太陽の生まれた日、そしてようこそ暗黒の時代へ
以上の様な黄昏の訪れは外野で見ている分には大変に面白い物であろう。彼らが積み上げて来たものが崩壊していき、敵味方関係なく理不尽な出来事の連続で自壊していくのを傍で見ているのは最高の娯楽だろう。
だが巻き込まれれる側にしてみれば、迷惑至極で理解不能な出来事である。それは勢い込んで旧大陸に乗り込んだ米派遣軍にしても同じ事である。
欧州は瓦解しつつある。
アレキサンドリアに司令部を置いた米英合同軍の齎した情報には米本国も混乱する他はない。何しろ敵が消えてしまったのだ。
消えてしまったである。何故ならば上陸を企図ししていたイタリア半島を含め、枢軸各国は各地で「反乱発生」の悲鳴を上げた後に沈黙しているからだ。
これは苦労して構築した諜報網からの報告にしても同じである。分かるのは何某かの一斉摘発を受けてスパイや協力者は殆どが狩りだされ、辛うじて生き残ったであろう者たちからの最後の連絡は「奴らは全てを破壊している!死人共は現代文明を消そうとしている!」との不可解な物だけであったからだ。
欧州は沈黙した。それこそ死んだ様に黙ってしまった。敵中枢は電波を一切発さなくなり海底ケーブルは謎の切断、空からの偵察も継続はされている爆撃にも無反応になっている。
人間が居なくなった訳ではないのは分かる。その証拠に都市からは追い立たてられる様に人々の群れが地方に移動する流れが確認できたからだ。
追い立てているのは明らかに死者だ。そしてその先には肥え臭い農村地帯と広大な農園が死者の手により構築されつつあるのが確認できた。
もしあるべきだった未来の知識を持つ者、若しくはソ連経済の実態についてよく知っている者が見れば、下放」や「集団農場」そして「原始共産制」等の忌まわしいフレーズを思い出すであろう光景である。
「「なにしてんの?総力戦の最中でしょ?労働力をどこに回してんだお目出てぇなぁ?脳味噌は入ってるんですか?それで勝てると思ってるの?」」
真っ当な判断力を持つ米英首脳部は首を傾げる他はない。だが首を傾げているばかりでは戦争が終わらないのも事実だ。既に欧州解放の為の計画は動き出している。今更それを止める事は出来ない。
1944年7月に入り、ドイツ経済に留めを差すべく英本土からのドイツ工業地帯への爆撃は本格化し、サレルノへの上陸作戦であるアヴァランシェは発動されようとしていた。
何故にそこまで急ぐのであろうか?相手はどう見ても経済的に死に体で明らかに自分から工業能力を捨てている様にしか見えないのにである。
それには訳がある。
一つは大日本火事場泥棒が動いたからだ。米英から見て、今までの戦争で散々儲けた三枚舌の死体卸売り業者は、保証占領と称して傘下の各国を動員し、ドイツが今まで占領して旧ソ連領に進軍し、易々とこれを解放、勝手に胡乱気で黴臭く生きているのか死んでいるのか分からない国家を樹立しつつある。
もう一つは枢軸?(?が付くのは、明らかにドイツの影響力が廃された様にしか見えない地域がある)はは抵抗の意思は捨ててないと思えるからである。
空には抵抗はない。海にもない。あれだけのさばっていた船幽霊は何処かに消え、ロンドンを襲い続けていた死体爆弾は影も形もない。本当に今まで戦争していたか?そう思える程空と海は静かで綺麗である。
だが陸は違う。ドイツの混乱を受け、アヴァランシェ作戦を欺瞞するべく、急遽立案された南フランスへの限定上陸作戦「ドラグーン」は完全に失敗した。
元より成功は期待していない。威力偵察、欲を言えばフランス南部への橋頭保を確保出来たら良い位で構想された作戦であった本計画は開始劈頭で座礁してしまった。
正直に言えばかなり成功は高いと目されていたが、そうは問屋が卸さなかったのだ。ドイツに反旗を翻した筈のヴィシー政権は自由フランスからの如何なる接触も無視し、呼応を期待したレジスタンスは反応なし、事前に浸透を掛けた特殊部隊は石を持って追われ当局に通報され逃げかえる始末である。
それでも強行されたは、日本軍と思しき集団がワルシャワに入城し、何を思ったのかポーランド王政復古の大号令を世界に向けてぶちまけたからだ。
これではオチオチとしていられない。精一杯に日本の暴挙を非難し、欧州戦争への不介入を突き付けたが先にベルリンに雪崩れ込まれればそれまでだ。
だからこその鳴り物入りの作戦ではあった。日本はこの期に及んでも対独宣戦布告はせず、空く迄混乱する情勢への正当な介入であるといけしゃあしゃあとの賜っているが信じられる物ではない。
そして、この完全に政治的要求に基づいた作戦は破城した。文字通り海に突き落とされると言う形で、竜騎兵は、馬事、水に叩き落とされたのだ。
上陸地点を埋める骨、骨、骨。戦艦からの支援砲火で何度掃き散らそうが、パイロットが疲弊しきるまで行われ地上掃射を行おうが、幾らでも湧いてくる骨の群れ、何処に爆撃しても、何処に巨弾を送り込もうと湧いて出て来る骨が全てを阻んでしまった。
上陸失敗とかそう言う段階ではない。枯渇したのだ戦力その物が。
米英とて馬鹿ではない。それに英国は死霊術を多いに利用しているのだから、死者の船団を大量に送り付けて橋頭保維持に断固として臨んだ筈であった。
それでも足りない、物量と言う物が圧倒的に足りない。ここに至り大陸での地上戦と言う物を米英は本カ的に思い知らされたと言える。
「相手の策源地に近ければ加速度的に敵戦力を増大する」
当たり前と言えば当たり前だ。士官学校でなくとも分かる簡単な事だ、そこいらの子供でも分かる。だが実体験するのと卓上の理論は違う。数百万の骨に押し流されて米英、特に米国は正に骨身に染みて危機的状況を理解できた。生半可な物量では勝利は得られないのであると。
「このままで行けば勝てない。負けはしないが勝利は決して手に出来ない」
だがそれで諦める米国ではない。彼らは決意した。
「「火力を!更なる火力を!陸上戦艦を量産せよ!聖別兵器を量産せよ!乾坤一擲の大火力!それを持って奴らを墓場に追い返す!勝てないのは火力が無いからだ!物量には物量!鉄火で骨を圧し潰せ!」」
結論!火力不足!である。
ある意味でこれで荒廃からイタリアは救われた。伊本土上陸作戦は無期限延期とされ、欧州奪還への戦力は一元化される運びとなったからだ。作戦名は「オーバーロード」あらゆる火力をフランス上陸へつぎ込む大作戦が企図されようとしていた。
それは史実対日戦が起こらなかったこの世界にあって、アレが投入される事も意味している。1944年9月、ネヴァダ砂漠に置いて、科学者達の軽蔑と呆れの目を無視し、居並ぶ司祭たちの祝福を受け、三位一体の実験は成功したのだ。
同日同月
「米国もやるねぇ、永山君の言う通り、これでは我が国が逆立ちした所で真面に勝てる訳はない」
「ですからズルします。チートにはチートです」
「そうだな。それ位許して貰わねば勝負にならんよこれ」
「御上、そろそろお時間です。皆さまお待ちになっておられます」
「あっそう。もうそんな時間か。では言って来る。さあ永山君も」
「はい只今!私、盛り上げますよ!期待していて下さい!」
「うん、そうしよう。あれだね、最高のふぇすに仕様ではないか」
「勿論です!」
この世に人の手による太陽が生まれた日、帝都の中心の奥深くにて、対成す様に永遠の暗黒が生まれる盛大な祝宴が始まろうとしていた。




