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溶けない雪  作者: Ao
18/19

愚かさ 3

 手をぎゅっと握って涙を誤魔化した。今すぐ叫んで体からこの気持ちを追い出したかった。


「よりは戻さないの?」

「戻さないよ。別れたんだし。」

「えー、そもそもなんで別れたの?」

「うーん…。なんだろうね。」


(…なんだそれ。)


 要が言葉にしないと何も分からない。分からないままでいることが、より一層私の胸を苦しくさせた。


「彼女からは何も言われなかったの?」

「戻りたいって言われたけど、断った。」

「…もう好きじゃないの?」

「…別れたって、いきなり気持ちが100から0になる訳じゃないでしょ。」


 私にはその気持ちが分からなかった。別れたら0になるんだと思ってた。私はそうだったから。無慈悲に突き放すような人も嫌だけど、今回の件を真面目に考えていたのなら、まだ戻れるくらいに相手のことを好きなんじゃないのか。要がどんな気持ちなのか、全く読めない。


「そういうものなのか。」

「奈緒は誰かと付き合ったことないの?」

「あるけど…うーん。自然消滅みたいな感じだし。よく分からない。」

「どんな奴だった?」

「え?んー…」


どんな人だっただろうか。あまり考えたくないなと思ったけど、思い返してみる。でも具体的な言葉にするのは難しかった。


「照れてるところとか、素直じゃない感じは可愛かったかな。」

「へぇ〜。どっちから告白したの?」

「それも、なんていうか、自然に?話し合い?かなぁ。」

「なにそれ。」

「いやだから、2人でいる時に、好きだよって言い合ったというか…。いいよもう!そんな感じだったの!」


 本当は、その日のことはよく覚えてる。帰り道に人から見られない公園に行って、何か話す訳でもなく、一緒にいて…。距離が近くなって、お互いに好きって言って、初めてキスをした。その日はドキドキしてなかなか眠れなかった。2人だけの隠し事みたいで、嬉しかった。

 でも、それから起きたことがセットになって記憶を塗り潰してしまう。だからあまり思い出したくないんだ。あの日は幸せだったのに。


「かっこよかった?」

「かっこいい…とは周りに言われてたかな。私は可愛いと思ってた。」

「なんだそれ。」

「うーん…。うん、まぁでもかっこよかったよ。」

「…そうなんだ。背高かったの?」

「え、うーん、背はあんまり。要くらい高いって訳ではないかな。体格も。スラーっとした感じ?」

「へぇ。」



 いつのまにか私の話になっている。私もそんなに掘り下げられたくないし、この話は終わりにしたい。私も元カノのこと聞いたほうがいいかな。でも、今は聞きたくないなぁ。


「要はさ、なんでそんなに学校遅刻するの?」

「えー、起きれないから。」

「寝るの遅いの?」

「そういうわけじゃないけど、とにかく眠くてさ。」

「お母さん怒らない?」

「仕事してるから俺より全然早く家出るし。」


 普段通りの会話になってきて少し落ち着いた。


 要とはその後公園で別れた。家に向かっている私は、自分でも思うくらいとぼとぼ歩いてる。1人になると、また気持ちが落ち着かない。


(要に、特別だって思われたいよ…)

 

 特別じゃなかったことが苦しい。そもそも、要は私を好きなんじゃないかと勘違いしてた。期待してた。好きな人が、他の人を好きだと思ってた。今は違うのかもしれないけど、まだ大切だと思ってるのが苦しい。手繋いだのも、一緒に帰ったのも、要にとっては何でもないことだったのかな。彼女がいるのに、そんなことする要は軽い男なのかな。まんまと好きになってしまった私は馬鹿なのかな。悪い人に騙されやすそうだね。でももうはっきり分かってしまう。


(…どうしよう。…好きだよ、要。)


 涙が出た。外にいるのに、ぼろぼろと両目から出てくる。どうしよう、どうしよう。


 分からない。怖い。多分良くない。きっと好きになっちゃいけない。でも涙がとまらない。誰か助けて。知らない感情で心がいっぱいになって限界だった。



 携帯でリアンを開いて、送信する


烏丸 奈緒:会いたい。行ってもいい?




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