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溶けない雪  作者: Ao
2/19

出会い 2

 中学にはあまり良い思い出がない。恋愛絡みのいざこざやや女子同士での喧嘩を目の当たりにして、巻き込まれたくないと思う一心で、周りに良い顔をして過ごしていた。中学1年の半ばには、バカ呼ばわりされても、傷付いてないように、何も感じていないように、気が付いてないように振る舞うのが板についていた。

 それでも、人に優しくされたら嬉しかったし、憧れの人はいた。同じ図書委員だった3年の先輩に少し勉強を教えてもらい、学校ですれ違えば挨拶をしていた。静かで優しい大人の男の人だなぁと思っていた。同じ学年の男子は子供っぽいけど、3年生は大人だなぁと思って憧れていた矢先、平穏が乱れた。ヤンチャそうな先輩達が、クラスまで私を呼び出しに来たのだ。


烏丸(からすま)って子いるー?」

「昼休みに外階段の踊り場まで来て〜!」

「絶対だよー!♪」


 周りにかなり心配されたが、行ってみるとあの優しい図書委員の先輩が待っており、彼女になってほしいと告白をされた。自分では呼び出す勇気がないから、友達に手伝ってもらった、とのこと。先輩たちの代は全員仲が良いと有名な学年だった。人情に熱く、誰かの嬉しいことは盛大に祝い、悲しいことはみんなで分けて慰め合う。そんな素敵な人たち。

 なのだが、私は近くで声援を送る他の先輩たちに、全然隠れられていないのに様子を伺っているギャラリーに、それを分かっているのに場所を変えない憧れだった先輩に、羞恥やら怒りやら恐怖やら、もうよく分からない感情でいっぱいになり、その場で泣きだしてしまった。告白はもちろんお断りした。

 

 あれから多少腫れ物扱いもされたが、先輩が卒業してからはまた、無難をモットーとした平穏な毎日を送っていた。




「え〜、じゃあ、委員ごとにまとまって座ってください。」


 今日は今年最初の委員総会。全学年の各委員がステージのある講堂に集まる。そして、委員代表が今期の抱負を述べるのだ。と言っても、大抵の代表は3年生なので私たち下の学年は話を聞くだけである。


「奈緒ちゃんここ空いてる〜?」

「葵ちゃん!空いてるよ〜」

ガタッガタッ

 葵ちゃんが後ろの席に座った。葵ちゃんは1年生の時から放送委員だ。放送委員はちょっと特殊で、委員代表は2年生が務める。何でも放送委員は、お昼に流す音楽選考やら行事のアナウンス係等なかなかに忙しいらしく、受験勉強の妨げになるからと2年生までしか就任出来ないルールなんだそうだ。


「葵ちゃん放送委員代表?すごーい!」

「そうだよ〜、今日は後輩も連れてるからさ〜」

「どうもっス」

 葵ちゃんの隣には初々しい制服姿の男の子がいた。緊張している様子のその子は小学校で見覚えがあった。

「あ、君知ってる!同じ小学校だったよね!」

「…うッス」

「そっかそっか。もう中学生かぁ。葵ちゃんをよろしくね〜!あ、それでさ葵ちゃん…」

 その他愛もない会話が事の始まりだったのかは分からないけれど、この後の恐怖体験は、私の歪な性格を加速させた。


 放課後に友達と昇降口でおしゃべりをしていると、あの後輩が友達と少し離れた距離からこちらを見ていた。気のせいかと思ったが、視線を感じる頻度が増えていったある日、


「…奈緒、春奈、ちょっとさ、今日帰り道変えない?」

「え?」

「急にどうした?」


 一緒に帰っていた梨沙が唐突に真剣な口調で言った。


「多分なんだけどさ、つけられてると…思う」

「「え?!」」


 振り向くと、あの後輩たちが離れたところを歩いている。


「え?あの子らの家ってこっちじゃないよね?」

「そのはず…ついてきてるのかなーって思う日が前にもあったんだけど、今日もだからさぁ…」


 私たちはいつもの帰宅ルートを外れた。誰の家もない方向の道をしばらく歩き、誰ともなく振り向くと、彼らは未だ、つかず離れず距離をとって後方を歩いていた。


「ちょッついてきてるじゃんッ…」

「怖すぎるッ…」

「ちょっと待ってどうする?!」

「走ろッ!」

私たちは走って帰った。まずは1番近い春奈の家。


「じゃあね!」

「あとで電話する!」

「2人とも気をつけてね〜!」


走りながら会話し、次は私の家。


「じゃあ!」

「梨沙気をつけてね!」

「まかせてー!」


 無事に家にたどり着き、私は安堵した。梨沙は陸上部の短距離走者。多分、男の子でもそう簡単に追いつけないだろう。

 その夜、春奈から電話がきた。


「でさぁ!さっき梨沙と話したんだけど!梨沙が家着く時にはもういなかったんだってさ!」

「やっぱり追いつけなかったんだねぇ」

「奈緒の家までは大丈夫だった?」

「正直分からん。後ろ見てなかったし…」

「あー、まぁ私もそうなんだよねぇ。明日梨沙が部活の後輩に探り入れてみるってさ!」

「偶然な気もするけどねぇ」


 偶然じゃなかった。どうやらあの後輩が私に好意があるのだと梨沙からの情報で分かり、私は戦慄した。


「え…だって、接点ってそれくらいしか…」

「だーかーらー、それで好きになっちゃったんじゃない?」

「一目惚れってことでしょ」


 それからは、たまにルートを変えながら帰った。ただ、日に日にストレスが溜まってくる。もういっそはっきりと告白してくれ!振るから!と怒りもあったが、何をされるか分からない恐怖もあり、ただ耐えていた。

 彼が告白してきたのは、それから1ヶ月後だった。私はもう、一言ガツンと言わなきゃ気が済まないところまで怒っていたが、やっぱり面と向かって言うのは怖かった。


「もう…帰り道ついてくるのとか…やめてね?」

「…うッス」


私は臆病なんだなぁと自分にガッカリもしたが、これでようやく平穏が訪れると思ってホッとした。


 人に好意を持たれても、ただ嬉しいという感情だけで受け取れたことがなかった。また、周りの色恋沙汰を見てきて、恋愛は少し気をつけなければいけないことなのだと感じた。小学生の時とは違い、複雑化した感情のやりとりの友人関係にも、もうすでに疲れていたのかもしれない。

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