出会い 4
キーンコーンカーンコーン〜
「ねぇ!朝どうしたの?!」
HRが終わるやいなや、クラスメイトの加奈子が私の席にニヤニヤしながら近寄ってきた。加奈子とは入学時に席が近く、自然に話すようになった。地元も違うし部活も違うが、話が合うし、いい距離感でいてくれるから一緒にいて心地がいい。
「朝?あー、ちょっと寝坊して遅れた〜、ははっ」
「そーじゃなくてぇ!サッキーと一緒に来てたじゃん!」
「あー…それ…」
どうやら見られていた。廊下側の席からは丸見えだっただろうから当然だ。しかしきっと繋がれていた手は見えていなかったはず。あまり根掘り葉掘り聞かれても、上手い返し方が分からない。彼がどんな人なのか何も分からない状態だから、ここはお茶を濁すのが1番無難だろう、と私は考えていた。
「朝バス停で一緒だっただけだよ。隣のクラスだったんだねぇ。」
「えー!元々知ってたっけ?」
「いや、知らない…。向こうから話しかけてくれてさ。すごいコミュニケーション力のある人だなぁって思ったよ!てか、加奈子はサッキーのこと知ってるんだ?」
「地元一緒だもーん!でも、サッキーって自分から人に話しかけるタイプじゃないはずなんだけどなぁ」
「え?そうなの?」
「うん。どっちかっていうと、男子とわちゃわちゃ仲良くて、女子とはそんなに?」
「へぇ…」
加奈子が話すサッキーの話は、私が受けた印象とはかなり違った。あんな勢いで話しかけてきて、バスで隣の席に座って、それから、、、
「でもまぁ、ほどほどの距離感にしておきなよ?」
「え?」
「あんまり真面目なタイプじゃないと思うからさ。私もそんな詳しいわけじゃないけど…」
「なにそれ、めちゃくちゃ気になるじゃん!え、不良…とか?」
「あー違う違う!学校遅刻魔だし、髪長いとか、結構先生から怒られてるっぽいからさ」
ますますよく分からなかった。遅刻魔というのはそうなのだろうけれども、先生から注意されている姿は見かけたこともない。中学の頃の話だろうか。
(あんまり、人から聞いた話で決めつけたくはないなぁ)
この時の私はまだ、自分の目で見て、直接話したことを信じたいと考える人間だった。いや、それ自体はきっと悪いことじゃないのだが、その考えが極端だったのだ。自分で感じた印象と周りの印象が違うなら、周りの話は完全に無視してしまう程に、自分の経験したことのほうを信じてしまう。しかしそれはきっと、私が相手の立場だったらとか、そんな崇高な考えを持っていた訳ではなく、もっと暗い想いからきていた。
(でもまぁ、とりあえず忘れよう。縁があればまた話すこともあるだろうし。)
私自身、積極的にこの出来事を、彼のことを心に残さないようにしようと思った。
「それよりさ!数学の宿題やってきた?今日加奈子当たる日じゃない?」
「げっ!」
キーンコーンカーンコーン
「おはよー!」
「あ!加奈子おはよー!」
あれから数日が過ぎた。天気はすっかり良くなり、毎朝気持ちのいい風を感じながら自転車通学をしている。いつもの平穏な日常を生きてる感じがする。
あの日からサッキーと登下校で鉢合わせることはなかった。隣のクラスなのだが見かけることも数える程だった。
「はははっ…」
(あ…サッキーだ…)
「それでさ〜!こいつ昨日ッ…」
「なんだよ!言うなよ〜!」
「ははははっ」
廊下ですれ違う時に、目で追ってる自分がいる。でも目は合わない。
(…なーんだ。)
私は少しがっかりしていた。あの朝に起きたことは、まるで物語の始まりのようだったのに、そこで終わってしまった。
(…連絡先くらい、交換しておけば良かった。)
彼のことを目で追ってしまう。探してしまう。もっと話してみたい。知りたい。恋愛として惹かれているのか分からない。だからこそ、確かめたいのかもしれない。
しかし、もう自分から声をかけるには時間が経ちすぎている。不自然だし、そもそも何て声をかければいいんだ。
(やっぱり、縁はなかったのかな。)
そんなことを毎日考えていたが、とうとうチャンスがやってきた。