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招かれざる客(4)



「う、うわああ!」


 家を出て街に降りたミュエは、目を輝かせるヴィヴィの一歩、二歩後ろを歩いていた。


 小さな街の小さなマーケット。

 あちらからいい匂いが、こちらから愉快な音楽がするたびに、ヴィヴィは軽い足取りで引き込まれていってしまう。


 これではどちらが世話をしているのかわからない。

 街のことを聞きたいのはミュエのほうなのに。


 薬の売り方、ヤギのミルクの買い方。

 早急に解決したいことは指折り数えると案外多くて、アーランドの恩恵の有り難さを今更ながら思い知る。


 あんなやつ、信用ならないと思っていたのにずいぶんと生活を託してしまっていたらしい。

 手紙ひとつ届いていないが、元気にしているのだろうか。


 魔法師は良くも悪くも癖がある。

 小さな街にはしゃいでいるヴィヴィも、それに当てはまる。


 すれ違う人間とぶつからないように、小さくなりながら人の間を縫う。


 ヴィヴィをそろそろ呼び止めて、人間との交渉の仕方を聞こうとしたところで、盛大にヴィヴィが転んだ。


 上ばかり見て歩いていたせいで足元を確認していなかったらしい。

 ずしゃあ! 砂埃が舞うほどに派手に地面に突っ伏し、情けなく大の字にうつ伏せているヴィヴィに心配よりも呆れが勝つ。


 まるで子どもの所業に少しの不安を抱きながら近づけば、転んだヴィヴィの真横で開いたドアが、まるでコントのように頭を打った。


 チリンチリン澄んだドアベルがヂリッと不愉快そうに唸る。


「いたぁい、ぅ、う゛……っ」


 横向きになり頭を抱えてドアベルよりも静かに唸るヴィヴィに駆け寄ると、ドアから出てきた年老いた女性も驚いた顔をしていた。


 その顔には見覚えがある。

 建物の外観と、隙間から見える内装。

 ミュエが訪れることがある雑貨屋。


「大丈夫かい。わるかったね、お嬢さん」


 雑貨屋はミュエをじろりと見下ろした後に、地面に転がるヴィヴィに手を差し伸べた。

 

 ミュエが転ばせたわけではないのに、ちくちくと罪悪感が刺激されて眉間に皺がよる。

 私のせいじゃないと言い張るのはなんだか幼稚な気がして、差し伸べ損ねた手でローブを掴む。


「ら、いじょうぶです……」


「……入んな。あたしにも責任があるからね」


 明らかに面倒そうな顔に気付いているのかいないのか、差し出された手を嬉しそうな顔で握り立ち上がったヴィヴィはローブをはたいて整えて雑貨屋へと入っていく。

 人間とあまり関わりたくないからお前を頼ったのに、お前が人間を頼ってどうする。

 先程までの萎縮していた態度を少しくらい見せてみろ。

 引き止めたいが、それも間に合わない。タイミングを逃してしまう。


 けっきょく、ひとり道に残されるよりも店に入ることを選び、ドアが閉まる前にするりと体を忍び込ませた。


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