出会い 3
ブロロゥ…
バスが来た。ドアが開き、私から乗る。奥から2列目の左側が気に入ってる席だ。腰を下ろし、さっそく窓にもたれ掛かる。
「よいしょ〜」
ドサッ
右を見ると澤木くんが躊躇なく隣に座っている。
「え?」
「え?」
(すごい、すごいコミュニケーション力だ。躊躇なく隣に座ったぞこの人…)
「いや、あの、え?隣…?」
「え?あれ?だって離れて座るの変じゃない??」
車内には私たち2人しかいない。にもかかわらず隣に座るのも変な気もするが…
「ごめん〜別のところ座るよ〜」
そう言って立ち上がる彼に思わず訂正した。
「あ!ち、違う違う!いいよ!離れて座るのもなんか変だし…」
(何を言ってんだ私?!こんなに席が空いているのに初対面で隣に座るほうが変じゃない?!え、私変なこと言ってる?!)
自分で言ったことが妙に矛盾しているような気がして、頭から火が出そうだった。
それを聞くと彼は小さく笑って「お邪魔しま〜す♪」と言い、座り直した。
バスが発車してからも私たちのお喋りは止まらなかった。私は何だか気恥ずかしく、喋っていないと落ち着かなかった。とにかく他愛もないことで口を動かし続けた。澤木くんはどんなことにもリアクションしてくれた。
「そういえば澤木くんの名前は?」
「要!でもサッキーって言われる。烏丸さんは?」
「私は奈緒だよ。でもあだ名はないなぁ。いいなぁサッキーはあだ名があって〜」
「あー、あだ名作りづらい名前だねぇ」
「次は〜△△高校前〜(アナウンス)」
ギーッバタンッ
ブロロゥ…
バスを降り、少し歩いたらすぐに学校の敷地内だ。今はどの学年もHR中。誰もいない下駄箱で靴を履き替えて、静かに階段へと向かう。この頃にはもう喋り疲れてお互いぽつりぽつりと会話するくらいになっていた。
少し前を歩くサッキーは、改めて見るとかなり背が高い。
「サッキーってさ、身長高いよねぇ。何センチ?」
「ん〜?185センチ位だよ〜」
「でっかー!足も大きいし…」
「手も大きいよ〜、ほら!」
顔の前に出された右の手のひらは、本当に大きかった。止まってくれたので横に並んで、失礼ながらまじまじと見てしまった。
「すごいねぇ。私の手と比べると全然違う、ほら!」
私は自分の左の手のひらを重ねて見せた。すごい、私の指先が彼の第一関節あたりだった。背の高い子は中学にもいたけど、サッキーは何というか、骨格がしっかりしている。周りにいたことがないタイプの人だった。
「あはは!全然大きさが違うね、サッキー!」
人間ってこんなにも違うものかと、手を見比べて笑ってしまった。ふと手の向こう側を見たら、笑っていると思っていた彼の顔が、ちょっと真面目な表情をしていたことにようやく気が付いた。
「…ぁっ」
目があった瞬間、サッキーは私の手を握りながら腕をおろした。大きい手が少し離れたと思ったら、そのまま恋人繋ぎに握り直し、歩き始めてしまった。
タン…タン…タン…
階段をゆっくり上がっていく。沈黙が続いていた。半歩後ろを着いて歩くかたちで、一緒に廊下を歩く。教室が並ぶ廊下でも、未だに手は握ったまま。幸い教室のドアはどこも閉まっているので、握っている手を見られることはないが、私はさらに少しだけスピードを落とした。心臓の音が聞こえるくらいドキドキしているのが分かった。上手く声が出せない。引かれる手に合わせて足を前に出すのがやっとな位、力が上手く入らなかった。
(どうしよう…どうしよう…)
時間の感覚がおかしくなっている気する。なんだか妙に長く感じた。ちらっとサッキーの顔を見るが、私の視線に気が付いていないのか、真っ直ぐ前を見たまま歩き続ける。その表情は、ちょっと硬ったような、少し怖い顔だった。
サッキーの教室に先に到着。握られていた手はあっさり解放された。短く「じゃ」とだけ言い、彼はさっさと教室に入っていってしまった。残された私は小さく「うん」としか言えず、教室に入る彼を見送らずに大人しく隣の自分の教室に入った。
ガラガラ…
「すみません。遅れました」
「遅いぞー。早く席につけー。」
ガタ…
席に着いて、握ってた左手を見る。少しだけ震えていた。ぐっと握って、開くを繰り返し、ようやく正気に戻れたような気がする。
(どうして…手、握ったんだろう?)
人の行動って、何かしら意味があるからするんだと思ってる。だけど今回は、全く読めない。
(流れ…?だとしたら、めちゃくちゃ人たらしじゃん!)
私はモットーを繰り返し唱えて、自分を落ち着かせた。
(変に目立たない、無難が1番。サッキーの交友関係とか分からないし、下手に動かない!)