していたのに、今度はがっかりしたような気持ちだった。
「ここだよー、ありがとう!サッキー、帰り道分かる?」
「うーん、多分?」
「え?!えぇとね、この坂真っ直ぐ下るとね、隣町の近道があってね…!」
「ははっ。大丈夫、分からなかったら来た道戻ればいいんだしさ。」
「あ…そっかぁ」
サッキーの笑った顔に少しほっとした。
「じゃあね!」
「あ、うん!気をつけてね!」
彼の背中を見送って、私も家の中に入った。