愚かさ 1
ベンチに座り直して、私たちはまた話し始めた。
「今度さぁ、バトミントンとかキャッチボールしたいなぁ。」
「奈緒持ってるの?てか出来るの?」
「うーん、持ってないけど、100均で買えるボールでいいんじゃない?」
「俺ん家にボールはあったかなぁ。」
こういう何でもない話をずっとしていければいいな、と思っていた。何でもない、ただの友達。でも、今の要の状況も知りたい。
「そういえば、彼女さんは元気?」
「ん?あー…、別れたよ。」
「え…?!」
予想外の返答だった。いや、予想とは違うけど私は少し喜んでいたかもしれない。私は顔から笑みが溢れていないか注意した。酷い性格だ。
「え、ど、どうして?喧嘩?」
「んー…、喧嘩じゃないけど…」
「じゃあ何?」
「…まぁ、いいじゃん!俺のことは!あんま聞くなよ〜。」
「えー、うーん…」
(また、線を引かれた。もっとこう人に話したくなるものじゃないの?大体彼女のせいにしたり、こんなことがあって〜ってエピソード語るものじゃないの?)
私が知ってる失恋した人は、大体こうだった。私が出会った人たちの中でも、友達と喧嘩をしても理由を周りに話さない人は何人かいた。私はエピソードを聞きたいし、そこから学びたい。人は誰かに話すことで楽にもなるし、頭の中を整理できるものだと思う。でも話さない人は大抵その出来事に外野が入るのを嫌い、その出来事はお互いのものだ、と大切にしてる人たちだ。私からすれば、少々つまらない。
これは私の性格が破綻しているからではないと思う。誰だって傷つきたくはないだろう。私だってそうだ。失敗したくない。相手から拒絶されるのが怖くて仕方ない。選択を間違えたくない。だから事前にいろんな話を聞いておけば、上手く立ち回れると思ってる。とにかく私は、酷く臆病なのだ。
(これ以上は、話聞くの無理かな。)
きっと大した問題ではないのだろう。よくあるお別れの理由。ただ興味があるだけ。要をこんなふうにした出来事が知りたい。
「ま、何かあったら話聞くから!いつでも言ってよ!」
「ははっありがとっ!」
家に帰ってからも、出来事について気になってはいたが、彼女がいないなら私の行動に制限をかけるものはない。
(要と、もっと話してみたい…)
ブブッブブッ
リアンの通知が来て現実に引き戻された。気持ちの切り替えが出来ず私は少し高揚したままだったと思う。これからの楽しみがあるのはとても嬉しい。
そこから1週間程は特に進展のない生活だった。とは言っても、要とは1日に何通かリアンでやり取りすることが続いていた。
澤木 要:数学の宿題が終わらん。
烏丸 奈緒:早くやらないからだよ。
澤木 要:奈緒は何してるの?
烏丸 奈緒:古文の予習。
澤木 要:早くやらないからだよ(笑)
烏丸 奈緒:予習だってば(笑)
平穏が1番だが、これからのことを考えると生活は楽しかった。要と話していてもドキッとすることはなくなっていた。その代わり、なんだか胸がほっこりする。恋にせず一線をひくと決めても、どうしても心がごねているのかもしれない。
不思議な状態だと思う。一線をひいてから、友達という枠に要をおさめてきたが、言葉を交わすたび、会うたび心が疼く。私は、上手くやれているのだろうか。普通ならこういう時どうするのだろう。恋心を認めて、告白するのだろうか。でも、私がほしいのはそういうものなのだろうか。
(考えても、仕方のないことかな…)
こういう時は、物思いに耽るのが1番だ。ちょうど冬に入ったところ。静かに過ごすには良い季節になってきた。
そんなある日、夜に要からリアンがきた。いつもの何でもない会話かと思ったが、この日は違っていた。
澤木 要:ちょっとさ、話してもいい?
烏丸 奈緒:どうしたの?
澤木 要:どうしたらいいか分からなくて。
烏丸 奈緒:うん?
要から相談されるのは初めてだ。前のめりで聞きたい気持ちを抑えた。少しでも私を頼ってくれるのは素直に嬉しい。
澤木 要:元カノに子供ができたかもしれない。
(…えっ…)