思い上がり 3
寄り道をして家に帰った。家に着いてから、今度は要のことばかり考えた。
私は嫌な性格をしてる。加奈子みたいに、自分の気持ちを信じて、誰かを好きになることが難しい。周りの状況とか、相手の気持ちを予測出来ないと、多分上手く行動出来ない。
(…彼女、いるのかな)
こういう性格なのも、私の良くないところだと思う。もう寝る前だけど、リアンを送ってみる。気になって眠れない。
烏丸 奈緒:起きてる?
自分で見ても、構ってほしい感が満載だ。ただ、どう言えばいいか分かる。知ってる。
(ほんと、嫌になるなぁ…)
30分しても既読にならなかった。きっと寝てしまったのだろう。私も気持ちが落ち着いてきた。このまま、寝てしまおう…。思い通りにいかないことも、嫌いだ。
翌日、昼頃になって返事がきた。
澤木 要:ごめん、気が付かなかった!どうしたの?
烏丸 奈緒:こちらこそ夜中にごめん!眠れなかっただけだよー!
ただ暇だったから送っただけだと言って、会話を終わらせようと思った。
澤木 要:今も暇なら、公園で話さん?
以前要と帰り道に寄った公園で、私たちは会うことにした。
「よう!ちょっと遅れた!」
「大丈夫だよー!さっき着いたばっかり!」
さすがに外は少し寒い。あんまり長居はできないが、要と話せるのが嬉しかった。
「そこに自販機あった!寒いから、何か温かい飲み物買わん?」
そう言われて一緒に自販機に行った。私は甘いカフェオレ、要はブラックコーヒー。2人で公園に戻ってベンチに腰掛けた。
「それで?昨日はどうしたの?」
要が話を切り出した。私は、もうすでにどうでも良くなった話題だった。でも、何か理由をつけないと納得されない気がしたので、それらしい話をしよう。
「いや、本当に眠れなくてさ。昨日友達が失恋して、なんかこっちが悲しくなっちゃってさ。」
「あー、それは、悲しいねぇ。」
「あ!でも!恨むとかそんな感じじゃなくて!…どっちもいい人だから、なんか、切ないっていうか…」
「そうなんだ、それはまだ良かったねぇ」
(要、ちょっと困った顔してる?そりゃあそうか、こんな話聞いてもね。)
さっきまで温かかったら缶が少し冷めてきていた。
この話の勢いで、昨日気になっていたことを聞いてみることにした。
「要はさ、好きな子とか彼女いるの?」
「いるよ。彼女は。」
(…え)
「え?!彼女いるの?!」
「一応ね。」
「一応って…。てか、そうなら私とここにいるのまずくない?!」
予想外の答えが返ってきて動揺した。私は少しだけ座る位置に距離を作った。
「え、別に関係なくない?」
「いや、えぇ〜。でもさぁ、女の子ってそういうの気にするよ?」
「大丈夫だよ。別に。多分向こうも気にしないでしょ」
「えぇ〜、大人な人なんだねぇ。年上?」
「ん?いや、違うけど…。まぁそこらへんはいいじゃん?ははっ」
それ以上は、教えてくれなかった。要が話したがらなかった。聞けない雰囲気を作られては、私ももう聞けない。
その後も少しお喋りして、私たちはお互いの家に帰った。帰り道でも私は、要のことばかり考えてる。子どもみたいにはしゃぐところも、いたずらっぽい笑顔もあるのに、恋愛についてはなんだか、周りより大人っぽいというか。身体と心が合っていない、ちくはぐな感じというか…。
(…彼女、どんな人なんだろう。)
全く想像出来なかった。なんとなく、年上な気がするとは思う。
(…私かと、思ってたよ。)
要が笑うと、ドキッとする。こっちも嬉しくて笑顔になってしまう。一緒にふざけてる時間も好き。昔からの友達みたい。それこそ、性別なんて関係なかった頃の友達みたいに…。
とぼとぼ歩きながら、私は天秤にかけた。この気持ちを恋愛にしたとしても、叶わない。きっと苦しくなって、もう要と今みたいにいられないかもしれない。でも、このまま友達としてだったら、一緒にいられる…。
(まだ間に合う…。)
私は要を好きにはならないと決めた。私は、性別の違いがない、心から話せる友達がほしかった。むしろそれを証明出来る人が欲しかった。なんとなく、要とはそういう関係になれると思った。
私は、賢く生きていきたい。傷つきたくないし、傷つけたくもない。
(要は違う…要は違う…。)
今までの曖昧な自分の気持ちに名前をつけることは出来ない。だって、分からないんだもん。見かけた時にだけドキッとすることが恋なの?たまに会えたらいいなって思うことが?私は、ずっと同じ気持ちを待ち続けていた訳じゃないよ。加奈子みたいに、気持ちを伝えたいとも思っていないよ。