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天孫墜落 ~開けろ!日本軍だ!~

加速し続ける馬鹿展開は危険な領域へ!

 北半球に暑い季節の本格化が始まった8月14日、日付も変わろうかと言う夜の闇の中、合衆国の心臓部と言える五大湖周辺工業都市群、その上空で一つの流星が流れて落ちた。


 大気と衝突したその凶星は大爆音を撒き散らしてヒューロン湖に落着し、その轟音は、ここ最近政府から配給される様になったドリームキャッチヤーによって、漸くの事安眠を出来る様になり夢の世界にいた合衆国の良民をベットから叩きだした。


 パトカーのサイレン、犬の鳴き声、子供の叫び、寝間着のまま家のドアから飛びだしで何が起きたと喚いて騒ぐ人々。


 これが西海岸なり東海岸であれば、「すわ!日本軍の攻撃か!」と混乱の度は日が昇るまで加速し、人々は眠れぬ夜をラジオに齧りついて過ごすか、気の早い者はショットガンを取り出して我が家にバリケードを築き始める所である。


 だがここは海からは千キロ以上も離れている内陸も内陸である。一しきり騒いだやや危機感の薄い人間の中には「いい加減にしやがれ!明日も早いんだ!」と寝直す事にする者もいる。


 無理もない。合衆国は事実上の戦時体制、それも本土防衛と言うほんの数年前まで考えもしなかった危機の中にある。旧大陸は今や化け物の巣であり、いつ何時その元締めである日本が攻めて掛かって来るかは分からない。


 外交断絶状態にある欧州と違い、大日本帝国は話は出来る。出来るが、彼らが話す言葉は全てが嘘だ。合衆国の国民にとって今や日本と言う国は人の皮を被った何かであり、人の言葉に似た鳴き声を出す怪物としか思えない。


 そんな相手が太平洋の向こう側にいるのだ。五大湖周辺の工業都市は、国家の存亡を掛けて本土防衛の為の兵器群を製造し続けている。


 

 そんな労働に従事する労働者の一人である、デトロイト郊外ニューヘブン在住のグロスマン氏が、季節柄寝苦しくある寝所に戻ろうとしたのも、日頃の重労働から仕方がない事であった。


 氏は典型的なブルカラーの白人労働者で、妻一人子供二人、それに妻の両親の6人暮らし、1936年からの好景気もあり、一軒家と二台の中古フォード車を手に入れ順風満帆な人生を送っていたが、止せば良いのに若さに負けた義理の両親が子供をこさえ、義理の母は妊娠、義理の父は欧州出征で行方不明となり、これから増える事になる年の離れた叔父だが叔母だかの生活の面倒まで見ないといけない事態に見舞われて、一家の生活がドーンと肩に乗っている。


 だから早く寝たい、今まで過重労働を支えていた日本製の薬は品薄で、生活の要であった若さと健康の担保は消えつつある。出来る事なら戦争などしないで国は日本に頭を下げて欲しいとすら思っている程だ。(口に出したら魔女狩りに会うので言わないが)


 そんな氏が、騒ぐ近所を尻目に家のドアを閉め、心配そうに顔を出していた妻に早く寝所に戻る様に言った所で、彼に、彼と彼の家族に、そして合衆国の全国民にENDTIMEの鐘の音が高らかに鳴り響いた。


 具体的には居間の方から、屋根を突き破り、二階の物置を破壊し、折角高い金を叩いて買ったソファーを二つ折にしてドンガラがっしゃーんと物凄い音を立てた。


 何事かと急いで居間に駆け付けた夫妻目にしたのは、腰の部分まで床に突き刺さった物であった。余の事に唖然とする夫妻。脳が理解を拒んでいた。


 しょうがない事なのだ。物体はどうやら人間のようであり、もぞもぞと動いて己を引き抜こうとしていたのだ。そして唖然とする夫妻を尻目に物体は己を床から引き抜いた。


 そしてあまつさえ訛りの無いキングスイングリツシュで夫妻に話しかけてきたのである。


 「お休み中失礼。どうも日本軍です」


 物体。かなりの部分が煤に汚れた昭13年制式軍衣を身に纏い、襟章に菊と三つの星が光る人物は蔓の曲がった眼鏡を直しながら気恥ずかし気であった。


 如何にも間抜けな感が否めないが、合衆国終わりの時、それを告げる大日本帝国による第八種接近遭遇はこうして始まりを告げたのである。



 


 訳が分からねーよ!何だよこの超展開!と言わないで欲しい。これは空挺降下であり、航空挺身攻撃なのだ。史実義烈空挺隊の如く、大元帥自ら率先して近衛を率い合衆国に親征を行われたのである。


 大元帥ばかりではない。陸軍から東久邇宮、海軍から伏見宮始め、各皇族軍人の皆々様も大挙して、神武東征に勝るとも劣らぬ大征戦にして大聖戦に御出馬あそばされている。


 それこそが、今合衆国を襲っている一大空挺攻撃の秘密でもある。


 ではご納得の行くようにご説明しよう。常識を廃して納得して欲しい。まず魔法とか死霊術とかある世界にこの世界は変わっているのであるから、嫌でも受け入れる他ないから諦めて欲しい。



  なし崩しに始まりいい加減に終わってしまった第二次世界大戦、死霊術というプラスアルファが加わっていたとしても各国の技術研究が止まった訳ではないし、正式には参戦していない大日本帝国が、大戦が齎した驚異的な技術発展から置いてけぼりだった訳ではない。その裏で大日本マッドサイエンス帝国は技術的な発展を横取りしている。


 横取りである。欲しければ死んだ技術者をそこいらの死体に縛り付けて鞭打てば良いし、生きていても農奴やら奴隷に落とされているので好待遇で迎え入れれば良い(米国に逃げるようとしたらわかるね)


 そんな中、積極的に帝国に取り入る技術者も出て来ていた。モスクワに戻る事も敵わず農奴かシベリアで死ぬかを選ばされたセルゲイ・コロリョフと安価な死霊術兵器量産に予算を取られこの世界では不遇を囲っていたヴェルナー・フォン・ブラウンである。

 

 彼らロケット技術者は、退化し続ける祖国に見切りをつけ、かと言って米国に逃げる事もできず、一縷の望みを大日本横取り40萬帝国に掛けざるを得ないでいた。憧れは止められないと言う奴である。


 ロケット開発は犠牲の積み重ねである。無数の失敗と屍を積み上げて史実の人類は遂に大気圏外に人を送り込めるまでになった。


 何故にそこまで苦労があったか?ロケットとは無人の段階で劇物であるヒドラジンを燃料に使い、少し小突いただけで爆発、空に撃ちあげれば空中分解、発射すれば女湯に突撃、人を乗せれば溶けました等と言う真に繊細で我儘なお嬢様だからだ。


 普通に運用しても平然と人死にがでるのである。人死にがでれば安全に考慮しなければいけないのだ。そうすると如何しても計画は遅延する。ロケット燃料を素手で扱わせてバタバタとユダヤ人を消費できるならば別だが。


 逆に言えば、人が死のうが機材が吹っ飛ぼうが構わない安全性ゼロの物ならば研究は早く進む。ヒドラジンを浴びて溶けたパイロットが残った首で報告しに来るとロケットエンジンの研究は大いに進み、吹っ飛ばされた労働者がフォン・ブラウンをタコ殴りにする為、あの世から戻って来るなら事は早い。


 彼が今まで消費したユダヤ人に憑りつかれて四六時中ボコられても良い体に魔界転生しているともっと早く高くロケットは空に舞い上がれる。


 その結果生まれたのが異形兵器群である。なにも無策で帝国は対米迎撃計画を練ってはいない。小笠原なり硫黄島近海にでも近づけば噴龍怪(改ではない魂入りだから怪だ)と桜花怪(死体入り)の長距離射撃が艦隊を襲うであろうし、B29は元より、B36であろうと臭水(秋水が正式名称だが腐臭を放って飛ぶのでこれで良い)の迎撃を受けるであろう。


 兵器ばかりではない。海外から拉致ないし招聘されたロケット技術者を夢中にさせたのは労働力の確保や非人道的実験の無制限許可の他、死霊術の積極利用だ。


 エーテル理論だの、魔力炉だのと非科学的な言葉に死んだ目を一時はしていた彼らであるが、目の前で存在が実証されれば、俄然やる気を出し、ファンタジー物質の理論化に取り組、次々と失敗と成功を積み上げていた(失敗9成功1で)

 

 


  さて此処からが本題である。生半可な方法では米国上陸は困難で有ろうとは、促成栽培の軍事知識しか持ち合わせていない永山以外、日米対立の本格化を意図した時点で帝国指導部は考えていた。


 楽観してはいた。国家と言う物があれだけベロンベロンされて仕掛けて来ないとは思わなかっただけだ(1936年以前の帝国であれば、暴動、造反、革命のコンボを決めている筈だ)


 であるので永山には黙って、とある計画をスチャラカ軍団の長(皇族)たちは画策していた。それが合衆国の空に流れた一条のスターダストである。



 1945年7月

 

 日本本土に大艦隊が突如として出現した。その報を合衆国は諦観を持って受け入れた。例の陸上艦艇群が陸でしか行動出来ない等と矢張り嘘だったのだ。


 焦りはない。失われた筈の連合艦隊が丸々温存され、幾らかの新造艦艇が竣工しようと、これまで確認された陸上艦艇工廠数では合衆国の生産数に追い付く迄は時間はある。チャイナに新造工廠が急ピッチで建造されているようだが、日本本土攻撃までに間に合う筈もない。


 これからの戦争は核の有無が決するのだ。そして地上に置いて各兵器を運用できるのは合衆国ただ一国である。少なくない犠牲を払って確認したドイツ重水生産施設は完全に放棄されており、欧州方面はど田舎に返りつつある。


 まして日本が核開発?無理だ!絶対に無理!確信できるし確認した。怒るのも飽きたが、大使追放に至るまで日本本土は元より、チャイナ、マンチュリアまでほぼ自由に旅行できたのだ。


 だから焦りはない。余裕はまだあるじっくりと待ち。圧倒的な艦隊とそれを隠れ蓑にした核の集中運用で日本本土は元より大陸沿岸を吹き飛ばし、当面の合衆国の安全を確保する。欧州はその後、何年掛かろうと核の炎で汚れた大地を浄化してやる。


 無理ではない。気奴ら目が似非科学と非常識で来るならば、こちらは正々堂々と科学で捻じ伏せてやる

その為の核研究であり、ローレンス・リバモア国立研究所はロスアラモスに変わる新施設として無理を通して建造中だ。併設して大聖堂すら立てている。気に食わんがこれから生産される核関係施設は徹底的に聖別して運営される。キリスト教徒以外は立ち入り厳禁。


 オッペンハイマーが「世界を滅ぼす気か?」等と騒いでいるようだが、我々はテラーの言を聞く。彼の提唱する水素爆弾こそが、合衆国を、世界を、死体から救うのだ。


 

 「だがこれは懸念材料だな」


 1945年8月5日。合衆国大統領は一枚の引き延ばさた写真を見ながら呟いた。


 「ロケットか、、、」


 「おそらく、、、このサイズの発射施設ならば明らかに合衆国は範囲に入ると思われます。トラック諸島の監視は日に日に厳重になっており、それ以上の事は分かりませんが、日本は我が国への攻撃を意図していると考える他ありません」


 「何を積むつもりだ?科学兵器か?また分けの分からん魔法云々か?いい加減にしてくれ、三流紙は読み飽きたぞ。あんなもの見ても不安が増すだけだ」


 合衆国はあらゆる頓智気を警戒している。空中艦隊、地中攻撃、幽霊船団、氷山空母に死体復活薬の大量散布、電送人間、透明人間、半魚人大襲来。


 勿論いま大統領を悩ませている大規模飛翔体の攻撃もだ。


 予算が飛んで行く、人員は疲弊する。だが止められない。止めない為に大量動員し、カナダを占領、メキシコに圧力を掛けて人員を出させてさえいる。


 「先制攻撃しかないのか?」

 

 やりたくはない。時間は味方なのだ。引き延ばすだけ引き伸ばして核を量産、できるならば試作される水爆だとて投入したい。B29を超える超重爆のコンペも始まっている。


 大使追放も本当はやりたくなかった。暴走する民衆と、事此処に及んでいると言うのに政権奪還に燃える共和党の横やりがそれを許さなかっただけだ。宗教界の影響も無視できないレベルに増大してきている。終末主義者の増大さえ警戒せねばならない。


 まだ耐えられる抑え込める。けれども始めてしまえば止める事など誰にもできない。不完全な状態で自分たちは死体と殴りあって勝てるだろうか?向こうは消耗戦のプロなのだ。なにせ既に死んでいる。

 

 「ハワイへの核の輸送は完了しています。ご命令があれば一両日中にもトラックへの核攻撃は可能です」


 「少しまって欲しい。日本はまだ我が国の大使を追放していない。超重爆の情報をリークしても構わんから核使用をチラつかせて交渉に持っていけ、時間を稼ぐんだ。それを突っぱねる様ならそれまでだな」


 「承知いたしました閣下」



 この交渉の結果は既に出ているので、詳しくは述べない。大日本帝国はトラックにある発射施設の撤去を拒否し、合衆国は先制攻撃の覚悟を決めた。そして、、、





 「別段にこいつは赤道から打ち上げなくても良いのです。嗚呼、科学だけに捕らわれているとは悲しい。人間割り切りが大事ですよ割り切りが、出ないと宇宙になぞ永遠にいけません」


 鹿児島県内之浦町にて打ち上げを待つ秘密兵器、「霊的大気圏外大質量輸送艦」と言う仰々しい名前で呼ばれている、腐肉とエクトプラズムで覆われた嘗て「大和」と呼ばれていた戦艦の機関室で開発主任であるヴェルナー・フォン・ブラウンはトラック軍港消滅の報に対してコメントを行った。


 まんまと合衆国は罠に嵌ったのだ。最初から最後まで欺瞞と幻想で戦う積りの帝国に真実など一遍もない。


 「まあ、本土を核攻撃されては敵いませんので、そろそろ行きますかね。覚悟は宜しいですかマインカイザー?」


 「うん、宜しい。永山君もそれで良いね?」


 「もがぁあああああ!うむぅううー!くぬー!!!」


 「良いそうだ」


 「それは重畳。ええとドクトル永山、貴方が頑張ってくれませんと大気圏外で自壊する恐れがあります。死にたくないのでしたら本気を出して下さい。強度等度外視してますから大気圏突入も御覚悟を、コロリョフ君の試算では高度二千程度迄はバラバラにはならない筈ですよ多分」


 「次合う時は現地だな。気密はしっかりしているから数時間は酸欠にはならんよ、ではご機嫌用」


 そんなフォン・ブラウンと会話しているのは、今回の親征の立案者である魔王と鎖と経文と蠕動する腸と何だかよく分からないチューブでしっかりと「動力炉」に固定された永山である。


 永山の方は非常に不満そうでもがもがと言っているがバタンと動力炉のハッチが閉められると諦めた様に静かになった。


 「そうそう。人生諦めが肝心だ。では頼むよ」


 「承知しました。打ち上げ準備開始!」


 永山の無駄な抵抗が止んだ事に満足した魔王は、隣にいる宇宙に魂を売った悪魔に打ち上げ開始の指示を飛ばした。


 その言を聞き、厳かに備え付けの無線で外部に命令をする悪魔。途端に艦内全体に血とエクトプラズムの混合物が充填されて行く。この為だけに幾人の人間の血と魂が消費されたかは分からないが、悪魔としては宇宙に少しでも近づけるなら満足だ。


 


 「ホントに飛ぶんですかねあれ?」


 打ち上げまであと数分を残した打ち上げ指揮壕にて、糸川英夫は、艦内にいる宇宙馬鹿と同じく本計画の立役者の一人であるセルゲイ・コロリョフに疑問をぶつけた。


 「実験では美味くいったヨ、動力しだいヨ、ダイジョーブダイジョーブ!コンジョーよコンジョー!ツァーリもナガヤマもいる問題なし!」


 頑なにドイツ語でしか話さないフォン・ブラウンと違い、拙いながら日本語を話す事に抵抗のないコロリョフは糸川に何とも頼りない返事を返した。

 

 「その動力が問題なんですよ!陛下に皇族方でしょ失敗したらどうなる事か、、、」


 「ダイジョーブよアナタもワタシももう死んでる!皆キョーダイ!皆ヴィイ!ほら飛ぶよ!」


 糸川は心配をさらに口にしようとしたが、コロリョフの言葉に指揮壕の覗窓に目を移すと、冷気と叫ぶ怨霊の悲鳴を撒き散らし艦は母なる大地を汚しながら離床していく。


 感動の余、指揮壕を飛び出した二人を含む職員の見守る中、高く高く化け物と化している二人の魔の目に追えぬ程高く、艦は空の彼方に消えて行く。


 「ホントに飛んだよ、、、アレが、、嘘みたい、、、」


 万歳の声が響く中、糸川英夫は我知らず呟くのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この後どうなるのか、今一番気になっている作品です。 理解はできるが予想ができないのが本当にワクワクです。 [一言] フォン・ブラウンはあちこちで魂を悪魔に売っているなあ
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