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終らないパーティーを始めよう!

 死霊術師と眷属たちの、ワクワク大収穫祭は牟田口廉也の手で、盧溝橋により始まった。


 史実と違い、これは偶発的な戦闘ではない。


 まだ正気の人間のいる政府はともかく、パーティーノーライフズはヤル気だ。


 やけくそとも言う。主人たる死霊術師と、さらに上位の邪神は破壊と混乱、そして、際限のない喜劇の連鎖をお望みなのだ。


 色々正気ではない始祖吸血鬼とは言え、元は恥も外聞も持っていた日本国民である。そんな彼ら彼女らは、せめて邪悪なる主人に伝えられた歴史をなぞり、予測不能の事態が起きないよう制御に気を払っていた。



 であるので、初めくらいは、時間通りに、事が始まって欲しい。どうせ後々無茶苦茶になるのだから。


 牟田口廉也は、その為に選ばれたのだ。


 彼は上手くやった。主人たちから言い含められた事は、最大限に曲解し、散々楽しんで上でであるが、予定の通りには兵力の接触と言う奴を始めたのだ。


 続発する謎の失踪事件を始まりとして。


 盧溝橋事件は、演習中の、予期せぬ武力衝突として始まらなかった。


 その前から、大都市北京では、骸転がる阿片窟、消えゆく子供と老人たち、殭屍目撃事件など、奇々怪々な事件が続発し、その全てに、日本軍の影がチラついていたからである。


 北京の市民たちの怒りと恐怖は余りある。


 弱腰の当局であるが、どうにもならなくなり、明らかに怪しい、一人の日本軍士官を捕縛しようとしたのが、盧溝橋事件の初まりである。


 因みに、容疑は、引き連れた殭屍と酒盛りの末、大酩酊し、冥婚相手を探すと称して、葬儀に乱入、齢十六で死んだ少女の死骸を略奪したことであった。


 捕まって当たり前である。火あぶりにした方が良い。


 だが相手が不味い。この士官は、皇族の血を分け与えられたと有頂天になる、牟田口が無暗と増やした眷属の一人であった。


 連行途中、迷信深い民衆により、銭剣と札で追い回された士官は逃走、盧溝橋近くで包囲され、後を追いかけてきた殭屍の群れと、一緒に大乱闘し、当局側に一方的に被害を与えてたのだ。


 後は無茶苦茶である。怒りに燃える民衆は日本軍側に殺到し、何だかか分からない日本側はこれに発砲、無駄に侠気を出した現地軍は、逃げ惑う民衆を救わんと応射、事態は拡大し、そして衝突は始まった。


 支那駐屯歩兵第1連隊、連隊長、牟田口廉也は、この報告にニンマリした。


 ゾロリとした乱杭歯を、むき出しにしてである。


 牟田口はとしては、奴さんがた、幾ら挑発しても、仕掛けてこないからジリジリしていた。


 殺りたくてたまらない。出世や名誉の為ではない、殺りたいから殺るのだ。


 瑞々しい生者の魂を踏みにじり、温かい血を貪れるのは最高である。


 彼はどうやら、元ネタのゲームの方の吸血鬼に適正があった人物らしい。


 忽ち、殺戮は開始された。


 たかが一個連隊に何ができるとお思いだろう?


 定命の軍隊ならば当然だ。武器弾薬に水に食料、医療品だって山ほど必要、そう長くは戦えない。


 だが彼らは違った。


 昼のうちは、芸者か?と思うほど、特製の日焼け止めをベットリと塗り、日傘をさして督戦する牟田口は大人しかった。


 だが日が落ちると大ハッスル。


 日が落ちたので、戦闘も一旦下火かと皆が考えた時分に、連隊基幹要員(当の昔に転生済み)を連れて切り込みを掛ける。驚いたのは、事情を知らない、定命の日本軍連隊員である。


 「馬鹿か?」「なんで連隊長が切り込んでんの?」「誰か見た?見てない?」「何時の間に?死んだろあれ?」


 戻ってきた。ゲハハ!と笑い、首をぶら下げ牟田口は戻ってきた。無論、一緒に突撃した要員も首をぶら下げて。


 唖然とする定命の兵たちを、満面の笑みで見渡した牟田口は首を放り投げると、止める間もなく突撃を再開。7月7日だけで彼らは数百にわたる首級を上げていたのだ。

 

 


 1937年7月7日、盧溝橋で始まった惨劇は、これから起こるであろう、日中の戦争の様相を良く表していると言える。

 

 たかが数百の首を上げた所で、大勢は決しない?今は中世ではない?鎌倉時代に帰れ?


 確かにそうだ。だが、今までの、そしてこれからも、人類が行うであろう戦争行為とは一つ違ったことがある。


 心底楽しんでいる奴らが、参加してくるということだ。もう楽しくて、楽しくてたまらず、寝食忘れて(敵兵を食いながら)殺戮する悪鬼が、大量に流れ込んでくるのだ。


 そして、そいつ等はそう簡単には滅びず、ゴキブリの様に増えて、犠牲者を殺すだけには飽き足らず、徹底的に辱め、己の先兵に仕立て上げる、奴隷使いでもある。


 1937年。悪鬼が、自分たちを、支配すべき奴隷としてでは無く、広い牧場で草を食む、太った家畜と見ていることを、日本との闘いに覚悟を決めた蒋介石も、二虎競食の計を狙う毛沢東も気づいてはいない。

 


 

 


 

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