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28話 悪女、予兆

 後日、紅月宮に緑翠妃から一通の手紙が届いた。

 そこには無事、男児を出産した旨。そして蘭華と龍煌への心からの謝辞が記されていた。


「いやあ、無事緑翠妃を救ってくれて助かった!」


 紅月宮には現在、鴎明と雨黒が尋ねてきていた。


「……呪詛はあれからどうなった」

「その女のいうとおり、緑翠妃様の紅に呪詛は仕組まれていた。紅を緑翠妃様に渡したのは侍女だが、どうやら雇われていたらしく情報を吐く前に、大量の血を吐き出して息絶えた」


 じろりと雨黒が蘭華を睨む。


「どこかの誰かが『呪詛返し』など余計なことをしてくれたお陰でなにも掴めず終いだ!」

「まあまあ、落ち着きなさい雨黒」


 蘭華に掴みかかろうとする雨黒を鴎明が宥める。


「まあ、どうせあの侍女は捨て駒。呪詛返しをされても彼女が犠牲になるように仕向けられていたんだろう。とにかく今回は、緑翠妃様と腹の子が無事だっただけ大収穫だ。緑翠妃様から、今度二人に水月宮に顔を出すように、と言伝を受けたよ」

「本当ですかっ!?」


 蘭華が目を輝かして、龍煌の手を握る。


「これで堂々と奥の宮に入る術を得ましたね、龍煌様っ!」

「いや……妃が許可したところで、廃太子の俺は入れないだろう。それにそもそも俺たちは幾つも律を侵している。そろそろお沙汰がくるころだろう」


 龍煌の言葉に、茶を入れていた慧が体を震わせ茶器を落とした。


「あ……ああ……私はもう……死んじゃうんだ……」


 頭を抱え真っ青になる慧を見て鴎明は愉快そうに笑う。


「案外そうでもないかもしれませんよ?」


 含み笑いをする鴎明を、蘭華を覗く一同は訝しげに見た。


「緑翠妃は男児を産んだ。つまり……王位継承権を得る者が増えたということ。龍煌様は皇子をお守りになったのですよ」

「……関係ないだろう」

「いいえ。きっと貴方は一目置かれる。そして、階段を一つ上がられたんです」

「なにがいいたい」


 すると鴎明はにやりと笑い、こう続けた。


「つまり、後継者争いがはじまるということですよ。煌亮様の地位が脅かされるということ。王宮がひっくり返りますよ?」

「貴様……まさか最初からそのつもりで」

「さあ、どうでしょう」


 睨む龍煌をものともせず、鴎明はにこりと笑ったのだった。



「父上どういうことですかっ!」


 ――数日後。

 皇帝の前に、文を持って煌亮が現れた。


「そこに書いてある通りですよ、煌亮様。皇帝は緑翠妃様をお救いになった、龍煌様、その妻蘭華様の功績を認め、龍煌様を皇太子の座に戻すことを決定されました」


 皇帝の傍に控えていた鴎明がにやりと笑う。

 その恐ろしい笑みを見て、煌亮の傍に控えていた雨黒は眉をぴくりと動かした。


「何故です! あの者たちはあろうことか私を人質にとり、禁じられている奥の宮へと押し入ったのですよ!」

「過程はどうあれ、結果として緑翠妃と子は救われた」


 皇帝が口を開いた。

 覇気に溢れた深みのある声。それに圧倒され、煌亮は思わず押し黙る。


「律の五七一――人命を救うためであれば、律を逸しても構わない。龍煌様たちが侵した律は大目にみてよろしい、かと」

「鴎明、其方謀ったな!」

「はて……なんのことやら」


 しらばっくれる鴎明に、煌亮の額の青筋は濃くなっていくばかりだ。


「緑翠妃と新たな御子の誕生だ。この祝いの席に免じ、龍煌たちのことは不問とする」 

「父上っ!」

「皇帝である我に逆らうというか、煌亮よ!」

「――っ!」


 その声の圧に圧倒され、煌亮は冷や汗を流しながら頭を下げる。


「――申し訳ありません」


 俯きながら煌亮は悔しそうに拳を握りしめていた。

 その様を見ながら鴎明はひとりほくそ笑む。


(――面白くなってきた)


 

3章完結です!

皇太子の座に戻った龍煌。

そしてなにかを企む鴎明。

まだまだ後宮に波乱が訪れるはず……!?


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