思い上がり 1
次の日、学校には早く着いた。昨日から落ち着かない気持ちが続いてる。自分でも分かるくらいに浮かれていた。
(早く、要に会いたい…)
教室に入ると、加奈子がいない。窓の方を見ると、ベランダに梓と麗奈と一緒にいるのが見えた。
(なんだいるじゃん!)
私は荷物を机に置いて、3人がいるベランダに行った。
「おはよー!」
声をかけてやっと気がついた。加奈子が泣いてた。麗奈が加奈子の肩を支えていた。
「あ、奈緒。おはよー。」
「おはよう奈緒。」
梓と麗奈が、困った笑顔で挨拶を返す。私もさすがに察した。昨日、何かあったのだ。
「え…。ど、どうしたの?」
ゆっくり加奈子に近づく。声をかけたけど、加奈子は顔をレナの肩にくっつけたまま震えてた。
「いやぁ、実は昨日さぁ…」
梓から事情を話された。昨日駅に向かい、先輩が来るのを3人で待ってたらしい。そして、先輩が来たと思ったら、相手も連れがいた。女の先輩と、男の先輩。
「加奈子ちゃんおまたせー。今日さ、4人で遊ばない?こっち俺の友達で、こっちが俺の彼女!」
加奈子が固まっているのを察して、梓と麗奈がファローして連れ帰ったらしい。
「いやぁ、あの展開は驚いたよねぇ…」
「あっちは多分ダブルデートのつもりだったもんねぇ。連れてきた男の先輩、明らか加奈子ねらいな感じだったねぇ…」
「まじかぁ…想像するだけでいたたまれない気持ちになったよ…」
「うぅ…ひっく…うぇぇ…」
加奈子はずっと、麗奈に抱き締めてもらっていた。話を聞く限り、先輩は友達のためにとダブルデートを企画したようだ。それにしたって、事前に言ってくれても良さそうなのに…。
「うぅ…確かに、妹みたいって…ひっく…言われたことあったけど…本当に妹ぐらいにしか見てなかったなんて、思わなくてぇ…うあぁん…」
「あらららら…。で、その彼女さんは?どんなだったの?」
「あー…めちゃ綺麗でした!とても性格が良さそうでした!」
「急に怖いよね、ごめんね?良かったらおともだちも一緒に行く?って私達にも気を遣ってくださいました!」
「ヒェ〜いい人…」
梓と麗奈が言うくらいだから、相当いい人なんだろうなぁ、と思った。
「いや、まぁ、でも、言う前に知れて良かったと言えば良かったんじゃない?かな?」
こういう時、何と言って励ませばいいのか分からない。すでに梓と麗奈が慰めているはずだから、その意向に沿って励ましたい。
「それうちらも昨日から言ってるんだけどね。まぁそんなすぐには無理よね。」
加奈子が顔を上げた。
「すぐには無理ぃ。でも、でもね、ひっく。彼女がいるのはショックだったけど、彼女さん、素敵な人だったの…ひっく。だから、なんか、素敵な2人だったからぁ!お似合いだったからぁ!」
だんだんと大きい声になって、心配になってきたところを麗奈があやす。
「だからね、ひっく…だから、悔しいとか思わなかったの…。今はまだ悲しいけど、2人が仲良しでいてほしいって思っちゃったのぉ…ひっく…。言わないで、応援したいと思って、るの…」
私は加奈子の演説に、少し感動してしまった。鼻の奥がツンッとした。昨日の今日で、相手のことをこんなに優しく考えられる加奈子が愛おしかった。世界で一番いい子。
「加奈子…。加奈子がかっこよすぎて、ちょっと私が泣けてきた…」
加奈子の気持ちが、私の中にじわぁっと広がるみたいだった。切ないって、多分こんな感じなんだと思った。キュウッと引っ張られる心が、擦り切れてしまいそうで、泣き叫ぶ声みたいな音が、聞こえるみたいで、痛くて、苦しかった。
その後、加奈子はHRに出ないで保健室に行って、そのまま早退した。
お昼は梓と麗奈と3人で食べた。話題はやっぱり加奈子のこと。
「加奈子、昨日も結構頑張ってたんだよね。」
「2人が連れ出したんだっけ?」
「うん、連れ出した後3人で話したんだけど…。ずっと笑って、うちらに気使ってるっていうか…」
「学校来ないかと思ったけど、朝来たからさ、ベランダ連れてって話したんだけど、そこでやっと泣いてさ。」
「…」
「笑ってさ、ごめんって言ったの、加奈子。心配かけてごめんって…」
「麗奈がぎゅって抱きしめて、やっと泣いたの。」
「…だから、いっぱい泣かせてあげよ?」
「そうだね…」
その日、私は授業中も、帰り道でも、加奈子の気持ちと自分の気持ちを比べていた。加奈子には言わないけれど、私は今の加奈子が羨ましかった。あんな風に、誰かを好きになって、叶わなかったとしても、相手を大切に思えることが。そんな気持ちを、恋愛を出来たことが。
今の私は、どうやっても、そんな経験をすることは出来ないんじゃないかと思う。
ブブッブブッ
スマホが鳴った。通知画面を見て返信をした後、帰り道の角を曲がった。