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帝国海軍上海魔界陸戦隊

 北支に置いて、刈り取りの季節が幕を開けた頃。ここ上海でも時を置かず、日本軍は行動を開始した。


 いわゆる所の第二次上海事変である。


 史実と違い日本軍が、散々に挑発を繰り返してきた上で爆発する形で発生した盧溝橋事件は、中華民国政府に、ある種、覚悟と諦観を持って受け入れられた。


 「あいつらは完全に殺る気なのだ。全面衝突を先延ばしにはできない」


 であるなら、上海に展開する日本軍は、殲滅しなければならない。それが幾ら犠牲を出そうとも、横腹から食い破られるわけにはいかない。


 何しろ制海権は完全に日本側にある。広大な大陸からすれば、上海から目と鼻の先にある南京を直撃されては敵わないのだ。


 一つ幸運なことがある。日本軍は、殺る気は見せても、増派の気配が遅々としている。


 「舐めてんのか?それなら舐めたままでいて!本気出さないで!できれば諦めて!」


 悔しい気持ちと安堵が、ない交ぜになっているが、ここら辺が正直な中国側の本音だろう。


 ドイツとの協力により、近代化は進んでいても、いまだ国内が不安定な状況で、他国とかち合いたくなどない。それが狂犬としか思えない島国であるなら猶更だ。


 だが、やらねばやられる。苦悩した蒋介石であったが、1937年8月11日、上海の解放を指示、ここに日中は全面戦争へと突き進む事になる。



 そして世界は目撃する。戦争は永遠に変わったのだ。


 「あれはなんだ?」


 フランス人カメラマンである。ジャンは、モンティニー大通りの交差点付近を歩く物体を見て、己の正気を疑った。


 その物体は、二本の足で歩いている。


 それは驚きではない、だが大きさが問題で、尚且つ、歩く事が物理的に不可能な物体が、ノッシノッシと歩き、そこいらにある物を、中国側に投げつけているなら驚くほかはない。


 「骨が歩いてる?」


 今、土嚢の陰に隠れ、凄惨な戦場と化した、上海の町を、写真に収めようとしているジャンの直ぐ近くを、巨大な骸骨が歩いている。


 おおよそで、5メートルはあるであろう巨人の骨、眼窩に青く燃える炎を宿した巨人は、悠然と戦場に姿を現したのだ。


 それも一体ではない。後から後から、数十は居るであろう巨人が上海の町を歩いている。


 「ガリバーか?俺は巨人の国にきたのか?なんだよあれ?」


 しばし呆然としたジャンであるが、己の職分を思い出し、巨人の群れを写真に収めるべく、カメラを向ける。


 レンズの向こうには、巨人の後ろをチョコマカと動く小人たち、日本軍だ。


 「日本軍の兵器なのか?あれは?」


 疑問は尽きないが、どうやらそのようだ。


 巨人の足元に来た日本兵が何やら怒鳴ると、巨人はその足を、あまりの出来事に驚愕しっぱなしの、中国兵の陣地に向け疾走したのだ。


 骨の身でどこをどうやったら、そこまでの速さを出せるのか?そういった勢いで突進する、骸骨のお化けは、抵抗する中国兵を踏みつぶし、蹴り飛ばし、蹂躙していく。


 ただその蹂躙劇を見ている事しかできない、ジャンの耳は、聴いては決していけない声を捉えた。


 「笑っていやがる……なんなんだよ!これは!いつからここは化け物屋敷になったんだ!」


 巨人は笑っていた。


 骨が笑う訳はない?ではこの声はどこからきている?あの肉の落ちた口から出ていないか?


 笑いは連鎖し、全ての巨人の、既にない筈の器官から殷々と響いてくるではないか?


 「うえぇ、なんて声だ……気持ちわりぃ」


 ジャンは吐き気を覚え、思わず下を向く。気づけば、どこからかやってきた霧が、彼の足元に巻き付こうとしていた。


 



 「これなら人間の増援は要らんわなぁ……」


 大川内傳七、海軍少将は司令部の窓の外を見ながら驚きを通りこし、呆れて呟いた。


 中国軍の総攻撃を前にして、押されまくる上海特別陸戦隊が出した、悲鳴のような救援要請を本国が却下したと聞いた時は、上は狂ったかと思ったものだ。


 「動員はしない。現地部隊並びに、特別編成される特殊部隊でのみ対処せよ」


 あの時は電文を踏みつけてしまった。自分たちに死ねと本国は言っているのだ。


 第一、なんだ特殊部隊とは?部隊名は?所属は?数は?いつ来るんだ?


 それすら連絡なしで協力しろ?馬鹿か?近ごろ本土は、幽霊騒ぎだの、連続失踪だのと、変な事件で持ち切りだそうだが、そんな事にかまけて、現実の戦争を忘れるな!


 「やってやろうじゃないか!本国の馬鹿どもに、俺たちの死にざま見せてやる!」


 荒れてもしまった。幸い、陸軍は役に立たなくとも、我が海軍は上海に急行している。


 「いっそ、支那軍が来たら、俺たちごと砲撃して貰った方が良いかもしれん……だがそれでは租界に残った民間人がどうなるか……」


 自暴自棄にもなった。あの日は一日で寿命が随分と縮んでしまった。


 「こいつらが来るなら、早く言ってくれよ。言っても信じなかったろうが……」


 12日の深夜に、霧と共に入港してきたボロボロの輸送船、幽霊船としか言いようのない姿だったが、それが運んできた「特殊部隊」は、もっとおかしな姿をしていた。


 骨を満載した木箱の山、獰猛そのものな見た目の軍用犬の群れ、そして少数の陸軍将校たち。


 全員色眼鏡を掛けて、どいつもこいつも陰気な薄ら笑い。怒鳴りつけてやろうかと思ったものだ。


 「だがそれも、あれを見るまでの話しだったな」


 船から降りた陸軍将校たちが、木箱の山に呟いたのだ。そして動き出した。


 骨だ、骨が動いたのだ。カタカタと音を立て、骨は次々と木箱をぶち破り、船からはぞろぞろと骨の群れが湧きだして来る。


 軍用犬の方もだ。どこの世界に、炎を巻き上げながら走る犬がいる?


 化け物だ、化け物の集団が来たのだ。


 化け物共は、そのまま夜の中に消えた。


 そして、その日は、朝になるまで、中国側から、耳を塞ぎたくなるような悲鳴と、銃声が響いていた。


 



 「それでこれだ」


 死体の群れ、規律良く並んでいる死体の群れが眼下にいる。


 「規律良く並んでいる」のだ、死んでいる癖に!二本の足で!


 全てがここ数日で死んだ中国兵だ。


 誰がどう見ても生きてなどいない。穴だらけで、ズタズタで、ハエがブンブン集っている。


 臭い事この上ない。だがこれが戦力なのだ。


 これから、こいつらが、我が、上海特別陸戦隊の主力だ。


 死体で死体を作り、その死体を持ってさらに死体を増やすのだ。


 あの「特殊部隊」が来てから、急に湧き立つ様になった霧の中、中国軍は上海市内へ入る事を躊躇し始めている。


 霧の中から襲い来る、悪夢の産物を恐れての事だ。


 「悪夢、、悪夢だなたしかに、、、、」


 


 「まるで醒めない夢の中にいるようだ」


 大川内傳七、海軍少将は変わってしまった世界にため息をついた。


 


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 真実の報道が伝わることはないですね…誰も信じないんで! ソ連と戦う時は腐臭が抑えられていいんじゃないですかね?寒さで腐らないんで、冬期攻勢こそ勝機
[一言] 吸血鬼のジレンマで食事である人間を全て同族かグールに変えると滅びると、人間牧場かソ連の兵士は畑で取れるって感じで人間畑を一定数作らないと
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