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招かれざる客(3)




 かちんこちん、と音が聞こえてくるような緊張した面持ち。


 気まずい時間に終止符を打ったのは、ミュエでもヴィヴィでもなく、寝室にいる赤ん坊の泣き声だった。


 ひとつだった声はふたつとなり、寝室に入ることの出来ないデューはおろおろとミュエを見ることしかできない。


 ヴィヴィは突然の子どもの泣き声に驚いて目を丸くして、心配そうにテーブルの上で指を動かした。

 

 ちら、ちら。

 はやく子どもをあやさなくてはいいのかと、そう尋ねるような視線がささる。さっきまでテーブルに会いに来たかのように俯いていたくせに。


 ため息を吐いて立ち上がると、マンドラゴラが毛先を持って後をついてくる。


 寝室に入ることができないのはマンドラゴラも同じなので、ミュエがゆりかごの取ってを掴んでいつもの定位置まで運べばデューとマンドラゴラがたちまち集まる。


 手袋に包まれたデューの指に頬をつつかれ、マンドラゴラに揺さぶられ、エマーリリーの泣き声はぴたりと止む。

 そのあとに、ハロヴも静かになる。


 あの獣人の話を聞いて以降、まだ1歳にもなっていないハロヴの過保護を感じてならない。

 ふくふくとした腕を宙に伸ばして見えない何かと遊んでいる子どもが機嫌良くなったところでミュエはヴィヴィに視線を戻した。


 赤ん坊に目を奪われていたヴィヴィもハッとして、またテーブルに視線を戻してしまう。


「……ヤギのミルクが欲しい」


「ヤギのミルク?」


 ミュエが背もたれに体を預けて、腕を組む。

 目を細くして、命令をするかのような口調に自分自身でさえ違うだろうと思うのだが、取り返すこともできずに。


「あの子たちの食べ物がない。前の魔法師が街から買ってきてくれてたんだが、……いなくなっただろ。手助けしてくれるなら、助かる」


「あ、あ、えっと、」


「できれば薬も引き続き売りたい。金はあった方がいいからな」


「あの、あの、……待ってください!」


 1度要求を口にすると、あれも、これも、とミュエの悩みは止まらない。


 今までアーランドが担ってきた橋渡しの役目を期待してつらつらと言葉を並べていると、ヴィヴィにそれを止められた。


 両手を前に突き出して、必死の形相でミュエの言葉を止めている。


 そのくせ、自分の息まで止めるほど緊張しているようだ。伸びた爪をゆっくりと手のひらに収めると、震えながらテーブルに拳を置く。


 ミュエは、なんだこいつ、と思った。


 アーランドも変なやつだが、このヴィヴィという女も少しだけ様子がおかしい。

 それでもあの胡散臭い余裕のある態度よりも、息すらできないほど緊張した人間の方が相手にしやすい。


 コミュニケーションがとれるかはさておき。


「……どうした」


 ミュエだって、ただ働きをさせるつもりはなかった。仲介料、もしくは欲しい薬があるなら優先させてもいい。


 いつまでも止めた理由を喋らないヴィヴィをぎこちなく促せば、ヴィヴィは重たい口をようやく開いた。


「……街のことを、よ、よく知らないんです。なので、その、」


 ちらり。


 上目遣いの目が、ミュエを頼っている。

 たっぷりと嫌そうな顔をして、それから、壁にかかっているローブを取りに立ち上がった。


 ミュエの緑の髪が近づくと、エマーリリーがあぶう、と甘えて手を伸ばすが、そのぽっこり膨らんだ腹が縮まないように、ミュエは街へと下りるのだった。


 すみません、と謝るヴィヴィをつれて。

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