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暗黒帝国の勃興 

 大日本帝国の朝野を揺るがした226事件からひと月あまり、人々は暗い時代の訪れを予感していた。


 特に帝都においてそれは視覚的にも顕著である。


 あの日、御上が直々に賊軍を討伐し、ズタズタになった死体を激写した写真が、回収騒ぎになった朝日新聞に載った日。皇居周辺には常に黒雲が立ち込め、朝夕、何処からか湧きだした霧に閉ざされる事になっていた。


 帝都の住人は怯えている。霧の中に、夜の闇に、何か得体のしれないモノが、蠢いている様に感じられるからだ。


 不思議なことに、そのような状況では、犯罪率もうなぎ上りしそうであるが、帝都での犯罪件数は下がり続けている。


 当たり前だ、犯罪をする気にもならないのだから。


 不可思議な事が多すぎる。警察が踏み込んだ時には、血だまりしか残されていなかった社会主義者のアジト、家を出た切り、行方不明になる元皇道派将校、殺人事件の容疑者が体中の血を抜かれた状態で日本橋に吊り下げられる。


 何かが起こっている。自分たちでは理解できない何かが。


 その内、奇妙な噂が立ち始めた。狐に化かされた、猫が二本足で踊っている、ノッペラボウに出くわした、帝都には一度入ったら二度と出られない迷路の町がある。コソ泥やかっぱらいが、霧の向こうに引きずられて行く所を見た。


 地に染み込む様に恐怖が帝都を覆っている。勇気を奮い、噂の出どころを探ろうとした者もいるが、青い顔をして戻って来る。中には真っ白い顔で引きこもり、夜しか顔を見せなくなる者さえいる。


 真実を語ろう。全て本当だ。


 邪悪なる死霊術師は、妖魔蠢く魔性の都市に、帝都を変えようと画策している。


 それが支配の第一弾だ。なお、夜の貴族の仲間入りをしたお歴々に


 「昼出歩けないのは困る、国会を何時まで休めばいいんだ!」


 「悪人なら味見して良いだろ?社会主義者なら良いよね!」


 「折角人間を超越したのだ、朕もお忍びで帝都を観光したい」


 とせっつかれたのが理由ではない。多分。


 ただ。


 「「あーあ、なんかやる気でないなぁ、協力するの止めようかなー、すんごい魔法使いさんに、全て投げて棺桶で寝てようかなー」」


 と言われると、弱いのは永山だ。ゲームのキャラと違い、自由意志を持つ人間は、コマンドを打ち込めば唯々諾々としたがってはくれないし、好感度も表示されない。


 「くそ!洗脳したろか!でもそうすると唯の抜け殻では仕事が、、、」


 ここは一応内外合わせて、一億を超える国家なのだ、やる事は幾らでもある。主人たる邪神を喜ばせる大混乱を世界に巻き起こす為には些事にかまってはいられない。


 「我慢だ、我慢、好き放題させて協力してくれるなら其れで良い、飯代も浮く」


 食欲旺盛なのも問題である。彼が気づいた事であるが、不死者への変貌は、犠牲者に不可逆の変化をもたらしている。


 欲望に少し正直になったのだ。近代人の悲しさか、ブラッドプールで泳ぎたいとか、人間牧場作って楽しみたいとかの、ゲーム世界での、堕落した王侯の様な者はいまだ出ていないが、大日本帝国の真なる貴種たちは食欲に関しては我慢できない。


 帝都での犯罪率の減少傾向はこれが理由だ。一般人に襲い掛かる事はないが、悪人ならイイやと、夜の支配者の能力を十全に使い、ハンティングに勤しんでいる。


 永山の方にも養う手段はある。ゲーム中で制作できる、死霊術師専用のお供クリーチャー維持設備はこの世界でも制作可能だ。ゲームのフレーバーではなく、真からその邪教の建造物を理解し、大地を汚しながら打ち立てる事はできるし、急ピッチでやっている。


 だが


 「「「不味い!新鮮さに欠ける!冷たい!人肌に温めて!」」


 と言われるとどうしようもない。流石は高貴な方々。味にうるさい。


 「儂は良いと思うのだが?皆さん贅沢ですな」


 文句を言わないのは、奴隷経験のある高橋是清くらいだ。 


 「そう言ってくれるのは、高橋さんだけですよ、、」


 思わず、永山も愚痴を零した。不死者を支配する悪の魔術師のつもりが、我儘な幼稚園児の世話係の様になってしまった。計算違いも良い所だ。


 「儂、慣れてるからね。所で儂らが昼間も外を出歩けるようには、そろそろなったのかいな」


 その点は問題ない。死霊術の穢れを阻んでいた、帝都各所の宗教施設や聖地には、御上からの下賜と言う名目で、汚れた聖遺物を送り込んである。


 もう少しで帝都は穢れの魔力に満ちた土地に変わるだろう。そうなれば日差しの中で歩いてもチクチクするくらいで済む。


 ゲーム内では単なる換金アイテムだが、現実では特級の呪物だ。宝石やら金銀があしらわれた芸術品の形をとっているので向こうも喜んで受け入れた。一度敷地内に自分の意思で受け入れれば、忽ち辺りは汚染される。

 

 「そりぁあ良い。政友会の連中、儂が重症だなんて噂を立てて、引きずり降ろそうとしておる。折角、不死になったんだ、儂は引退などせんぞ!この世が滅茶苦茶になるなら、帝国が最後まで立っている様にするまでだ!」


 高橋は生前なら絶対に言わないであろう言葉を吐いた。


 不死者の不可逆の変化はもう一つある。主人たる永山の、究極の目的に、何だかんだと言って逆らわない事だ。その範囲内で我儘は散々言うし、自分の我は通そうとするが。


 ともあれ、邪なる計画は順調に進んでいる。今は帝都だけであるが、何れは日本全国を……そして世界を穢れは包むであろう。


 「そうだ永山君、聞いたかね?御上が秩父宮様を誑かそうとした連中を、近衛と討ち取って回っているらしい、昨晩は、北とか言うのの首が乾門に掛かっていたとか、、」


 「あのお方は~!」

 

 だがその前に、凄ーくアグレッシブになったお方を、御留するのが先になりそうではある。





 


 

 私事になりますが、長らくROMっていた、掲示板の管理人の方のお身内に、ご不幸があったそうです。この場を借りて、お悔やみ申し上げます。


 この書き込みがご不快な方がおりましたら、直ぐに削除いたします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 群体になるか、食料を無限に出せるか、地獄の蓋を開くか、メイドさんでないとアメリカさんには勝てないのか、、 続き楽しみにしています。
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