友達 2
ガチャッバタン
濡れた髪をタオルで拭きながら、ベッドに放り投げたままのスマホを手に取る。
(通知…ないや…)
リアンを送った時のスマホ画面のまま。私はかなりがっかりしたと同時に、少しだけ怒っていた。
(男子ってそんな感じなの?リアンきたらすぐ見るもんじゃないの?!)
「奈緒〜ご飯できたよ〜」
「今行くよっ!」
母にぶっきらぼうに返事をして、リビングに向かう。スマホはまたベッドに放り投げた。
〜♪(テレビの音)
「明日は晴れるみたいねぇ。あんた明日は自転車で大丈夫よね?早めには起こさないわよ?」
「うん。でも道濡れてるのは嫌だなぁ。靴どろどろになっちゃうもん。」
「姉ちゃん自転車だからまだいいじゃん。俺歩きだから100パー靴濡れるんだぜ?」
母と弟の昊とテレビを見ながら雑談している最中も、私は自室のスマホが気になっていた。サッキーのことも。
夕食が終わり、また自室に戻る。スマホを拾い上げて通知を確認するが、いまだ新しい通知はない。
(もうっ…なんなのっ…)
返事が来なくてイライラしてる自分が、悔しくなっていった。そもそも、なんでこんなにイライラするのか分からなかった。好き?そんな感情とも少し違う。気になる。とにかく気になるのだ。
(…可愛いって、言ってくれたじゃん…)
万人受けするような容姿でもないし、がさつな性格だけど、これでも嫌な思いをするくらいには好意を持たれたことがある自分が、誰かのことを気にしてる。ちょっとしたプライドのような高慢さが気持ちを支配していった。
(あの出会い方だって、ちょっと、特別な感じだったじゃん…)
ベッドに寝転がりながら、自分の行動に対して返されない反応にモヤモヤした恨めしい気持ちでスマホを眺めた。そのうち、虚勢を張って気持ちに整理をつけ始めていた。
(まぁ、こんなに考えたってしかたないし?また学校で多分会うだろうし?明日になったら返事来てるかもしれないし?)
ハァとため息が出た。ベッドの横の棚にスマホを置いて部屋の電気を消し、布団に潜った。
(もう寝てしまおう…)
それからどのくらい時間が過ぎたか分からない。私はスマホの振動と光で目が覚めた。
ブブッブブッ
(ん…なんだろ…だれ…?)
少し寝ぼけながらスマホに手を伸ばし、画面の通知を見る。
【リアン】23:17
澤木 要:こちらこそ〜^ ^!烏丸さんって…
画面の名前を見て、一瞬で目が覚め飛び起きた。途切れてる文章が気になって、すぐに部屋の電気をつけてリアンを開く。
『澤木 要:こちらこそ〜^ ^!烏丸さんって、夜すぐ寝ちゃう人〜?寝てたらごめんね!』
(うわぁ…うわぁ…!返事、きたぁ…!)
自分の心と体が一気に高揚していくのがわかった。話が出来るかもしれない期待で、部屋の電気までつけてしまったので目も冴えてしまった。
(返事…しなきゃっ)
頭の中では、夜中に起きてる女子ってどうなんだろうとか、疑問系で返したほうがいいかなとか、余計な考えが渦巻いていた。
(も•う•少•し•し•た•ら•寝•る•つ•も•り•だ•よ。サ•ッ•キ•ー•は•夜•更•か•し?と)
我ながら完璧な返事だと思った。こんなことを言いながら会話を続けたいと思ってる下心が見えていないか心配もした。
ブブッブブッ
『澤木 要:そうなんだ!俺ももうちょいしたら寝る〜!』
(か、かわいいっ…!)
側から見たら、何が可愛いかは分からないと思うが、もう裏の裏まで読んで、一周回って、結果的に、可愛いと思った。もともとない語彙力がさらになくなる位に、つまりはキュンとしたのだ。
私は平静を装って返事を書いた。それから2、3通やりとりしたところで日付はもう変わりそうになっていた。
『澤木 要:もうそろそろ寝るね〜おやすみm(_ _)m』
彼からのおやすみの顔文字がダサくて、またキュンとしてしまった。そして私もおやすみを言って、部屋の電気を消した。
布団に入っても、スマホの画面に映るリアンのやりとりを眺めた。こんな少しだけの会話のやり取りにすら、顔のニヤニヤが止まらなかった。改めてスマホを棚に置き、寝る体勢になる。嬉しい、もっと話したいという幸せな気持ちでその日は眠ることができた。