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勇者になりたかった

作者: あおい

ある小さな村に心の優しい少年がいた。

最初は親や村の人が喜んでくれるのが嬉しくて、その笑顔と「ありがとう」が聞きたくて困っている人がいたら進んで手を差し伸べた。


毎日、毎日、何ヶ月も続けたある日、少年は村の人のお使いで市場に買い物に出かけた。

人々がいつもより浮き足立っていて市場全体が普段より活気立っていた。いつも買っている店のおじさんに訳を尋ねると今代の勇者が出立するお祝いだと教えてくれた。そしてこれからこの近くを勇者一行が通ると言うことも。

少年は急いでお使いを済ませると勇者の姿を一眼見ようと教えてもらった場所に走った。

そこにはすでに人だかりが出来ていて、みんな新しい勇者の話をしていた。近くにいた人に話を聞くとこの通りをもうすぐ勇者一行が通ると言う。道の中央を開けて左右にずらっと人が並んでいた。

突然歓声が上がる。どうやら勇者が現れたらしい。

背の低い少年はどうにかして姿を見ようと背伸びをしたり飛び跳ねたりするがどんなに頑張ってもその姿を見ることはできない。そうしている間に彼らはどんどん先に行ってしまう。

少年はその場から走り去り、近くを見渡せる大きな木に登った。

木の枝によじのぼり勇者一行を探す。

もう随分遠くへ行ってしまったが彼らの誇らしげな顔とそれを見送る人々の顔が少年の脳裏に焼き付いた。


『勇者になりたい』


少年が強く願った瞬間だった。


それから少年はより村の人々を助けるようになった。狩や畑仕事、雑用と頼まれれば––––いや、頼まれなくても自ら進んで手伝った。まるで初めから彼がやることが当然であるかのように––––。

次第に村の人々は彼の助けが得られることを当然として生活するようになった。日々忙しく、くたくたになっても少年は平気だった。なぜなら、「一番人々を助けた者が勇者に選ばれる」と人から教えてもらったから。

次の勇者には自分が選ばれる、そう信じて疑わなかったし、勇者になるためにできることは全部やろうと決めていた。

頼まれれば何でもやった。村が飢餓に襲われた時は自分の食べ物を誰かに譲ったりした。盗賊が現れたら戦い、一晩中眠らずに見張りをしたりもした。

次第に少年は疲れていった。だが、今まで少年の手助けに感謝していた村人たちは少年が満足に働けなくなると不満をこぼすようになった。「この前はやってくれたのに」「あの人のことは助けたのに、私のことは助けてくれないのか」「ひどい」「ずるい」そんな言葉を浴びるようになった。

身も心もクタクタだった少年はそれでも誰かのために頑張った。



そんなある日、『次の勇者が選ばれた』と誰かが言った。

また勇者の出立を祝う祭が開かれると。

以前勇者を見た通りにまた人だかりが出来ていた。

もう、昔のように木に登らなくても勇者一行を近くで見ることができた。

幼かった少年はもう、青年になっていた。


人々から羨望の眼差しを受ける新しい勇者は誇らしげだった。

筋肉がつき、健康体で顔の血色も良かった。骨張っていて細身な顔色の悪い青年と何もかも反対だった。

「きっと新しい勇者様があんたのとこの村も豊かにしてくれるよ」

すれ違った知らない人が憐れむように言った。

青年は人々が望む勇者ではなかった。


青年は静かにその場を離れると何かを呟きながら何処かへと歩いて行った。

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