表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/60

最終回 溢れる愛を皆々様に

 そして多くの出来事があった。


 コロラド川絶対国防線を守る為に踏みとどまり、玉砕した「フーバーダム要塞の悲劇」、ミード湖に投げ入れられ処刑される将兵、「バックナー中将の悲鳴」、魂を汚されまいと行われた核地雷による「ソルトレイクシティ集団自決」、ドイツ大陸派遣軍が行った先住民に対する「ウェンディゴ計画」、モントリーオールでの「謝肉祭」。


 アメリカ合衆国の人々は雄々しく戦った。


 自分達に襲い来る死者の波を何度となく押し返した。先に逝き、蠢く肉塊となって襲い来る元主人と同じく、海岸で、都市で、丘陵で、砂漠で、森林で戦った。


 戦って、戦って、終わりの無い波に抗って、一人また一人と倒れていった。


 首を垂れた者も多い。建国の時より握ってきた武器を手放して這いつくばって命を乞えば生き残れた。待ち受けるのが暗い未来であっても、臓腑を綺麗に食われてぽっかりと空いた腹を晒して歩き続けるよりはましである。


 虐げ続けてきた過去に縋って生き残る者もいた。逃げ込んだ冬の森、温かい焚火、心優しく迎えてくれた先住民たち、彼らの鼻が尖っていて、毛皮に覆われているとしても、生き残るには縋るしかない。差し出された肉を頬張るしかない。それがどんな肉であったとしても家族が生き残る事が重要なのだ。終戦までの一冬で激減を続けていた先住民人口は大きく回復し、幾つもの新部族が祖先の故地を取り戻した。


 これらも一つの勇気だ。恐怖を飲み込み、家族と自分を守る為に決断する事は悪とは言い切れないだろう。狩られる側から狩る側に回って駄目な理由はない。ただ隣人が悲鳴を上げて叩くドアを固く締め、ドイツ人医師団の予防接種とやらを受けて、子憎たらしく思っていた上官が焚火の上で油を滴らせているを、仲良く先住民たちと切り分け、「美味そうな娘ならあそこの家にいます」と上陸してきた日本軍にご注進するだけだ。


 大方の人々にそれを要求するのは酷なことだろう。人はそう簡単に尊厳を捨てられないし、国家が抵抗を続けて悪鬼に抗っているのに諦めることはできない。


 だが献身は報われる事は無かった。戦争機械は血肉を燃料に軋みを上げ、悪鬼たちは喜んでそれに群がり続ける。ソンムがヴェルダンが毎日の様に大陸の彼方此方で繰り広げれられ、時に飽和した腐汁溜りを地上に現れた太陽が焼き尽くす。


 祈りは叫びに、叫びは怨嗟に、怨嗟は死者の狂喜を呼び込んで、東西北から押される米国は狭まっていった。南?メキシコはサンディエゴに死者が溢れた段階で国境を閉ざし、逃げ込む生者に弾を送り込んで生き延びる決断をした。


 1946年の春を北米が迎えた時、飢えと寒さをお供に連れた破滅の波はホワイトハウスを陥落させた。主役は日本軍ではなかった事を述べておきたい。


 ヴィクトリー号他死者の艦隊の援護を受けたレッドコートはリンカーン記念堂付近から上陸、記念堂に立て籠もる州軍を砲撃で粉砕、ワシントン記念塔を爆破して大統領公園に構築された塹壕を踏破して、ラファイエット広場に先に陣取っていた老親衛隊にホワイトハウス越しに錆びついた18ポンド野砲とコンクリーブロケットを誤射した後、仲良く突入し、火を放とうとするフランス連合部隊と殴り合ってから占領している。


 大統領は逃げられなかった。逃げ場は無かったと言った方が正しい。彼の名誉の為に言うが最後の最後には彼は銃を取って戦っている。銃によって立ち、銃によって倒れる事になった国家の指導者にとって相応しい最後であったと言える。


 自決は出来なかった。自決した所で腐った死体を永遠に晒されるのだから。一番搾りは特等席で元植民地の最後を見るべく、こちらも親征していた英国王が味わったと言われている。


 こうして米国の組織的抵抗は潰えた。ホワイトハウスは燃え残ったが、他は全て消費されたのだ。真に凄惨極めるパーティーであり、参加出来なかった者は後々まで悔しがったと言われている。


 議事堂の窓から突き落とされる議員の叫び、国立自然史博物館の古龍による職員の踊り食い、アーリントンで盛大に行われた立食会、メトロスミソニアン蒸し焼き、飲んで食べて踊って燃やして、徹底的に辱め、瓦礫に変えて血に染めた。


 首都ワシントンの最後は合衆国の末路でもある。抵抗は一つ一つ丁寧に時間を掛けてゆっくりと大いに楽しまれながら消費された。


 消費である。鎮圧でも掃討でもない。米国を遂に覆った暗闇は雑多な火器を手にした見世物を、手を叩いて賞賛し、諦めた者たちに見せつけ、時に参加を強制しながら1947年の始まりまでじっくりと味わい、ナプキンで口を拭くと、真っ赤に染まったナプキンを見てシミジミと饗宴を振り返りゲップを出した。


 ハクトウワシのローストは綺麗に骨になった。骨は髄を割られ出汁を取られ、スープとなる。スープの名前は「北米狩猟区」と言う。東西沿岸を抑えられ生き残りは腐敗した大地に追い立てられた。


 彼らは合衆国の遺民と、旧大陸から移送された死者の支配に異議を唱えた愚か者で構成されている。彼らはそこで伸び伸びと肥育され、怒りと諦めを覚えながら先住民の襲撃に怯え、奪い合い殺し合い支配者による収穫と摘まみ食いを受けるのだ。


 いまや世界は平穏に包まれている。世界人口は目減りし過ぎた。今は回復を待たねばならない。では回復したら?安心して欲しい。死者たちは限度と言う物を知っている。生者は限りある資源なのだ。


 戦争は終わらない。だがそこににあるのは死者たちによる限定戦争だけだ。世界に核を作れる国は無いのだから、少なくとも世界の大半が一日待たずに焼ける事は無い。


 大日本帝国もまた安寧の内にある。国民が知るのは1947年に米国が消滅した事実と、太平洋が事実上、日本の物になったと言う事だけだ。逆らう事の出来る国家はない、世界は日本の同盟国とその影響かで生きる事を余儀なくされた小国ばかりであり、何れはその小国も死者の支配に屈するであろう。


 時間は幾らでもある。生者は忘れ慣れてしまうが死者は違う、支配者たちは永遠を共有する兄弟となり、終わることなく生者を痛めつけ搾取する喜びを共にし続ける。

 

 永遠の世界で大日本帝国は繁栄を続けるであろう。


 世界は兄弟!皆死体!ネクロ大戦大日本 終わり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ