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18話 悪女、日常

 これは慧が紅月宮の侍女としてやってきてから三日後の出来事である。


「――あの」


 ある朝、慧は苦言を零した。

 蘭華が持ちかけた決闘により、蝶月の元を離れることとなった侍女、慧。

 自分をいいように利用していた蝶月から救ってくれた蘭華には一応感謝している。

 当初の目標であった出世街道を離れることにはなってしまったが、心機一転蘭華に仕えようと心に決めた。

 そのはずだった――。


「あら、おはよう。慧! 朝早いのね!」


 早朝、紅月宮にやってくると蘭華に笑顔で出迎えられた。

 通常、妃の身支度や身の回りの世話をするのが侍女としての務め。

 ところがどうだろう。


「丁度朝ご飯ができたところなの! 一緒に食べません?」


 この妃は世話をされるどころか、自らかまどに火をくべ米を炊き、立派な朝食を拵えているではないか。


「ええと……龍煌殿下は」


 それならばせめて夫である龍煌の役に立たねば。

 慧は焦りながらも龍煌の姿を探した。


「……ああ。もう来ていたのか、おはよう」

「ひっ!」


 背後から声をかけられ慧は震えた。

 目の前には上半身半裸の龍煌。水浴びでもしてきたのか、その身体は水に濡れている。


「あらあら龍煌様。水も滴る良い男ですが、慧が驚いていますよ」

「だ、大丈夫です殿下。私が身体をお拭きして、着物を――」


 男の裸に狼狽えては駄目だ。

 自分は気丈に仕事を務めるのだと、奮い立たせていると蘭華から声がかかる。


「ちょっと、慧! 私の楽しみを奪わないで下さいな!」

「は……?」


 すると蘭華は手拭いをとってきて、龍煌の身体を拭き嬉しそうに着物を着させている。

 当然、そんなことする妃なんてこの後宮にはいない。


「夫を支えるのは妻としての務め、そして喜び! こうして龍煌様と触れあえる折角の機会、楽しまなくてどうします!」

「…………俺は一人でもできるんだがなあ」


 この二人、生活スキルが異常に高い。

 掃除も洗濯も料理だって、自分たちができることならなんでもやってしまうのだ。

 そして慧はこう思う。


「――これ、私いる必要あります?」


 わざわざ決闘をしてまで引き抜かれたのだ。

 よほど侍女に困っているのだろうと思ったけれど、自分がする仕事はあくまでも彼女たちの手伝い。

 おまけに侍女だというのに、主たちと一緒に食卓を囲む始末。


「もちろん、いる意味はありますよ!」


 だが蘭華は当然のように頷いた。


「皆で食べるご飯は美味しいです!」

「は――」


 食卓を囲めるだけで幸せだという。

 本当におかしな人たちだ。

 

 宮と呼べるほど豪華ではなく、オンボロ宮に一組の夫婦と侍女が一人。

 それでも後宮独特の女の嫌な人間関係からも離れられ、こうして幸せそうな新婚夫婦を見ていると、慧はそれ以上なにもいえなくなった。


(ま、いっか――)


 こうして紅月宮での日常は今日も過ぎていくのであった――。

お久しぶりです。

久々の更新……お待たせ致しました。

次回から新章開幕です!

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