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溶けない雪  作者: Ao
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出会い 1

 学校は嫌いではない。友達との関係も良好だが、いつも頭の中でぼんやりとした違和感があった。

 少しだけここから離れたい。静かな場所に行きたい。元々田舎で育ったからか、自然に飢えているのかもしれない。自転車で登校する時間が私のほっとする時間だ。


 高校1年の秋

 私、烏丸(からすま) 奈緒(なお)は憂鬱な朝を迎えていた。天気は曇りのち雨予報だが、すでに外はパラパラと雨が降り始めていた。


「奈緒!早くしないとバス来ちゃうよー?!」

 母が私を急かすように声をかける。

「うーん…もう行くよう」

 気怠く返事をして家を出る。天気が悪いと、より一層静かなところに行きたくなる。


ブロロォ…

「次は〜駅前通り〜…(アナウンス)」


 学校まではバスを乗り継いでいく。自転車なら30分程で着くのだが、天気の悪い日は1時間かかる道のりだ。乗っているだけとはいえ、物思いにふける時間があるのは危険だ。窓から雨足が強くなる景色を眺め、また私はここじゃないどこかを妄想してしまう。


「ご乗車ありがとうございました〜(アナウンス)」


 アナウンスにハッとし、バスから降りる。

 次のバス停に向かうと高校生の長蛇の列が遠くからでもよくわかった。みんな私と同じような通学方法なのだから当たり前だ。そしてこのバスは、私が通う高校に行く人くらいしか朝は使わないので、他のお客さんはほぼ見たことがない。


「(…一度に全員乗れるのか?)」


 毎回思うのだが、乗れてしまう不思議。このバスに乗れば学校前に着くのだが、鮨詰めにされて息苦しい車内を耐えなくてはならない。


「………」


 私はクルッと踵を返した。


「(これ以上息苦しさを感じたくない(物理))」


 少し離れたビルで雨宿りしながら、長い列が車内に収まって行く様をぼんやり眺め、発車するのを見送った。


 誰もいなくなったバス停に近づき、時刻表を見る。

次のバスは15分後。これではHRに間に合わないが、鮨詰めにされるくらいなら、誰も乗っていないバスに寄られて、またぼんやりしていたい。


 静かなバス停にポツンと立って、雨足が強まる空を眺める。ザーっという雨音は耳に気持ち良い。[雨に濡れたい日もある]なんて言葉を、何かの小説の一節に見たが、納得だ。私も雨に濡れて走り出したいような、笑いたいような気持ちになる。


「(…どこか、行ってしまいたいなぁ)」


バシャッ…バシャッ…ダッダッダッ



「ハァッハァッ…もう行っちゃったッ?!」


「………え?」


 声をかけられる直前まで自分の世界でぼんやりしていたので、私は仰天した。横を見ると、息を切らした男子高校生が、私の目の高さまでネクタイを緩めながら時刻表を凝視していた。おそらくどこからか走って来て、そのままの勢いで私に声をかけたのだろう。


「…バスなら、もう、行っちゃったよ?」

「まじかよーッ!」

「……………」


 それ以上は言葉が出てこなかったので、私は顔を前に向き直した。こんなに背丈が大きい男子、周りにいなかったから驚いてしまったのだ。


「(え?誰?!めちゃくちゃ息切らしてるけどバスなんてもうとっくに行ってるし!間に合うギリギリでもないのに、どこから走ってきたの?!)」


 絵に描いたような男子高校生が突然話しかけてきて内心パニックにもなっていた。が、それも2、3分で落ち着いた。沈黙の気まずさが勝ったのだ。


「(きっと向こうも勢い余って知らない人に話しかけて、さぞ気まずいだろうなぁ…こっちから話しかけた方がいいかなぁ…)」


「………あのぅ、すみません。先輩?ですか?」


 私は意を決して質問してみた。


「へ?」

「先輩だったらごめんなさい!さっきタメ口で話してしまって…」


 学年だけで8クラスあるマンモス高。同じクラスではない時点で、礼儀を優先したほうが無難だと判断した。


「え?俺のこと知らない?!」

「…はい…すみません…」

「あー、そっかぁ。2組の澤木だよ〜!サッキーってみんな呼んでる!」

「は、ぁ…え?1年生ですか?」

「酷いなぁ!そうだよ!」


 息も整ってきたようで、彼は会話を続けてくれた。


「あの…私は…」

「知ってるよ!1組でしょ!」

「え?!」


 驚いた。隣のクラスの人なんて、私は全く感知していなかった。申し訳なさと、自分のクラス以外の人のことまでも把握するなんてすごいなぁと思ってしまった。

「あ…そう…名前は…」

「名前も知ってる!」

「?!」


 知ってると言われてドキッとした。


「とりまるさんでしょ〜?」

「…からすま、です」

「えぇ?!あ、鳥じゃなくて烏なのか!ごめんごめん!からすまるさんね!はははっ」

「か•ら•す•ま•です!」

「え?」

「え〜…」


 よく名前は間違われるから慣れているけど、ドキッとした分、拍子抜けしてしまった。


「なんで私のこと知ってるんですか?」

「敬語やめな〜い?俺らのクラス連中、結構他クラスの人のこと知ってるよ?入学したらまずかわいい女子探すもんでしょ〜」

「えぇ〜…」


 不意に可愛いと言われ、また戸惑った。彼の緩い口調に絆されて、何だか私も緊張が溶けてきていた。

 可愛いと言われたことは素直に嬉しい。だけど、知らないところで見られているっていうのは、気持ちの良いものではない。


「知らないところで見られてるのは、ちょっと、嫌だなぁ…」

「えー?烏丸さん、かっこいい男子探さなかった?そっちのクラスってそんな感じ?てか、女子ってそうなの?」


 過敏になっているのかもしれない。でも、私にもそうなる事情があるのだ。

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