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溶けない雪  作者: Ao
11/19

思い上がり 1

 次の日、学校には早く着いた。昨日から落ち着かない気持ちが続いてる。自分でも分かるくらいに浮かれていた。


(早く、要に会いたい…)


 教室に入ると、加奈子がいない。窓の方を見ると、ベランダに梓と麗奈と一緒にいるのが見えた。


(なんだいるじゃん!)


 私は荷物を机に置いて、3人がいるベランダに行った。


「おはよー!」


 声をかけてやっと気がついた。加奈子が泣いてた。麗奈が加奈子の肩を支えていた。


「あ、奈緒。おはよー。」

「おはよう奈緒。」


 梓と麗奈が、困った笑顔で挨拶を返す。私もさすがに察した。昨日、何かあったのだ。


「え…。ど、どうしたの?」


 ゆっくり加奈子に近づく。声をかけたけど、加奈子は顔をレナの肩にくっつけたまま震えてた。


「いやぁ、実は昨日さぁ…」


 梓から事情を話された。昨日駅に向かい、先輩が来るのを3人で待ってたらしい。そして、先輩が来たと思ったら、相手も連れがいた。女の先輩と、男の先輩。


 「加奈子ちゃんおまたせー。今日さ、4人で遊ばない?こっち俺の友達で、こっちが俺の彼女!」


 加奈子が固まっているのを察して、梓と麗奈がファローして連れ帰ったらしい。


「いやぁ、あの展開は驚いたよねぇ…」

「あっちは多分ダブルデートのつもりだったもんねぇ。連れてきた男の先輩、明らか加奈子ねらいな感じだったねぇ…」

「まじかぁ…想像するだけでいたたまれない気持ちになったよ…」

「うぅ…ひっく…うぇぇ…」


 加奈子はずっと、麗奈に抱き締めてもらっていた。話を聞く限り、先輩は友達のためにとダブルデートを企画したようだ。それにしたって、事前に言ってくれても良さそうなのに…。


「うぅ…確かに、妹みたいって…ひっく…言われたことあったけど…本当に妹ぐらいにしか見てなかったなんて、思わなくてぇ…うあぁん…」

「あらららら…。で、その彼女さんは?どんなだったの?」

「あー…めちゃ綺麗でした!とても性格が良さそうでした!」

「急に怖いよね、ごめんね?良かったらおともだちも一緒に行く?って私達にも気を遣ってくださいました!」

「ヒェ〜いい人…」


 梓と麗奈が言うくらいだから、相当いい人なんだろうなぁ、と思った。


「いや、まぁ、でも、言う前に知れて良かったと言えば良かったんじゃない?かな?」


 こういう時、何と言って励ませばいいのか分からない。すでに梓と麗奈が慰めているはずだから、その意向に沿って励ましたい。


「それうちらも昨日から言ってるんだけどね。まぁそんなすぐには無理よね。」


加奈子が顔を上げた。


「すぐには無理ぃ。でも、でもね、ひっく。彼女がいるのはショックだったけど、彼女さん、素敵な人だったの…ひっく。だから、なんか、素敵な2人だったからぁ!お似合いだったからぁ!」


 だんだんと大きい声になって、心配になってきたところを麗奈があやす。


「だからね、ひっく…だから、悔しいとか思わなかったの…。今はまだ悲しいけど、2人が仲良しでいてほしいって思っちゃったのぉ…ひっく…。言わないで、応援したいと思って、るの…」


 私は加奈子の演説に、少し感動してしまった。鼻の奥がツンッとした。昨日の今日で、相手のことをこんなに優しく考えられる加奈子が愛おしかった。世界で一番いい子。


「加奈子…。加奈子がかっこよすぎて、ちょっと私が泣けてきた…」


 加奈子の気持ちが、私の中にじわぁっと広がるみたいだった。切ないって、多分こんな感じなんだと思った。キュウッと引っ張られる心が、擦り切れてしまいそうで、泣き叫ぶ声みたいな音が、聞こえるみたいで、痛くて、苦しかった。


 その後、加奈子はHRに出ないで保健室に行って、そのまま早退した。

 お昼は梓と麗奈と3人で食べた。話題はやっぱり加奈子のこと。


「加奈子、昨日も結構頑張ってたんだよね。」

「2人が連れ出したんだっけ?」

「うん、連れ出した後3人で話したんだけど…。ずっと笑って、うちらに気使ってるっていうか…」

「学校来ないかと思ったけど、朝来たからさ、ベランダ連れてって話したんだけど、そこでやっと泣いてさ。」

「…」

「笑ってさ、ごめんって言ったの、加奈子。心配かけてごめんって…」

「麗奈がぎゅって抱きしめて、やっと泣いたの。」

「…だから、いっぱい泣かせてあげよ?」

「そうだね…」


 その日、私は授業中も、帰り道でも、加奈子の気持ちと自分の気持ちを比べていた。加奈子には言わないけれど、私は今の加奈子が羨ましかった。あんな風に、誰かを好きになって、叶わなかったとしても、相手を大切に思えることが。そんな気持ちを、恋愛を出来たことが。

 今の私は、どうやっても、そんな経験をすることは出来ないんじゃないかと思う。


ブブッブブッ


 スマホが鳴った。通知画面を見て返信をした後、帰り道の角を曲がった。

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