思い上がり 5
駐輪場から自転車を引き出し、要と並ぶ。
「それじゃ、行きますか!」
「うん!帰ろ!」
要の後ろを追いかける。今日は信号で停まっても話さない。なんでか分からないけど、他愛もない会話もしにくい空気間だった。
ブーッ、ブーッ
要の携帯が鳴った。自転車を停めて電話に出る要。私は少し追い越したところで待った。後ろを振り返ったが、あまり聞いちゃいけないかなと思い、すぐに前を向いて私も携帯をいじる。
「どした?…うん。あー、分かった。今から行く。」
(結構声大きいなぁ…今から?どこか行くの?)
電話があった終わった要が私の隣まで来る。
「電話?」
「うん、まぁ。」
「今からどこか行くの?急ぐ?」
「いや、まぁ、大丈夫。行こ!」
そう言って、また要が自転車を漕ぎ出した。私も後からついていく。
分かれ道でも停まらず、「じゃあね!」とお互い声だけかけて帰った。角を直進して、要が見えなくなったところで私は自転車を停めて後ろを振り返った。
(もしかしたら…)
そう思ったけど、もちろん要の姿はない。私は少し寂しい気持ちになった。分かっている。何かを期待している私の、思い通りには決してならない。
(公園、寄りたかったなぁ…)
公園に行きたい訳じゃない。要と、もっと話したかったのだ。少しだけ距離を感じてしまった日だった。
次の日は朝から加奈子が私に尋問しに来た。
「ねぇ奈緒。本当にサッキーと何にもないのぉ?」
「何にもって、何にもないよ。どうしたの急に。」
「なんかあったらおもしろいじゃーん!」
「面白いー?そもそもそんなにサッキーのこと知らないし。てか加奈子、地元一緒なんでしょ?加奈子の方が詳しいんじゃない?」
「え〜、でもクラス一緒になったことも、話したこともないし。てか私転校してるし。基本的に私も東村上の友達から聞いた話多いよー。」
「あ、そっか。転校したって言ってたね。」
「超苦労したんだから!友達作るの!」
話題が加奈子の苦労話になったので、また有耶無耶に出来た。
この日も授業中、また要のことを考えてた。要は、最初に出会った時と少し雰囲気が違うように思えた。あんなにフレンドリーな対応だったのになんだか、少しずつ、離れていくような感じ。
(でも、一緒に帰ったり、公園行ったりしてるんだよなぁ…)
行動の理由が分からなくて、少し翻弄されている。だから気になってしまうのかもしれない。
(なんか、考えが読めないんだよなぁ…なんでだろ…)
今までこんなに考えが読めない人はいなかった。というより、興味がなかったのだと思う。自分が話す範囲の人の気持ちや考えが分かっていれば問題はなかったし、それ以外の人たちに関しては、周りの状況を聞いて「あー、多分こうしたらこう思うんだろうなぁ。」と考えて自分からは近づかないようにしていた。それでいくと要は、初めて私が興味を持った”範囲の外”の人かもしれない。
(もう少し、近くにいる人かと思ったのになぁ…)
私が逆の立場だったらどうだろう。なんとなく要も、私を少し近い存在だと思っている気がする。それでいて、少し距離が離れている。だとしたら…
(こちらから歩み寄って、信用してもらうしかない、かな…)
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次の休日、私は要を公園に誘った。以前にもまして寒さが強くなっていたので長居は出来ないが、少し話すには丁度いいだろう。
私たちは自販機で飲み物を買って、ベンチに座った。
「…寒くね?」
「寒いね。」
「もう雪降りそうじゃん。」
「さすがにまだ降らないんじゃない?」
2人とも缶を開けずに湯たんぽ代わりに手に握っている。
「今日はどうした?」
「んー?なんか、要が元気ない感じがしたから。話し相手になろうかなぁって。」
「えー、別にないよ?…なんでそう思ったの?」
「いや、なんとなく。…元気ならいいや!」
私はベンチからブランコへ移動した。ブランコに揺られていると、要も隣のブランコに座り漕ぎ始めた。
「ブランコ久しぶりに乗った!こんなに低かったっけなぁ。」
「足ついちゃうね!結構怖いかも!」
私は出来るだけ明るく務めた。要が何か悩んでいるとしても、私から聞いても答えないだろう。なら、自ら話してくれるのを待つしかない。そういう存在でいたい。
「そんなに高いところまで漕いだら危ないって!」
「あははっ大丈夫だよ!」
私は高く漕いで、そのまま手を離してし着地してみせた。得意げに要を見る。
「なんだそれ!すごい!」
「要は昔やらなかったー?」
「そんなのやったことない!」
要はバランスを崩しながらブランコから降りてみせた。
「うおぁ!怖ぇ!ははっ」
「あははっ下手くそだねぇ。」
少し笑ってくれた。要が笑うと嬉しい。こんな風に、遊んで笑ってくれたら、私の気持ちが満足する。何でも話してほしいけど、話さなくても、一緒にいて一時嫌なことを忘れられたら…。
私は要の、1番大切な”友達”になれるかな。